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幕・56 野外の拷問

リヒトはぐっと唇をかみしめた。細く長く息を吐いて、諦めたような声で、 「一度だけだ」 「それでもだめ…って、その様子じゃ聞く気ないな?」 ヒューゴは深く嘆息。 「じゃ、ちょっと、拷問しよう」 「それで、望む答えを得られると思うのか?」 リヒトは冷静に返した。 「知っているだろう、ヒューゴ、僕はある程度までの痛みなら」 拷問、と言う言葉を、どうやらリヒトはまともに取ったようだ。ヒューゴは、 「まさか、俺がリヒトに」 わざとらしく目を見開いた。 「痛い思いをさせると思うのか?」 リヒトが面食らう間にも、わずかな音を立てて、執務室の扉の鍵がかかる。ヒューゴの力だ。 同時に、ヒューゴの視線が、周囲を軽く見渡した。それだけで。 周囲を、何かが覆ったのが分かる。 微かな変化に過ぎないが、周囲の自然の音が、少し遠くなった感覚があった。 「これで、―――――どんな格好をしても」 言いながら、浮かべたヒューゴの笑みが、ひどく淫靡だ。 「どんな声を上げても」 それは、どこまでも唆すような声。 「…大丈夫ですよ、皇帝陛下」 リヒトと目を合わせたまま、ヒューゴが、リヒトの足の間に膝をつく。 次いで、リヒトの膝を、左右に押し開いた。 見せつけるように、ゆっくりと。 そのまま当然のように、ヒューゴの手が、リヒトのスラックスのベルトにかかる。 「…よせ。食事はあとだ、会議が」 リヒトは厳しく拒絶。 古株の貴族すら慄く声である。 なのにヒューゴは意にも介さない。 「俺はちょっと、リヒトに自分の雄を思い出してほしいだけだよ。オスはメスを伴わないといけない」 あっさりと、ヒューゴの指が、リヒトの下着の中へ潜り込んだ。 掬い上げるように、イチモツを取り出す。 「捕まえた」 「…っ」 ソコが野外の風に当たった。慣れない感覚に、リヒトが微かに息を呑む。 かぁっと頬に血が上った。 あれだけの回数身体を繋げながら、リヒトからは妙に、羞恥心が消えない。 脚の間に跪き、ヒューゴがリヒトを上目づかいで見上げれば、彼はぐっと目を閉じた。 「目、閉じるのか? …いいのかなぁ、見てなくて」 「…何を、言いたい」 手にした陰茎の裏筋を、小動物でも可愛がるように、ヒューゴは根元から撫で上げる。 「俺、何をするか、分からないよ?」 試す口調。 その上、ベランダという、いつにない場所に緊張しているのか、リヒトの呼吸が浅くなった。 それらを感じながら、ヒューゴはうっとりとリヒトの性器を見つめる。 「相変わらず、キレーな色…太陽の下で見るとまた格別」 ヒューゴの視線に感じるのか、リヒトの陰茎が、ぴくり、ぴくり、と力を持って行く。 「先端に雫が滲み始めた…ああ、輝いてる」 雫はたちまち玉を結び、力を持ち出した幹を伝い落ちた。 「そん、なに」 頬を赤らめたまま、リヒトが難しい表情をして、薄目を開ける。 ヒューゴと目を合わせた。 「腹が減っているなら、仕方ない」 期待するように涎を垂らして待っているのは、彼の性器だと言うのに、欲しがっているのはヒューゴと言った態度で、リヒトはぼそりと告げた。 「食事、なら…早くしろ」 「いやだから、食事じゃなくて―――――拷問だって」 改めて、冷静な声で告げるヒューゴ。次いで、 「…っ、なに」 リヒトが驚いた声を上げた。 ―――――とろり。 撫でているうちに、力を持ち出した陰茎、その亀頭部分に、ヒューゴがいきなり、ローションを垂らしたからだ。 先ほど机から取り出したものだろう。 「冷た…っ」 慣れない感覚に、リヒトが声を上げれば、 「すぐ、ぬるくなる」 リヒトの抗議もどこ吹く風、とばかりに、ヒューゴ。そして。 ―――――敏感な亀頭部分を、掌で包み込むようにして、くるくると回すように撫でた。 たっぷりのローションを塗りつける。 「く…っ」 敏感な亀頭部分をくちくちと弄られ、たまらず、リヒトは奥歯で声をかみ殺した。 何かに耐えるように肩に力が入る。 悲鳴に近い声を放ちそうになった寸前、リヒトの手が亀頭から離れた。 「こんなもんか? どうだ、痛くないだろ?」 声もなく、は、は、と短く息を刻むリヒトの上気した顔を覗き込み、ヒューゴは満足げに頷く。 「あとで好きなだけイかせてやろうな」 次いで、手にしたローションの口を下に向ける。 中身が垂れる先にあったのは、絹のハンカチだ。それも、引き出しに入っていたものに違いない。 ローションを、布の上に垂らし、しとどに濡らすなり。 「服が汚れるのは気にするな。あとでちゃんと着替えさせるから」 動けないリヒトは、期待に疼く肉体を持て余すように、首を横に振った。 「ヒューゴ、間に合わなくなる。早くしろ。だいじな会議なん」 真剣な、言葉途中で。 ヒューゴはローションで濡らしたシルクのハンカチで、リヒトの亀頭部分を覆った。 リヒトの性器が中央を持ち上げる。 その両端を、ヒューゴは両手でぐっと握り、 「悪いな、コッチの話も大事だ」 言うなり。 包み込んだ亀頭の先端を刺激するように、ハンカチを左右交互に引っ張った。 摩擦による刺激に、 「ぅ、あ―――――――っ」 動きを固定されていなければ、リヒトは全身、仰け反りかえっていただろう。 たまらず、腰が悶えていたはず。 代わりに、どうしようもなく、女のような声を放ってしまった。 一瞬、会議のことも何もかも、吹っ飛んでしまう。 「あぁ、だめ、ソレ…!」 知らず、リヒトの声に涙がにじむ。

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