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第1話
「――結婚、してください」
ちょうど一年前、花井 哲平 は幼馴染という枠を壊し、ずっと片想いをしていた山下 一成 にプロポーズした。
一成もまた、長い間口に出せずにいた哲平への想いを彼に告げた。
その日、二人の幼馴染であった三浦 伸一 が結婚式を挙げた。相手は勤務先で出会った後輩――しかも男性だった。
同性婚法案が通過して四年。同性同士の結婚が日常となってきた昨今、哲平と一成もやっとこの日を迎えることが出来た。
二人で選んだ結婚式場は、あの日プロポーズをした思い出の場所。
周囲を森で囲まれたリゾート地にある式場は、今日も梅雨の合間に訪れた雲一つない穏やかな天気だった。
厳粛な雰囲気の中、明るい光が降り注ぐチャペルで誓いの言葉を交わし、互いの指に銀色の指輪を光らせた。
一成の指は細く、特別なサイズでオーダーしたため、式に間に合わないのではないかとハラハラしていたが、何とか間に合ったという経緯がある。
披露宴も終え、気心知れた仲間だけでの二次会も幸せムード一色で過ごし、出席してくれた友人を見送った後、式場に併設されたホテルへと戻った二人は部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。
「疲れたぁ~!結婚式ってこんなに疲れるものだとは思わなかった」
大の字で寝ころんだままネクタイを引き抜く哲平を、少し潤んだ目で見ていたのは隣のベッドに同じように倒れ込んだ一成だった。
柔らかな髪をシーツに散らかし、大きな栗色の瞳は最愛の伴侶である哲平だけを見据えていた。
頬が心なしかピンク色に染まっているのは、二次会でワインを飲み過ぎたせいだろう。
「――ん?どうしたんだ?」
「哲平、今日は最高にカッコよかったな……って」
「いつも……だろ?」
ゆっくりと体を起こした哲平は隣のベッドに移動すると、気怠げにシーツに顔を埋めている一成に覆いかぶさるように並んだ。
二人分の体重を支えるベッドがギシリと小さな音を立てる。
うっすらとかいた汗がエアコンの風で冷やされ、酔った体には丁度いい。
すぐ近くにある一成の頬に唇を寄せて、茶色い髪を指先で梳いた。
「今日から、ずっと一緒だな」
「――なんだか、緊張する」
「どうして?夫夫 になったんだから緊張とかあり得ないだろ?俺は一成にこの一年ありのままを見せて来たわけだし、お前だって俺に……」
チュッと音を立ててキスを繰り返す哲平に頬をさらに上気させた一成は目を逸らして小さな声で呟いた。
「恥ずかしい……から。そういう言い方っ」
「何がぁ?今更恥ずかしがることなんてないだろ?――ホントはさ、今日まで我慢しようって決めてたんだけど、俺って堪え性ないからさ……」
「哲平のエッチ!ホント、デリカシーないって思った。プロポーズした当日にセックスするって……っ」
「それはごめんって何度も謝っただろ?それに俺――男とするの初めてだったし。お前の前でカッコ悪いとこ見せたくなくて。焦ってたのかもな……」
哲平の指がするりと滑り一成の胸元を撫でた。
「ん……っ」
白いシャツの上からでもハッキリ分かるほど、一成の胸の突起は硬くなっている。それを転がすように指先で捏ねると一成の愛らしい唇がわずかに開き始めた。
「――何度もしてるけど、今夜は正真正銘の”初夜“なんだよな?」
「一応……。俺たち、新婚なんだもんね」
「今まで以上に――いや、これからもずっと精進して一成を愛することを誓います!」
おどけた口調で言った哲平に一成がクスッと肩を揺らした。
昔から変わってない。互いに想いを通わせた後も、そして結婚し夫夫になった今も。
そんな哲平が大好きで、ずっと背中を追い続けて来た。
これからも、ずっとずっと追いかける。
哲平の手が一成のネクタイを引き抜き、ボタンを外していく。いつも以上に早急な彼に驚いた一成は細い指先で哲平の手をギュッと掴んだ。
「待って!シャワー浴びてからっ」
そう言った彼の唇をそっと塞いで、誠実な黒い瞳で真上から見下ろされると腰の奥の方がキュッと疼いた。
後ろに緩く流した髪が乱れ、形のいい額に幾筋か落ちている。
普段からもイケメンの部類に入る哲平の真面目でありながらも欲情の光を湛えた瞳に、一成は眩暈を起こしそうになった。
「一成……」
低く、そして哲平の甘い囁きに余計に酔いが回ってしまいそうで怖かった。
「どうせ、汗かくだろう……。あとで一緒に入ればいいよ」
「え…でもっ。ほらっ、蒸し暑かったしっ」
何とか突き放そうと試みるが、一成の細い体では哲平の力に抗うことが出来ない。
シャツはすっかり前を開けられ、素肌にエアコンの風がダイレクトに当たっていた。
少し冷たくなった白い肌を哲平の掌がゆっくりと撫でた。
「冷たくなっちゃったね。温めなきゃ……」
「だったらシャワー浴びればいいじゃん!」
胸の突起にいきなりしゃぶりついた哲平は舌先で硬くなった小さな果実を転がし始めた。じわじわと訪れる快感はいつもよりゆっくりで、一成は焦らされているようで羞恥を覚えた。
そのせいか白い肌がうっすらと赤みを増していく。
「や…っ。哲平……それ、やだぁ」
「何が?一成、ここをペロペロされるの好きだろ?」
「好き…だけ、ど!や……なのっ」
「じゃあ、やめる?」
きつく吸い上げながら唇を離した哲平を潤んだ目で睨みつける。哲平の肩にかけた手にも力は入っていなかった。
「――意地悪」
唇を尖らせた一成のそれを哲平がペロリと舐めた。
厚い舌が輪郭に沿ってゆっくりと動いていく。
「俺が一成に意地悪したことあった?」
こういう時だけ真面目な顔で問いかけるのはズルい……。一成は「知らない」と小さな声で答えた。
顔を背けていないと恥ずかしくて仕方がない。
火が出そうなほど火照った頬を隠す術もなくて、一成はただ哲平の成すがままだった。
「――あぁ、そうか。乳首だけじゃなくて他のところも触って欲しいっていう事?」
「ちがっ!バカじゃないのっ、哲平。あ……やだ、って!そんな……っ」
哲平は体をずらして一成のベルトを手早く緩めるとスラックスの前を寛げた。
新婚初夜に……と勤務先の同僚がプレゼントしてくれた総レースの白いTバックが哲平の目に晒される。
もちろん、彼には内緒にしていた。初夜とはいえ、こんなにも恥ずかしい下着を哲平に見せられる勇気は一成にはなかったからだ。
シャワーを浴びて脱いでしまえば哲平には気づかれないと思っていたのだが、予想外の展開に一成の頭の中は混乱し始めていた。
「――一成。これって……」
「あ、いや……。会社の人がくれたから……」
乳首への刺激だけでもう力を蓄えていたペニスが透けているレースを押し上げるように膨らんでいる。それまであったはずの薄い下生えはそこにはなかった。
白い下肢に豪華な白いレースが映え、実に清楚な花嫁らしい演出だ。
「可愛い……」
「えぇ!」
「一成、下の毛も剃ったの?いつの間に?」
「そんなに直球で聞かないでよ……。だって、これ穿くと白だし……何となく」
「じゃあ、さ!生まれたままの姿って事だよな?」
曲がった事が嫌いな哲平は、こう言う時まで含みを持たせない。一成がどれほどの思いで下生えを剃ったのか理解出来ていないようだ。
しかし、新婚初夜に喧嘩というのも縁起が悪い。一成はキュッと唇を噛んだまま必死に耐えていた。
「あぁ、脱がしちゃうの勿体ないなぁ」
「んもう!哲平っ!いい加減にしてよっ」
我慢しきれなくなった一成がそう叫ぶと、哲平はニヤリと口角を片方だけ上げて盛り上がっているレースを掌でひと撫でした。
「あぁ……っん」
ゾクゾクと駆け上がる甘い疼きに、一成の口から吐息が漏れた。
白いレースがしっとりと濡れている。きっと一成のペニスが溢れさせた蜜のせいだろう。
哲平は人差し指を下着のウェストに差し込むと、少しだけ引っ張ってみた。
そこには綺麗に色づいた先端がわずかに顔を覗かせ、鈴口からぷっくりとした透明な蜜を出していた。
「――いやらしい。こんなに濡らして……」
哲平の端正な顔がそこに近づき舌先で滴を掬い取ると、一成はシーツを掴んだまま顎を上に向けた。
ジュル…チュパ…とわざと音を立てて口に含む哲平に、一成の体はもうすでに蕩け始めていた。
先端から溢れた蜜は双丘の間を流れ、後孔までも濡らしていた。
しっとりと濡れ、何度も重ねた性交のせいですっかり解れている一成の蕾に指を突き入れた哲平は、欲情した獣のような目で彼を見下ろした。
「ここ……。俺以外の男、何人咥えた?」
「へ?そ…そんなことっ。今、言うことじゃ……ないだろ」
「今、聞きたい。一成のここに何本のチ〇コが入った?」
初夜にそんな質問をされて素直に答えられる花嫁がこの世の中に何人いるだろう。下手をすればそのまま破局しかねない深刻な問題に発展する可能性もある。
一成は何度も首を振って、後孔に与えられる刺激に息を乱した。
クチュクチュと粘着質な音が聞こえ、それが自らの蕾から発せられていると思うだけで全身が熱くなってくる。
「ほら、言って……」
「やだっ!絶対に……いわ、な……いっ。はぅ…っ」
一成が答えを渋ると突き込まれていた指が不意に抜かれ蕾の周囲を円を描くようにして焦らされる。
「じゃあ、約束して。俺以外のチ〇コ、ここに入れないって……」
「当たり前……じゃん!俺は……哲平の…奥さんな…んだ…っよ!バカ……」
一成の蕾を指で蹂躙しながら、哲平は自分のスラックスを下着ごと脱ぎ捨てると、すでに完全勃起している自らをもう片方の手で扱き始めた。
ネチュネチュと音を立てて上下する手が一成の視界に入り、ハッと息を呑んだ。
「――じゃあ、言って!その可愛い口で“俺のチ〇コだけ”だって……言って」
「えぇ…っ。そんな……は、恥ずかしい……こと、言えるわ…ない!」
「へぇ~。一成は結婚した後も俺以外のチ〇コを咥えちゃうんだ?淫乱だね……」
「違う~っ!淫乱とか……言わないでっ」
「エロい下着で誘うんでしょ?こういうヤツで」
哲平が再びレースの部分をなぞると、一成はブルブルと身を震わせて小さく叫んだ。
確実に高められていく体、それに加えて哲平のあり得ない言葉攻めは確実に一成を快感に導いていた。
「哲平だけ…だもん!俺には……哲平だけっ」
涙目になりながら声を震わせる一成をもっと苛めてみたいところだが、慣れない事をした哲平もまたかなりギリギリのところにいた。
「――ちゃんとおねだり出来るね?一成……」
後孔を弄ぶ指はもう三本になっており、一成の方も限界に近づいていた。早く哲平と繋がりたい……その一心で喉の奥を震わせながら声をあげた。
「哲平の…チ〇コ、俺の……ここに、挿れてっ!哲平のチ〇コだけ……だけだからぁぁぁ!」
ビクッと体が跳ね、自分で口にした言葉だけで軽くイッてしまったらしい。そんな一成が愛おしくて哲平は迷うことなくウルウルの蕾に凶暴な熱棒を突き込んだ。
「ひゃあぁぁぁ!哲平の……熱い!」
Tバックの後ろのレースをずらすようにして突き込まれた哲平のペニスはゆっくりと抽挿を繰り返した。
薄い粘膜が哲平の茎にぴったりと吸い付き、動くたびに収縮を繰り返す。
そして、不意にピタリと動きを止めた。繋がったまま一成を見下ろした哲平は嬉しそうに口元を綻ばせた。
「――いつもよりキュッてなってる。一成……幸せ?」
思いもよらない言葉に目を見開いたままだった一成は、ふぅっと細く息を吐きながら答えた。
哲平の背中にそっと爪を立てて自分の痕を刻む。
「うん…。しっかり繋がってる。――離さないでね」
「当たり前だ。最愛の奥さんを離すもんかっ。この指輪に誓って……愛してる」
「俺もだよ……哲平」
二人の左手がそっと重ねられる。銀色の細い指輪が小さくカチリと鳴った。
体を重ねることは初めてではないけれど、今夜の事は一生忘れない。
夫夫 としての初めての営み……。
愛を重ね、愛を育み、そして共に生きていく――そう、ずっと二人で歩んでいくこれからの長い道のり。
幼馴染だった哲平と一成は新しい愛に向かって動き出した。
お互いの手をしっかりと握りしめたまま、ゆっくりと……そして確実に。
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