172 / 206

第171話 弟の友達?

……よくよく考えてみればキャンプは初めてだ。よく似たもので自然教室は中学のスキー合宿は行ったことがあるがあれは違うだろう、ノーカンというやつだ。小学校の時にチャンスはあったものの、あん時はたしか夏風邪を引いて断念したんだっけ。そんな俺を哀れに思った婆ちゃん主催で元気になった後にお家バーベキュー大会が開催されたのは今となっちゃいい思い出だ。 だからこれは人生初キャンプだ。しかもメンバーは違くとも6年の時を経てクラスメイトと行くことができた。因果なものだと感心するし初キャンプは楽しみだ。大自然に抱かれて飯盒炊爨、キャンプファイア、みんなで寝袋……は今回ないから暖房魔法のかかった物で代用だ、オリエンテーリングももうやってることが異世界のオリエンテーリングだ。まあ何より心躍ることだけは間違いない ……この状況を除けばな。 「……本当に長谷部晴雄なんだな?」 「ほんとよ本当、晴雄ちゃんなんだって」 「みんな晴雄は全く悪くないんだ、せめて俺の首を吊ってくれ」 「罪意識が凄すぎる」 あの後2人揃って仁に連れ出されたまではいい。いつまで経っても本当は蓮くんなのではと疑っているのはちょっと可哀想だ。俺はわかる、こんなんでも10年以上お兄ちゃんしてるからな。間違いなく弟ではない。知識とかでは説明のつきようのない、もっと深層心理の世界、俺がここまで断言してしまうなんてひょっとしたら異世界転移で手に入れた雀の涙からの一種のテレパシー的要素なのかもしれない。 それに第一蓮くんはそんなみみちい誤魔化し方はしない、もっと真っ向から堂々とお前から兄貴を寝取ってやる! ぐらいには言うはずだ。自分のことをちゃん付けなんてそれこそ本人の意地というか、プライドが許さないだろうに。 「ふむ……ここは任せたまえ極東の侍よ。同じ魔の道を極める同胞である我は、この者の魔力と魂を研ぎ澄ます、この力を持ってして明らかにして見せよう」 訳:そうですね……真田さん、ここは僕に任せてください同じ魔術愛好会のメンバーですから、本物かどうかはすぐに分かります、一年の付き合いなので精度は高いです見てて下さい。 雄星は同じ魔術愛好会だったな……魔術愛好会ってなんだろう。知らないわけじゃないぞ、元の世界にいた時から新入生はもちろんの事在校生ですら気味悪がってた事で有名だ。部活と愛好会の予算決定会の時も大釜とか、よくわからん魔導者とか、そんな物ばかり要求していたのを覚えている。色々謎に包まれた先生ですら近寄らない愛好会だったが、まさか雄星と晴雄が所属していたなんて。……考えてみれば2人ともそれっぽいな。 「では貴殿に尋ねよう。俗にネクロノミコンは、極東おける言葉でなんと読む?」 訳:では質問です。俗にネクロノミコンとは、和名でなんと読みますか? 「えっと……死霊秘法」 「心理学において、ユング,C.Gが提唱した、「個人において生きてこなかったもうひとつの側面であり、意識にとって許容できない自分の暗黒面」のことを何という?」 「影《シャドウ》」 「……イタコとは主に東北地方北部に分布し、口寄せを行う女性のことを言うが、その語源は?」 「諸説あるけど、俺はアイヌ語の語るっていう意味のイタクという言葉に東北地方の愛称コが合わさったってのを信じてる」 すごい何もかも知らん。魔術愛好会思ったよりちゃんと魔術を愛好してるな、しかも心理学やシャーマニズムにまで手を伸ばしているとは恐れ入った。ただの厨二病の集まりだという解釈は今ここで崩れ去った。アイツらなりに本気で青春を謳歌していたという事、図書室で本を整理する時間が1番楽しかった俺とはえらい違い。 「……やれやれ。極東の侍、どうやら偽りはないようだ。この者は正真正銘長谷部晴雄だよ」 訳:……なるほど。真田さん、どうやら嘘はついていません。彼は間違いなく長谷部くんです。 「そ、そうか」 あまりの知らない情報の連続で仁が力負けしている。その後色々話し合った。何で戻ったのか、蓮くんになってる間晴雄はどうなってたのか、そもそもそれは本人の身体に負担はかからないのか。まあ確実にいえたのは他でもない、戻った理由だ、シンプルな魔力切だろう。 「えっと……つまり降霊は大体丸1日が限界なのか?」 「今回は初めてだったから余計な魔力使った。次からはもっと低燃費で呼び出せるよう工夫するよ、そしたらもっと蓮はお前達といれるぞ!」 「あんなやつ一生呼ぶな」 「な、なんで!? 確かに口悪いけど蓮くん良い子じゃないか!」 いつの間にか、話したこともないのに仲良くなってる2人とも。でも記憶と身体を共有したから話すよりもすごいことしたようなもんだよな。新しく出来た弟の友達? である晴雄との再会、蓮くんは元の世界に無事帰れたのかなと心配しつつも、疲れた頭でキャンプファイア楽しみだなぁ程度の考え事をしていた。

ともだちにシェアしよう!