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第16話 キミと『泣かす』達人。 6

「杉原先輩、恨みを払えてなかったんですか?」 扉を閉めたとたんに叶は質問をしてきた。 「払えてたよ。ただね相手に出くわすと恨みって沸々と復活するもんなんだよ」 これは誤魔化し何かじゃなく本当のこと、叶にもきっと覚えがあるハズ。 公立中学時代の虐めてた相手、憎くない? 「……ですが私にリベンジするため鍛えていたときにに喧嘩を買ったときに恨みを買ったんでは……私のせいではないですか……」 あぁ、やっぱし叶を泣かしそうで嫌な雰囲気。 俺は叶がいつもこれで済まされてくれる苦笑いを、思い切り優しく浮かべて 「俺はあのときの自分を後悔するのやめることにするから。……そしたら叶はもうこのことで自分自身を責めないでくれる?」 「…本当に自分自身を責めないでいたら…先輩も後悔するのやめてくれますか?」 「やめる」 俺がそうキッパリ言い切ると叶は少しただけ復活したように、苦笑いになった。 「お互いに『誓い会うキス』しようか。叶はキス好きだもんね」 「……はい」 「おいで、叶」 叶は俺に近付いてきてくれて、やっと叶に触れられる……安心した。 唇は重なり、叶の柔らかい感触を…名残惜しく啄んだキスをしたら、やっぱし叶は身を乗り出してくれて、 「……すぎはらせんぱぃ、たりません…」 「可愛いおねだりだね、キス深くしようか」 唇を噛みつくように深く重ねてあげてから、叶の口内に舌を侵入させた。 柔らかい叶の粘膜を舌で感じながら、唾液が混ざり合う激しいキスをしている最中に、いきなり病室の扉が開いた。 「っ杉原さん、なにやってるんですかっ!!」 すると叶は慌てて唇を離して後ずさった。 叶、キス見られて熟れたリンゴみたく赤くなっちゃって可愛い……。 「なにってキスしたいから扉閉めただけでーす」 入ってきた看護師が溜め息をついて 「ここは如何わしいことをする場所じゃありません」 「……ごめんなさい」 叶が消え入りそうな声で可愛く言うと、看護師は叶をまじまじと見て 「実は看護師の中で杉原さんに気がある人が何人かいるけど、私はこの綺麗な子のほうがよっぽど気が出たかな」 「ちょっと…なにそれ迷惑だなっ」 気なんて叶以外には俺は持たれたくないし、叶えに気を持たないでよ!! 「あと杉原さん、『もう一人の母親』という人から『探しだしました』と渡してくださいと頼まれたもの」 と、手渡されたのはニゲラの種の瓶だった。 ……なんでこんな時に? 俺は冷や汗を掻いていた。 「……杉原先輩、まさか探してたのは『私があけだニゲラの種』ですか…?」 ぎゃああああああっっ!! ……叶の様子を恐る恐る見たら…、無表情の中に『申し訳なさ』が見えた。 「……この怪我は……完璧にっ…私のせいではないですかっ……」 叶のデカい『綺麗』なビー玉みたいな目からおおつぶの涙が溢れ出てきた。 俺は思っていた最悪な展開になり溜め息を付いた。 その場にいた看護師あたふたしていた。 あぁ、もう言い逃れは出来ない、俺は笑って言った。 「叶のせいじゃないよ。ニゲラの種の瓶を落としたのは、俺の不注意だし……確かに夜道に探し回ってた。でも夜道に探さなくても時間はあった」 俺は叶を片腕で腰を抱き寄せて、胸にもたれ掛かった。 っ……あばらが痛い、ホントは息してるのも痛い。 「っ……痛かったですよねっ…辛かったですよね……?先輩……っ」 「イチバン痛かったのは、辛かったのは……大切な叶から貰ったニゲラを落としたことだよ」 俺は今度は作った苦笑いじゃなくて、心からの苦笑いで 「不用意に大切なものを持ち歩くのは良くないね、叶」 そう言ったら……叶は 「っ……ごめんなさいっ……ご…めんなさっぃ…せんぱぃ……」 盛大に泣いちゃったよ。 叶が泣くことないのにね。 「……だから叶のせいじゃないよ。……馬鹿な叶」 あぁー……なんで俺はいつも叶を泣かす達人なんだろね。

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