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第1話
熱くなる身体を持て余す。
余分な熱を分け合うように、押し付け分け与えるように、目の前の身体に愛撫を加える。
手で。
指で。
唇で。
舌で。
歯で。
「ん…あ……ぁん、きょ…すけ…」
「ああ、ここか?」
「ん…ん……はっぁ…ぅん…」
「なあ…」
「ん、すき…きょうすけ…すき…ぁ、あっ…」
アツいあわいの奥に差し込んだ指を、バラバラに動かす。
俺が良く見えるようにと足を抱え上げた左手は、ただ支えるだけになっている。
潤んだ目で宙を見つめ、志信は自ら足を開いてゆらゆらと腰を揺らす。
「かわいいな、お前……マジで……」
「この、エロおやじ…あっぁん……ふっ…ぅぅん…ん…」
「誰がえろおやじだ……どっちがエロいんだよ…なあ?」
「きょうすけ……」
「よく言った」
きっと、獰猛な顔をしてると思う。
食らいつく勢いで、押し当てた熱で一気に志信の体を貫いた。
「ああっ…あっあっんやっあっ…すきっ…すき…!」
「志信…」
「もっと…もっと、きょう、すけ…」
思うがままに身体を揺すれば、可愛い恋人は俺の背中に爪を立てる。
甘い甘い声を上げて。
「ああ…っぁ……きょうすけ、いい……いい、好き…!!」
俺の恋人は甘え上手のエロ魔人だ。
一瞬気が引けるくらいに整った外見をしていて、よく動く表情で、見た目を裏切るくらいに雑で元気。
そしてため息が出るほどに口が悪い。
けど、口の悪さ以上に、ベッドの中では凶悪なほどに可愛い。
俺だけがそう言っているんじゃないってことを、俺が知っているくらいに、可愛くてモテまくっていた。
そんな男が今では俺だけにその姿を見せる。
ホントなら閉じ込めて誰にも見せないでおきたいけれど、そんなわけにはいかない。
志信の生業は役者だ。
毎日が嫉妬の連続。
自分でこんなに我慢強いとは思わなかった。
それもこれも、志信を手元にとどめたいがため。
マジで、そんだけ。
散々かわいい声を俺に聞かせて、熱を分け合った後、清めた身体も冷めないままに、志信は俺に密着する。
『だって、安心する』ってのが、かつての言い分。
お互いにまだ駆け出し以前だった。
何で食ってるって聞かれたらバイトって答えなきゃいけないほど、若かった頃。
付き合い始めて、お互いを本名で呼ぶのが照れくさかった頃。
安心しきった顔で密着されて、そのままもう一回なんてこともあったっけ。
今ではお互い落ち着いてきて、密着されたからって第2ラウンドに突入なんてこともなくなった。
だから、構わないといえば構わないんだけど。
でも今夜は、いつものように安心しきった顔を見せるかと思いきや、すりすりと俺の胸に顔を摺り寄せながら、難しい顔をしている。
何かをじっと考え込んでいる顔。
「志信?」
「ん?」
「どうした?」
返事が返ってくるってことは、まだそれほど考えに没頭してはいないってことだろうけど。
抱き合った後の幸せそうな様子を見たい俺としては、心配になるだろ。
くしゃりと髪をかきまぜてやると、ほう、と一つ息をついて志信が言った。
「うん……いや、やっぱないなと思って」
は?
ない?
散々抱き合った後の感想がないって、お前、それこそないだろう。
「あ、亨輔のことじゃないから」
固まった俺に気が付いたのか、慌てたように志信が言う。
「……そ、それは、よかった」
「じゃなくて、今きてる仕事でさベッドシーンがセリフあって。やたらと『いや』とか『だめ』とかってセリフあんのな」
「は?」
ベッドシーンが、やたら、ある……?
やたらあるって、どんな仕事受けてんだお前?
お互いに協力してはいるけど、それぞれに受けた仕事に就いてはあんまり口を挟まないようにしてる。
してるけど、ちょっと待て。
それはちょっとどうかと思うって、言っていいかな?
「あ、顔出しじゃなくて何でか声だけの仕事で、相手役も男なんだけどさ」
「はあ」
「それを舌っ足らずな感じでかわいく、とか演出されるんだけど、やっぱありえねーわと思って」
「そうなのか?」
「誰の趣味なんかわからねえけど、きっと、経験不足だな」
一人で考え込んで、一人でしゃべって、一人で納得して。
この上なく俺のツボな顔で笑って、志信が言った。
「俺、亨輔とヤってる時にそんなの言えねえもん。亨輔、本気で聞き入れちゃいそうだし、マジで途中で止められたらこっちも困るし」
……。
誰かこの凶悪なエロ魔人を止めてください。
考え事に納得がいったからか、満足しきったような顔で寝る体勢にはいった志信に、俺が言えたのはこれだけだった。
「お前……そろそろ仕事選んでくれよ、頼むから……」
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