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身代わりじゃなかった花嫁
「陽葵 が男と逃げたわ」
母の言葉に、葵 はぽかんと口を開けた。
「だから、明日の結婚式は貴方に新婦として陽葵の代わりに出てもらうわ」
つづく言葉に、頭が真っ白になる。
真面目な顔をして、冗談みたいなことを言わないでほしい。
葵は笑おうとして失敗し、頬を引きつらせた。
「母さん、俺は男ですよ」
「そんなの知ってるわよ」
「新婦としてって……無理じゃないですか」
「なにが無理なの」
「いや、なにもかもですよっ」
母は眉をひそめて溜め息を零す。
溜め息をつきたいのは葵の方だ。なんでこっちが我が儘言って困らせてるみたいな雰囲気を出してくるのだ。
「なにもかもとはなんなの? 言ってごらんなさい」
「えーっと…………俺にドレスは着れませんよ」
「着れるでしょう。貴方は陽葵と体格が同じなんだから。違いなんて、胸があるかないかくらいでしょう」
「いやいやいや、ドレスなんか着ても、さすがに男だってバレますから!」
「気づかれないよう、きちんと着飾るのよ。そもそも貴方達は双子で顔もそっくりじゃない」
「だからって、無理ですよ。男と女じゃ……」
「あのね、葵。新婦の陽葵が逃げて双子の兄である貴方が代わりとなって結婚式に出たなんて、そんなことが世間に知られたらとんでもないスキャンダルよ。双方にとって汚点にしかならない。それならば最初から式を中止にした方がいい」
「だったら……っ」
「貴方ならば問題なく代役をこなせると判断したから、こうして話しているのよ。無理だと思っていたら、既に式を中止にしているわ」
「で、で、でも、新郎は……幸杜 さんは、こんなの納得しないんじゃ……」
「逆よ」
「へ?」
「幸杜さんの方から提案してきたのよ」
「は?」
「幸杜さんが、陽葵の代わりに葵を嫁にと望んでいるの」
「え?」
「貴方は表向きは陽葵として、幸杜さんに嫁ぐのよ」
「…………」
そもそもこの結婚はこちらの方がメリットが大きい。新婦に逃げられたなんてこちらの落ち度。本来なら責任を取らなくてはならない。それを葵を差し出すことで全て帳消しにしてくれると言うのだ。立場はこちらの方が下。断ることなど許されない。
と、いうことをつらつらと説明されて。
「最初から言っているでしょう? 新婦として陽葵の代わりに出てもらうと。貴方の意見は求めてない」
「…………」
「これはもう、決定事項なのよ、葵」
「…………」
既に逃げ道などなく。
葵の意思など聞いてもらえるはずもなく。
諦める以外の選択は残されていなかった。
思えば、陽葵はやたらと結婚式の流れを葵にしつこく詳しく聞かせてきた。結婚式が楽しみで浮かれているのかと思っていたがそうではなく、彼女ははなから葵が身代わりになることを見越していたのだ。最初から結婚する気はなく、逃げるつもりだったのだ。
気づいたところで、今更どうにもならないけれど。
それに、陽葵は葵にとって可愛い双子の妹だ。妹が幸せになれるのなら、身代わりにでもなんでもなってやろう。
葵は次男だ。家は長男が継ぐので問題はない。とはいえ、こんなあっさり次男を嫁にやらなくても。父と母にはそれなりに愛されていると思っていたのに、こんな形で手放されると切ない気持ちになる。
しかし葵には物思いに耽っている余裕などない。
まるで葵に合わせて設えたような体にぴったりのドレスを身に纏い、慣れない格好に戸惑いながらもつつがなく段取りをこなしていく。
大財閥の御曹司である幸杜の結婚式は壮大なものだった。参列者の多さに目が眩んだが、持ち前の度胸で乗りきった。
結婚式は粛々と進んでいき、何事もなく終わった。
葵は新郎と共に、ホテルの最上階のスイートルームへ移動する。式のあと新郎新婦が泊まるために予約していた部屋だ。
中に入り、葵はほっと息をつく。しかし、まだ気は抜けない。
新郎の幸杜とは殆ど話せないまま、式がはじまってしまった。今回の件について既に両親が深く謝罪しているだろうが、葵も兄として彼に謝らなくてはとずっと思っていたのだ。
掘り返されたくはないかもしれないが、二人きりになったこのタイミングで、葵は土下座するつもりだった。
幸杜に近づき、声をかけようとしたところで、ぐいっと腕を引かれた。着たままのウエディングドレスがヒラリと靡く。
タキシード姿の幸杜に抱き締められた。
「やっと二人きりになれたね」
「は? え、あ、はあ……」
「今日という日を迎えられて、僕は本当に幸せだよ」
「へ? いや、えっと……」
葵はなんと返せばいいのかわからない。
二人きりなのだし、演技の必要はない。もしかして嫌味なのだろうか。それもとショックのあまり頭がおかしくなって、葵を陽葵だと思い込んでいるのかもしれない。
「あ、あの、幸杜さん、俺……」
「葵と結婚できるなんて、こんな嬉しいことはないよ」
葵の名前を呼んだということは、やはり嫌味だろう。土下座をするつもりでいたのは間違いではなかった。幸杜はねちねちと嫌味を言わなくては気が済まないほどご立腹なのだ。
しかし土下座したくても、彼が体を離してくれない。
「あのですね、幸杜さん……」
「愛してるよ、葵」
「ふむぅっ……!?」
いきなり唇を塞がれた。それも幸杜の唇で。
無理やり舌を捩じ込まれ、口腔内を舐め回される。ぴったりと重なる唇が、流れ込む唾液を吐き出すことを許さない。息苦しさに身を捩れば少しだけ唇が離れるが、また角度を変えて貪られる。
誓いのキスとは比べものにならない濃厚なディープキスをお見舞いされ、葵はふらふらだ。
幸杜はぐらりと傾く葵の体を支え、そのまま後ろのベッドに押し倒した。
「ゆ、ゆきとしゃ……待って……」
僅かに唇が離れたタイミングで、顔を背けた。追ってきた幸杜の唇が、頬に落ちる。
パニックになりながらも、どうにか現状を理解しようと思考を巡らせた。
なぜキスをされたのか。なぜ押し倒されているのか。
嫌がらせか。それとも冗談か。まさか陽葵が逃げたというのも嘘で、葵に対する盛大なドッキリなのでは。いやいや、意味がわからない。なんのためのドッキリだ。じゃあやっぱり嫌がらせか。腹いせなのか。一番怒りをぶつけたいであろう陽葵はいないのだ。他で発散するしかない。だとしたら、葵に文句など言う資格はない。
自分なりに結論を導きだし、葵は体から力を抜いた。
息を整える葵の頬を、幸杜が優しく撫でる。
「ごめんね、葵。苦しかった? 嬉しくて、つい夢中になっちゃって」
「いいんです、幸杜さんの気が済むまで、好きにしていただいて」
「ふふ。いいの、そんなこと言って。葵のこと、滅茶苦茶にしちゃうかも」
「っ……は、はい。覚悟は、できてます……」
「ほんと? 嬉しいな」
「あ、あの、でもその前に、きちんと謝らせてもらえませんか?」
「謝る? なにを?」
「っ……陽葵の、ことです」
「陽葵ちゃんがどうかした?」
本当にわかっていないような顔で尋ねられ、葵は一瞬言葉を失った。躊躇いがちに、口を開く。
「………逃げた、ことです」
「それは、葵が謝ることではないよ?」
「で、でも、陽葵は俺の……」
「だって、僕が逃げるように勧めたんだから」
「…………え?」
なにを言われたのか理解できない。
呆然とする葵を見て、幸杜は微笑む。それは見惚れるような綺麗な笑顔で。けれどなぜか、ぞくりと背筋が凍る。
その笑顔を見て、葵は自分の考えが間違っていることに気づく。自分はなにか、重大な勘違いをしている。
「ど、どういう、ことですか……?」
「僕も陽葵ちゃんも、元々お互い結婚する気なんてなかったんだよ。僕も陽葵ちゃんも他に好きな人がいたからね」
「なら、どうして……どうして断らなかったんですか……?」
こちらの方が格下だから、陽葵が断れないのはわかる。だが、幸杜は断れたはずだ。結婚する気がないのなら。幸杜に相応しい結婚相手は陽葵だけではない。幸杜の両親だって、なにがなんでも陽葵と結婚させたがっていたわけではないはずだ。断ろうと思えば反対されることもなく、簡単に断れただろう。
幸杜は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「葵と結婚するためだよ」
「は……?」
「葵を手に入れるために、陽葵ちゃんと婚約したんだよ」
「なに、言って……」
「僕は葵と結婚したい。陽葵ちゃんは僕と結婚したくない。利害が一致した僕らは、手を組んだんだ」
「なん、なんで、俺と……?」
「はじめてパーティーで葵を見て、一目で恋に落ちたんだ。それからも何度かパーティーで見かけて、見るたびに思いは強くなっていった。絶対に僕のものにしようって、ずっと思ってたんだよ」
親に連れられて何度か参加したパーティーで、確かに葵も幸杜の姿を見かけたことがある。その綺麗な顔に見惚れ、堂々とした姿に憧れ、尊敬の念を抱いていた。だから彼が義兄になると知って喜んだのだ。
しかし、まさか幸杜も葵のことを見ていて、その上そんなことを考えていただなんて思いもしなかった。
「葵のご両親には、葵を嫁にほしいとはっきり伝えたんだけど、葵には伝えてなかったのかな?」
確かに言われた。幸杜が望んだことなのだと。
「……俺は、てっきり、体裁を整えるため、なんだと……」
離婚前提の結婚なのだと考えていた。
「酷いな、葵は。僕がそんな理由で結婚を望んだと思ってたの?」
「だって、陽葵の代わりだって、思って……」
「葵は代わりなんかじゃないよ。僕がほしいのは、ずっと葵だけだ。葵を手に入れるためならなんだってする。利用できるものは利用するし、汚い手だって使うよ」
つまり彼は陽葵を利用し、ここまで漕ぎ着けたのだ。
陽葵の気持ちはわからない。逃げられて喜んでいるのか、それとも幸杜に逆らえなかったのか。もう、確かめる術もない。陽葵が戻ってくることはないだろう。幸杜がそれを許さないはずだ。狂気を孕んだ彼の目を見て、そう確信する。
「やっと手に入れた、僕の葵……」
うっとりと微笑んで、幸杜は葵を抱き締める。
義兄になるはずだった男の腕に抱かれ、葵はくらくらと眩暈を感じた。
囚われてから囚われたことに気づいても、もう遅い。葵は逃げられない。彼が逃がさない。
きっと彼が葵を見つけたそのときから、こうなることは決まっていたのだ。
幸杜の指が、葵の唇を撫でる。
「くれぐれも邪魔しないようにって、ちゃんと言い含めておいたから。時間を気にすることなく愛し合えるよ」
「…………」
「忘れられない初夜にしようね、葵」
幸杜の笑顔は、こんな状況でも、葵の目にはとても美しく映った。
「ひぅっうっ、あっあっあっ、ひぁんっ」
はしたないよがり声が室内に響き渡る。
あれからどれくらいの時間が過ぎたのか、葵にはもう時間の感覚もわからない。考える余裕もない。
純白のドレスは乱され、半端に脱げかけている。けれど幸杜は脱がそうとはしなかった。
ぺろりとドレスを引き下ろされ、露になった葵の乳首は、散々舐めしゃぶられ噛まれて吸われて真っ赤に膨れ、唾液でべちょべちょだ。
首筋や胸元、腕や太股には数えきれないほどのキスマークや噛み痕が散らばっていた。
捲れ上がったドレスの下は、ガーターベルトに女性ものの紐パンを身に付けていた。どうしてこんなパンツを……と疑問に思ったものの用意されていたので穿いたのだが、これも恐らく幸杜が指示して用意されたものだったのだろう。
ガーターベルトの留め具は外れ、ストッキングはずり落ちている。
脱がされることのないパンツは、もう乾いている部分は残されていないほどぐっちょりと濡れている。
パンツをずらされ、さらけ出されたアナルには、ぐっぽりと男根が嵌められている。
固く閉ざされた入り口をふやけるほどに舐められたあとにローションを使って指でも執拗に解され、それは葵がもうやめてと泣いて縋るまでつづけられた。その頃にはすっかりぬるぬるに綻んだアナルは、長大な陰茎を埋め込まれても柔軟に飲み込み、痛みを感じるどころか強烈な快感を葵にもたらした。
肉壁を擦られただけで容易く達し、それに喜んだ幸杜がごりごりと敏感な膨らみを亀頭で抉り、葵は終わりのない快楽へと強制的に導かれた。
ぐちゅんぐちゅんと卑猥な音を立て、何度も内奥を穿たれる。腹の奧は既に幸杜の精子でたぷたぷだ。もう入らないのにまた注がれ、出し入れのたびに溢れ出ていく。シーツはアナルから漏れた体液でぐっしょり濡れて染みができていた。
「はひぃっ、も、らめ、ひぁっあっ、おちんち、もうなにも出にゃいぃっ」
「まだ出るよ、葵のおちんちん。ほら、お口ぱくぱくしてる」
精液を出し尽くした葵のぺニスから、幸杜は手を離してくれない。くちゅくちゅと先端を嬲り、鈴口を指の腹で擦る。
「あっ、らめ、らめなのっ、出ちゃらめなの出ちゃうぅっ、はなひて、ゆきとしゃ、あっあっ、お願、れちゃうよぉっ」
「いいよ、出してごらん。出しちゃダメなもの出しちゃう葵、僕に見せて」
「んひっ、ひあっ、あっあっ、あっ、~~~~!」
ぷしゃあっと体液が噴き出す。
「可愛い、葵。上手に潮吹きできたね」
全身を痙攣させ、ぺニスから大量の体液を噴く葵を見て、幸杜は恍惚とした表情を浮かべる。
葵はぼろぼろ涙を零し、喉を震わせた。
「ひっ、うぅ……もぅ、ドレス、汚すのやあぁ……っ」
もう取り返しがつかないほどドロドロに汚れてしまっているけれど。純白のドレスを汚すたびに、後ろめたいような気持ちが沸き上がるのだ。
ひくひくと泣く葵に、幸杜はにっこり微笑む。
「今日のために、葵のためだけに作ったドレスだから、いくらでも汚していいんだよ。寧ろこうして汚すために作ったものだからね」
やけにサイズがピッタリだと思っていたが、葵の体に合わせて作られたものだったようだ。
びっちょりと濡れたウエディングドレスを、どんな思いで見ればいいのかわからない。
「だから、もっともっといっぱい汚そうね」
「んひぃぃっ」
どちゅんっと、何度果てても全く硬度の衰えない肉棒で中を突き上げられ、葵は身悶えた。
「あっあっ、ゆき、とさ、あっひっ、むり、もぉむりっ、ひんっ、おれ、もうらめなのっ」
「気絶しても大丈夫だよ。その間も、ずうっと僕が愛してあげるからね」
それは大丈夫ではないのだ。それは葵にとって大丈夫とは言わないのだ。けれど、訴えたところで彼に通じないのはもうわかっている。
終わりの見えない、というか彼に囚われた時点でもう終わりなどないのかもしれない快楽に染められた地獄のような時間。
そこから一時でも逃れられるのなら、もう気絶でもなんでもいいと思えてきた。
「葵が望んだ通り、滅茶苦茶にしてあげる」
「んひゃあぁっ」
葵の言ったことを、彼は「滅茶苦茶にしてほしい」と解釈したようだ。滅多なことを言うものではない。もう二度と同じ過ちは犯すまいと、葵は心に誓う。発言には細心の注意を払わなければ、どんな勝手な解釈をされるかわかったものではない。
「愛してるよ、葵」
ずしりと重い愛の言葉に押し潰されるように、葵はそっと目を閉じた。
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