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第155話 どこが魅力的
奏とトメタツがいなくなった後、こうしちゃいられないと布団から起き上がった。とにかく風呂に入って明日への英気を養いたい。あれだ、蓮の話はなんとかする、だが後でだ。そもそもそんな遠い話今しても仕方がない。魔王倒して元の世界帰って、それからでも十分間に合うはずだ。その後のことはなんとかの自分に任せよう、100点は取れないけど、60点ぐらいで上手いことしてくれるだろう。
俺の人生の平均点は60点。あくまで個人採点だから他人の評価とかあんまり考えてないけどでも60取れたら優勝だ。たとへ踊り子になろうと弟がブラコンだと知ってしまおうとそれは変わらない。息を吹き返して廊下に出た。すっかり暗くなって魔法の蝋燭についた火だけが頼りな道を歩いて行く。
「あれ? どうしたの、元気ないって聞いたけど」
……こんなタイミングで薫と出会うだなんて。別に薫がここにいるのは何にも悪いことじゃない、そして俺が来てしまったのも悪いことじゃないと信じてる。これはあくまで運の話だからだ、問題なのは今までの旅路で薫とのいい思い出が思い浮かばないこと。
まずは酒を盛られた、2回も。この時点でアウェー感がすごいけど、まだまだヤバさは加速していく。次は、と言うよりこれがメインでの苦い思い出だけど、輪姦まがいのことされた。あくまでまがいだからオナホみたいに扱われたとかそんなんじゃないけど俺としては十分に思い出したくない話だ。中学ん時はそんなんじゃなかったんだけどな……もっとちゃんと性格の明るい陽キャしてた。
「大丈夫? 言っとくけどまた輪姦しようとかそんなのは思ってないからね、ちゃーんと仲間として振る舞う予定だよ、暫くは」
最後の言葉で信用が無事マイナスまで振り切ったけど。でもあんなことあったのにこの飄々とした態度が変わらないのはある意味いい所なのかも。風呂に入りに行くと言えば、いつもの高校生とは思えない邪悪な動作からは考えられない無邪気な笑みを浮かべた。
「いいじゃん! 俺もこれから入ろっかなって思ってたんだ。一緒に行ってもいい?」
「ん!? え、えっと、いいんじゃないのかな……」
こんな奴と風呂入るとかとは一瞬思った、思いはした。だが想像以上にお人好しかつ根が素直なこの心は、このまま逃げ回っていてはいけない、自分にとっても薫にとっても対話をするべきだと訴えている。頭の会議室が決定した採択に口は最も簡単に従った。やったーと喜ぶその姿には下心はないはずだ、かりにあったとしてもなんとかなるって奴だ。
最近、特に船に乗り始めたぐらいから無理をしない主義で生きてる。努力すんのは努力したいと思った時だけで十分だ。だってこんな時こそ毎日全力だと疲れると思うから。あくまで主観が伴うけど、人間は頑張るのが1番の苦痛なんだ、それが出来るのは紛れもない才能も持ち主だと思う。そんな俺が大丈夫と言うんだから、多分潜在能力込みで20%の頑張りでなんとかなるレベルのはず。
♢
「あははー弟くんがブラコンかーライバル登場だね」
「……お前に言うんじゃなかったよ」
風呂場に連れてかれて、あれよあれよと服を脱がされていく。俺にはないコミュニケーション能力で翻弄されているうちに、気がつけば悩みと記して弟のことをバラバラと話してしまった。軽めに笑ってくれたけど目が笑ってないから今少しだけ後悔が勝っている。
「気持ちは分からんでもないよ。梓ってばエロくて可愛いから、俺みたいな狼からお兄ちゃんを守りたかったんだろうね」
「そうでもねえと思うけど。異世界くるまで男に言い寄られた事ねーもん」
そうなんだ、実際薫には中学時代から狙われていたことは本人から既に聴取済みだ、それに蓮のことも第3者からブラコン呼ばわりされて俺も少し認めてるところあるから間違いない、でもそこまでだ。それ以上特に男に好意を寄せられた覚えがない上にナンパなんてもってのほかだ。実際に転移するまでは、クラスの奴らも見向きもしなかったのがその証拠。ゲイに好かれる顔立ちなのかとは思うけど、ノンケすら落とすとはちょっと考え難い。
「アレじゃないのかな」
「あれじゃわかんない」
「一般人にとってさ、たとへ魅力的でも同性ってだけで好きになるのって憚られるんだよ。それが踊り子になって同性の壁とかそんなののタカが外れて、大爆発って感じ」
どうしよう理解は出来ないけど納得はしてしまう。リーさんも言ってたけど、魅了は踊ってる時しか発動しない。だからこんなにモテてんのは元々の素材つまり俺が魅力的だからだって言ってた。理解できない、こんな美少年でもガチムチで男らしい訳でもないのに何故モテるのか。見た目冷静中身半狂乱で、俺のどこがエロいのかを聞いてしまった。湯船に入るどころか脱衣所なのにヒートアップしてるのは何故だ、のぼせそう。
「うーん、見た目は踊り子になってから磨きかかったけど……やっぱ性格かな」
「性格? マシな方だとは思うけど、お前みたいに明るくないし、仁みたいに男らしくないぞ」
「それそれ、そう言う所がいいの。守ってあげたくなるじゃん、その性格がシコい」
性格がシコい。俺には理解できない感性だ、身体ばっか褒められるよかいいとは思うけどそれでも複雑だ。もう少し話し込んでみたいと風呂場に乗り込んだ。
「あれ、梓と薫じゃん。どったの?」
長谷部晴雄、再び見えた混乱分子と目があった。ここは穏便に……
「そうだ、長谷部も相談に乗ってあげてよ、弟がブラコンなんだって」
「なるへそ、そいつは難儀だな」
……薫は正直者だな。
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