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第38話 魅了の真実

「大丈夫だ、可愛いから!」 「梓はもっと自分の可愛さに気付くべきだ」 「こんなエロいのに無自覚か」 雨あられと可愛いコールが降り注いだ、りーさんへじゃない、俺にだ。今全裸だってのに容赦ないな。魅了のせいなのではと半信半疑だったが、流石にこの熱量には勝てないと思ってしまう。リーさんは俺を心配することは決してなく、むしろ何か微笑ましいものを見ているような顔をしていた。 「お前ら、そんな無理しなくても……」 「「「無理はしてない!!!」」」 「す、すみません」 ようやく出来た反論も、戦火から逃れている健吾と蓮舫、何故か彼氏面な仁を除いた36人の大声でかき消された。まるで本当に俺にゾッコンとでも言いたいようだ。 「まあみんな可愛いって思ってるんだよ」 「黙れ後方彼氏面男め」 「二家本、タイマンだ」 「望むところだ」 喧嘩を始めてしまいそうになってる2人をなんとかと止めた。ああ、俺のために争わないでってこういう時に使えるのか。ようやく使い方がわかった。 そんな今世紀最大のつまらない気付きに自分で呆れていると、突然仁に腕を掴まれた。 「とりあえず俺の彼氏はちゃんと連れて行くからな。今回はまあネコ同士って事で大目に見てやるが、他の野郎が手ェ出してみろ、絞めんぞ」 仁の高圧的な態度に全員怯む事なく、逆に闘志を燃やしている。控えめに言って大乱闘寸前って感じだ。一触即発とはまさにこれ。 「じゃ、俺は安全なところで観戦するので……」 俺は戦いから逃れるように、逃げ回った。流石に城をぶっ壊すとかじゃなくて、殴り合いで終わりそうだ。しかしそれで収まると考える自分の感覚の麻痺っぷりに恐れをなした。 なんとか逃げたところには、蓮舫と健吾、そして2人を匿うように服を着ているリーさんがいた。いつの間に服着たんだ、俺なんてまだタオル一枚だぞ。 「あずささん。こちらで服を確保しておきました。今のうちに着替えて下さい」 「おれ頑張った!」 「うん、よく頑張ったね」 どうやら健吾がどさくさに紛れて服を取ってきてくれたようだ。蓮舫が頭を撫でると嬉しいのか、ぴょこぴょことした動きをとっている。俺も頭を撫でると、やったーと言いながら周りを小走りでテクテク回っている。 さて早いところ服を着よう。たとへどれだけ薄かろうが、布面積が少なかろうが、タオル一枚よりかは天国だ。それでも手足の鈴だけは自分で付けるのは躊躇ってしまう。結局必要な時につけようと、胸元に隠した。さて、この討論暴力なんでもありな大乱闘はいかがなものか。流石に誰も怪我はしてないみたいだし、とりあえずこの3人と一緒に様子をみよう…… 「おれも戦う! 梓守る!」 「柿原くん、待って!」 ……失礼2人だけになった。テンションが上がった健吾が、勢い任せに戦火に飛び込んだ。追いかけるように蓮舫も言ってしまった。闘拳士の健吾はともかく蓮舫は銃使いだろうに、まああの中には喜助もはじめとした魔法組もあるからついてはいけるか。 「申し訳ございません、僕が余計なことをしたばっかりに。まさか、こんな事になるとは」 リーさんが申し訳なさそうに謝られた。大丈夫なのに。これは俺も悪い部分あるし、第一クラス全員が脱衣所に乗り込むとか誰も考えないだろう。 「さ、左様ですか。……すみません、もう一つだけ宜しいでしょうか?」 「はい、なんでしょうか?」 どうしたんだろう。リーさんはさっきとは打って変わって、何というか、嬉しそうな顔をしている。俺に何か吉報を知らせたいかのように、冷静でおちついた顔に笑みが隠しきれていかった。 「内緒にするつもりはありませんでした。貴方が心配していた魅了の話なのですが、実は踊り子の魅了スキルは踊っている時《《のみ》》発動するのです」 ん?それってつまり…… 「そうです。踊り子の衣装を着ている、それだけでは魅了になどかかりようがないのです。もうお分かりでしょう?」 最初にいうが、俺はナルシストではない。というよりよほどの人気者でない限り、普通の人生でナルシズムに目覚める機会なんてそうないだろう。ナルシストとは自分を応援し続けられると言った種の一つの才能だ。俺にはそれはない。 だがここまでのリーさんの話と魅了スキルの発情条件。全てを包括したら、考えられる答えは一つしかない。少なくとも俺は一つしか導き出せなかった。 「全員……俺が好きなんですか?」 リーさんは優しく笑った。みんなが俺の事を本心で可愛いと、エロいと、天使だと思ってくれている。その事実は俄には信じ難いもので、それでいて言葉に出来ない喜びが俺の心を覆い尽くす。今まで普通に高校生活送ってきたのに、何で今になって…… 「よくある話ですよ。ふとした時にその人の魅力に気がついて恋をしたら、周りが全員恋敵だった。だと言った感じでしょうね」 どこの少女漫画の冒頭だよと思ったが、目の前の本気な顔したみんなを見ると一概に否定はできなかった。 「羨ましいですよ。こんなに求愛されるなんて、貴族でもない限りどの世界でもそうそうないです」 信じられない。この俺が、リーさんに勝ったのか?魅了も使わずに? そんなことあり得るのか。いや、あり得るのか。そうじゃなれけばここまで俺のためにみんなが戦うなんて怒らないだろう。向こうで殺し合い一歩手前になったところを、流石にまずいと喜助を始めとした頭脳派達が止めていた。これからは討論だけで決着をつけようとしている。 その様を、俺はただ見ていた。全員が俺を本心で愛してくれている。今はその事実を受け止めることで精一杯だった。

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