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第94話 久しぶりだね

俺が考えたことはいくつかある。まずはお前いつの間にここにきたのかと驚き、そして付いてくるなら着いていくよと一言欲しかったと思う怒り、お前謹慎中じゃ無かったんかいと言う困惑。そしてやばい見られたどうしようといった恥ずかしい想い。 泣いてるところ見られてませんように、睨みつけるような目をして涙で腫れた目元を誤魔化して、仁の方を向いた。何も言うのとなく黙って俺を見ていた仁は、何やら我慢できないと言った雰囲気になって俺の方に来た。 「我慢しなくていい、よく頑張ったな」 なんだかんだ言いたいことはあるけども、あったかい腕が回ってくると静かになる、そんな自分ってチョロいという奴なのだろう。余計な詮索を一切としてなく、ただ静かにそっと寄り添ってくれるのは嬉しい。腕を回し返すと、胡座座りになった仁に乗り出すように抱っこされた。 「……ごめん、涙腺ぶっ壊れた」 「いいよ。しばらく俺はここにいるから」 よく頑張った、俺の安心感を極限まで引き出すには十分すぎる言葉だ。ああもう心配いらないんだ、手を伸ばせば直ぐにでも引き上げて抱きしめてくれる大好きな人が今目の前にいる。あったかい、こんなにあったかくて良いのだろうか、幸せな思いをしていいのだろうか。俺は自衛術を覚えるべきだ、好きな奴にこんなことされたら簡単に絆されてしまう。 「梓、んー」 「ん?……うん」 恋人のようなキスをするのはもう慣れたと言いたいけどまだ少しだけドキドキする。今の俺はと言うと、腕だけではなく足まで仁の背中に絡みついている、所謂だいしゅきホールドという体系だ。そんな状態でイチャイチャするのは背徳的と言うか、俺が男ではなくなるような錯覚を覚える。 やがて身体をそっと触る感触はあったものの、抵抗するつもりはなかった。久しぶりだな……こうやって仁とちゃんとセックスするの。初めてした時以来じゃあないのかな。 「ンァあ! 仁、じん……へんなかんじぃ」 「なあさしてもいい? お清めセックス」 「……いいよぉ」 仁なら良いかな。恋人だからと言ってそんな理由でここまで軽々しく体を許すのは悪なのか、それとも信頼していると言った意味で正義なのか、恋人がいた経験がなかった俺にはわからない。しかも女の子側の気持ちは今後一切味わう事がなかったと確信していた分、これが仁にどう写るのか、第三者にどう見えるのかは知る術もない事だ。 ただ優しいてが大きい手が俺の身体をそっと弄るのは、そのくせ弾力もないのに何が楽しいのか遠慮も無しに胸をもみもみしているのは少しだけ可愛いと思う。メイド服越しだったこの戯れは、次第に激しさを増し、いつしかゆっくりと服を脱がされていく。怖いとか痛いとかはない、恥ずかしくもない。ただこれから何をしてくれるんだと仁の次なる動きを待つばかり。 「俺、む、胸ないのに触って楽しいのか?」 「小さいことはないと思うけど……」 「え?」 思わず雰囲気に呑まれてフワフワしていた意識が覚醒して、俺の胸をペタペタと触ってしまう。うんいつも通り、ただ強いて言うなら最近筋トレしてないせいかちょっとたるんでき始めているもんで、情けない胸筋というのが正しいけど。それでも女の子みたいに大きくはない、あってもせいぜいAカップ。 「そうじゃなくて、なんかモチモチしてるんだよな。大きさはもうちょっと育てる必要あるけどさ、弾力ならもうそんじゃそこらの女子を超えてると思う」 そ、そんな……この状況に甘えて筋トレをおろそかにしていたツケがこんなところで回るだなんて。元々筋肉は力入れなかったら柔らかくなるタイプだったけど、それよりも更に柔らかくなったこの情けない大胸筋は、ついに彼氏におっぱいだと言われてしまった。なんたる屈辱。こんな事があって良いのだろうか、否いいはずがない。次の日から一緒に筋トレ仲間探してトレーニング再開しよ…… 「……可愛い。我慢できない、俺も脱ぐわ」 「う、嬉しくない……」 柔らかい胸、そしてそれをペタペタと触る恋人。たいそうお気に召したようで、楽しそうに服を脱いでいる中でも、下半身のテントは隠しきれていなかった。 俺とは違って変わらずムキムキの身体が羨ましい。胸筋も硬くて男らしくて、ムニムニの俺とは天と地ほどの差がある、もちろん俺が地だ。見てろよ今にムッキムキになってやる。ムキムキではない、ムッキムキだ。そう思いつつも、瞳は自身がメスだと認めているように、仁の肉体美を凝視していた。

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