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第79話 晴雄の秘密

引き摺られるように脱衣所に連れて行かれた俺は、晴雄に牛乳を押し付けられた。これでも飲んであたまひやせってこったな。ひんやりするちょうどいい冷たさが俺の頭を蘇らせる。喉元を通れば牛乳特有の後味が、ああ、俺は牛乳飲んでるんだ、と言った感じで現実との辻褄が合わせられる。 「どうだ、気分はようなったか?」 「あ、うん。ありがとう」 ここで人と話すと、俺の意識は完全に覚醒してくれた。逆上せた時に鼻血が出なくてよかった、晴雄の行動が早かったおかげだ。そうやって過去の事を考えられるぐらいには、心の余裕ができている。 涼めそうな畳に座った俺の隣にきた晴雄。助けておいて恩を強調する事なく黙って何も言わないのは、男らしくてカッコいい。と言いたいところだが、いつまで経ってもフルチンなのはどうかと思う。俺にも原因はあるけども、それを受け入れてしまえばオレがド変態なようで過ぎればそれが狂人のようにも思えて、上手く言葉にできないが、認めたくなかった。 「ああ、そういえば」 「ん、どうした?」 そうだフルチンで思い出した、質問を投げかけた。先に言っておくが、俺は自分がド変態だの狂人だなと言った話を蒸し返す程に酔狂な人間でもなければ、フルチンの良さについて語り出す程熱に浮かされた雌猫でもない。俺が聞きたいのはなんであんなに刺激したのにイってくれなかったかだ。 「あーそれね」 「それねじゃない」 悔しい。もう認める、話の下で白状するが自分はド変態だ。どれくらいかといえば、クラスメイト2人とセックスして、更にもう1人にはフェラまでやったぐらいにはド変態だ。更には魔王やリーさんとまでやることやったんだ。そんな自分が、男経験皆無のペーペーをイかせる事ができなかった。なんか悔しいし認められない、何か細工があるのではないか? 「……実はね、俺さ」 流石に自分がド変態の流れは話すのを憚られたが、これでも熱意を持って主張したつもりだ。それが功を奏したのか、ヘラヘラしていた晴雄の態度や表情も、なんだか凛々しくなっている気がする。何を言われるのかと身構えてしまうほどに声色が真剣そのもので、思わず息を呑んだ。 「性機能障害なんだよね」 「……なんて?」 「性機能障害なんだよね」 「いやそういう意味じゃ無い」 性機能障害とは? いや名前的におおよその症状の予想はつくけど。詳しい話を聞こうとしたのだが、晴雄は俺が聞き取れなかったと解釈したようだ。なんだろう、勃起不全みたいな感じ? いいや不全だったらそもそもフルチンにはならない。 ようやく考えたらこのクラス射精出来ないの2人もいたんかい。健吾はまだ未精通みたいな感じだったし、晴雄に関してはまさかの性障害。いや2人ともを責めるつもりは毛頭ないけど、それでもこんなクラスはなかなかないと思う。 「性機能障害っていうか射精障害っていうんかな……? 勃起は出来るけど射精出来ない。夢精もしない。俺多分身体で精子作ってないんだ」 おいおいこんなド変態に自分の性の悩みを赤裸々に言って大丈夫なのかとは考えたが、本気で悩んでるって顔をしている今のこいつを揶揄う気にはならなかった。自分を嘲笑うように軽く微笑んだのをしばらくみていたが、いきなり肩を強く叩かれた。 身体中が穿たれるように飛び上がってしまったのを無視して、叩いた主である晴雄はそのまま俺と肩を組むような体勢になり、元気に笑ってみせた。 「悪かったな、お前を試すようなことして。自分でも射精出来ねえのに人様に任せるなってな。お前のはめっちゃ気持ちよかった! 悪いのは俺なんだよ」 俺のプライドを守ってくれたのか、はたまた重い空気に耐えられなくなったのかは知らないが、盛大に笑ってみせた晴雄俺は間近でみた。するとなんだか……闘志が沸いた。感謝の念でもなければ、憐れみでもなかった。これは、闘志だ。 こいつをいつかひぃひぃ言わせてやりたい、気を失うぐらい射精させてやりたい、そして搾り取った精子を目の前で飲み干してやりたい。そうしたら、この隙のない余裕な面が崩れるのでは、待ちに待った焦り顔が拝めるのではと。肩組みされてて無防備なのがよかった。俺はさらに踏み込んで、自分から晴雄の元へ向かう。目の鼻の先にいるようにな。 「ど、どうした?」 ああその顔だ。やっぱお前が焦ってんのは見てて楽しいな。しかし俺はその先の顔を見たい。焦って恥ずかしくてどうしようもない顔を、俺のなすがままに翻弄された後の姿を、見たくてたまらない。 「ぜってえ諦めねえからな、いつか絶対俺のテクでイかせてやるよ」 「そ、そうか……期待してる」 よし言質が取れた。機会があればすぐに抜いてやる覚悟しろよ。後数時間で仁にお仕置きされる俺は、そんな決意を胸に抱いていた。

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