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第166話 おまかせオーダーメイド

声の主は昨日会った例の着付け体験さんの、そういえば色々ありすぎてすっかり記憶から消し飛んでたけど、十二単衣をめちゃくちゃ動きやすいように魔改造失礼仕立ててもらう約束をしたんだった。1日でそんなのできる物なのだろうか、いやそこはプロだ、実際店主はここまできてくれたんだからちゃんと準備が整ったって事なのだろう。息切れて苦しそうなのは申し訳ないけど。 クラスメイト達に常時に見守られる中仁と2人で花婿衣装と花嫁衣装着たり、その後に十二単衣を動きやすく仕立ててもらう約束をしたのをを説明すると、思ったよりも険しい顔をされた。……やっぱり見せる職業の踊り子とはいえ遊び心に見えてしまったのだろう。店主には申し訳ないけど一度だけ来て後は記念品としてとっておく事になりそうだ。 「梓……マジに仁の物になったんか」 「結婚式ごっことかもうガチじゃん」 「二家本も止めろよ、悔しくねーのか」 そうかよかった。根本的に良くはないけど不真面目なのを怒ってる人はいないみたいだ。正直なのか捻曲がっているのかあからさまに悔しそうな人もいれば、早速どんな感じなのか着て見せて欲しいと言ってくれる人も。それ以外には主に全体がガヤガヤし始めてどうまとめようかと焦っている喜助、呆れながらも場を静観している高松なんかが目に入った。確かに長い時間これに使うのは申し訳ないな、ちょっとそこらの岩陰にでも隠れて着替えてくる。 覗くなよと一言掛けて岩陰に隠れる。さあどんな感じになってるんだろう。動きやすいからズボンになってたりして、あーでも昨日の3人の話を間に受けてたりしたら将来着てみたい花嫁衣装がモチーフって事になるしちょっとわからんな。全ては店主の性格と願望と性癖に任されているわけか。 意をせいぜい半分ぐらい決して、服の全貌を見る。全ての恥と外聞かなぐり捨てた第一印象をミニスカである事だけど俺としてはもうその程度で怖気付くことはない。もうミニスカは体験済みだ、しかもその前はもっと恥ずかしい服だった。寧ろ十二単衣の慎しやかな雰囲気が抜けていないから羞恥心を全く煽られない、末期だ。しかし不幸な事に末期なのはすっかり性的な目で身体を畳張りの如くバシバシと浴びせられる事に慣れてしまった俺の感性だけではないようだ。 「どうしたんだ、着方わからんとか?」 「俺でよければ手伝うよ?」 「鳳は……信用できるな」 固まっていては始まらない……どう考えても店主の趣味が剥き出しになってるけど、これもおまかせオーダーメイドの一興なのかも知れない。なかなかのパワーワードだなおまかせオーダーメイド。とにかく遅すぎてアイツらがが心配し始めた、着付けとかお手の物だろうあきらが心配そうに声をかけてくれる。思ったよりも仁からの信頼を勝ち取っているのすごいな。 十二単衣のミニスカ版、いつかネットで見た間違っても成人式で着てはいけないタイプの振袖を思い出した。それならまだいいんだ、だけの多分太ももにつけるであろうベルトが気になる。オタクだからわかるけどこれは所謂レッグホルスターというやつだ、女スパイやバトルものの女の子がスカートの中から武器出すのあるだろ、その武器をしまうための太もものベルトだ。多分ナイフや魔法武器を入れたら様になるに違いない。 「……よし、出来たぞ」 服に手をかけ、店主の汗と涙と性癖が詰め込まれた服を着る。その他諸々おかしな所があるがこの際言うのはやめにしよう、どうせ周りがギャグ漫画みたいに一つ一つ反応してくれる。そっと姿を表すと、おー……と何か感心したような声を出されれる。やはり日本人ならではのセンスや感性に訴えかける服は可愛いとかよりも来るものがあるんだろう。 俺が近寄って見せると気になることを各個人で発見していく。レッグホルスターはもちろんのこと、男相手にピンクを基調とした布地に脱がせやすくてちょっと子供っぽい金魚帯も、よくある草履じゃなくて洋風のショートブーツに鼻緒と前坪をイメージしているだろう太めの靴紐が付いている。完璧に店主の趣味だ、ここぞとばかりに溢れ出ているそのパトスに圧倒される。 「どうでしょうか!? 思う存分欲望を解き放てと言われた通り、私の願望をたっぷりと染み込ませた逸材でございます!」 「おい店主……いい腕してんじゃあねえか」 「綺麗ですよ梓さん!」 「レッグホルスターがエロい」 「そんな金魚帯巻いてロリかよ誘ってんのか」 「ミニスカ振袖にショートブーツってなかなか業が深い……でもわからんでもない」 大絶賛。どうやらこれにはしばらく面倒を見てもらう事になりそうだ、ご丁寧に防寒魔法まで施されてるから変わることはないだろう。 「兄貴、ひょっとしてそれ着てく気?」 「え? まあそんつもりだけど。メイド服はもう結構着たし、和の国に行った記念としてでも心機一転イメチェンとしてもいいだろ」 「相当感覚が麻痺してる。オレが何とかして目を覚まさせないと……」 ブツブツとらしくもない独り言を心配しながらも、俺たちは和の国に別れを告げる。王子様に手を振って、大量のご飯が入った2台を沢山引きずって、41人でコグダム都に向かった。

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