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第737話◇
【side*玲央】
四限が終わって、一緒に授業を受けてた奴らとは別れて、掲示板前で一人立つ。優月と待ち合わせ。
どっちから来るかな。
……昼、会った時、可愛かったな。走ってくる姿がほんと、じいちゃんちに居たポメラニアンみたいな。何であんな可愛いかな。
優月は別に女の子っぽい訳ではない。
でもなんかハムスターはそっくりだと思うし。ポメにも見える。
表情かな。
ニコニコしてて、嬉しそうで。
……ほんと、可愛い。
優月と付き合う前に、ああいうタイプと付き合ったことがない。
大体、オレに近づいてくるのって、女も男も、綺麗系が多くて。
純真そうな可愛い女子、とか居なかった。多分そういう子らにとってはオレは、きっとある種、怖かったろうと思うし、オレも面倒そうだなと思ってた気がする。
……だからそもそも可愛いという言葉が似合う奴らが居なかった、てな気がするけど。それにしても、もう会ってからの短期間に、可愛いを言いすぎてて、思いすぎてて、ヤバい気がする。
たまに、可愛い以外の語彙が何も浮かんでこないとか、我ながら、謎。
別にオレはいいのに、優月が気にして、周りの奴にオレの名前を言ってないから、あんまり人前で撫でたりしない方がいいのかとも思っているのに、何だか顔を見てると、手が伸びる。
ちょっと撫でるくらいならいいかなと思って、触れると、優月も、また嬉しそうに笑うもんだから、ついつい。
……とか考えていたら、ふと、昼に優月と居た、「春さん」が浮かんだ。
あとで話すと言ってたから、何か話すようなことがあったんだろう。
あの人が優月を見る目は、そういう好意はなさそうに見えるけど。
でも優月、可愛いしな。いつ、キスしたいってなっても――――……。
「玲央?」
いつの間にか来ていた優月が、オレを見つめていた。
「……優月」
「随分向こうから手振りながら来ちゃった」
えへへ、と笑って、オレを見つめてくる。
「玲央、全然気づいてなかったみたいで、ちょっと恥ずかしくなっちゃった」
「ああ、悪い」
「ううん。全然。行こ?」
笑顔で言って、ふと腕に触れて、優月がオレを引きながら歩き出す。
「ん」
――――……優月を好きだと思ってるのを実感するのは、こんな時かも。
こんな風に、少し触れられるのを、嬉しいと思う自分がいるから。
そっと触れる手を、愛しいと、感じる。
「寝なかったよ、授業。ちゃんと聞いてた」
「ん」
少し下にある優月の笑顔。
――――……キスしたいなーとか、思ってしまうが、まだ掲示板前から歩き出したところで、帰り途中の皆が居るので我慢。
校舎の裏側に通じる道を抜けて、朝、車をとめた駐車場に向かう。その手前の芝生辺りで、優月があたりを見回す。
「クロー?」
優月が呼んでも出てこず、残念、と苦笑。
「コンビニの方行くか?」
「んー。ううん。また明日探そうかな」
「どれくらい会いに来てたんだ?」
「んー? 適当。ごはんは、毎日貰ってるの知ってるからさ、会いたい時に」
ふ、と笑う。
「会った時は、まだ小さかったの。すっごい可愛くてさ」
「ああ、そうなのか……母猫は?」
「うーん、分かんないみたい。コンビニのおばちゃんたち、クロのお母さんが一緒に居るのは見たことないみたいで。おばちゃんたちがお世話してなかったら、オレが飼いたかったけど……でも家に居ない時間が長くて可哀想だから良かったんだけど」
「そっか……。優月って猫派?」
「んー、猫も犬も好き」
「あぁ。なるほど」
「玲央は?」
「んーオレもどっちも。……ああ、ハムスターも好き」
「……ん?」
きょとん、とした顔でオレを見上げてくる。
「それって、ハムスターって……」
「ん?」
「ほんとにハムスターが好きってこと?」
「……違うかな」
クスッと笑ってしまいながら言うと、優月はオレをじっと見つめて。
なんだかすごく楽しそうに、あは、と笑った。
「ん?」
「……うん、あの……今日お昼、色々あって。話すね」
言いながら、優月がクスクス笑い続けてる。
(2023/9/22)
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