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第4話

 豚のように丸々とした羽の小さい竜達が、ぼんやりと優美なる竜騎士団の竜を見ていた。  大人になったらああなるのだと信じていた。  現実は非情である。  豚竜というあだ名を、賢き彼らは知ってしまっていた。  竜騎士団の皆は可愛い可愛いと言ってかわいがってくれるが、くれる餌も有り難く頂くが、それと納得は別である。だって翼があって空が飛べないとか詐欺じゃない? 「これがああなるのか? 信じられんな」  ほら、今日も客人がそんな侮辱なのか希望を持って良いのかわからない言葉を宣う。 「1000年進化させた結果ですからね。あれで60点だそうです。もちろん、ぶっちぎりで高得点で。この子達のポテンシャルは更に高いとか。1000年前の始祖竜は騎乗すら不可能だったそうですが、今のままでも馬の代わりぐらいにはなりますからな」  あくまで乗れるだけで、乗ることを考えたらポニーのほうがまだまし。そう言われていることも、豚竜……始祖竜達は知っていた。 「ふむぅ……。先は長い。が、種を撒かねば果実を実らすこともない、か。手本とヒントがある分だけ、有利とも言えるしな」 「そうです。想像してみて下さい。1000年の未来、我が国にあのような竜騎士団が出来る様を」  客人は想像する。豚竜……いやいや、始祖竜達も想像する。あれより優美なのはちょっと想像できないが、あんな感じの威容で空を飛ぶのを。 「うむ。なんとしても素晴らしい竜騎士団を創り上げてみせるぞ!」 「そうですとも! して、種付け依頼はどうされますか?」 「今から予約しても、遅くなってしまうであろう。それよりは、よそが出した依頼での子供の余りから選ぶ。最初だから差はあまりないとの事だしな。ひとまず健康ならそれでよい。いや、余った雄と雌で適当に種付けしてしまうのもありか。どちらか早いほうだな」 「なるほど、名より実を取られる実に素晴らしい作戦だと思われます」  なるほど、自分の子孫は雄飛するらしい。  自分達も雄飛したい。やはり豚竜……いや、始祖流は、進化しきったという60点の竜をぼんやりと見つめるのだった。  ようやく、竜達が繁殖できるお年頃になった。  参加証を持ち寄った外国の大使達、国内の王侯貴族、騎士団達の希望を聞き、繁殖計画を作る。  最も優先されたのは、実際にドラゴンの繁殖に成功させている家柄……ミレアスの実家だった。そして次は王族である。   「ふむ。最初はとにかく健康な子が良い。ということで、戦神の祝福を得た子同士を掛け合わせて、更に産まれた卵には戦神の祝福と魔神の祝福を半々で掛けてもらおうか」 「私は我が国の騎士団を完全に信頼している。だから私は趣味に走る。魔神の加護のメスと芸術神の加護のオスの掛け合わせで、人懐こさが上がるという商売神の加護の卵と運命心の加護の卵を半々ずつだ!」  なんだか夢が詰め込まれまくりである。  あとはそれぞれの希望を聞きつつ、予定を立てていく。  繁殖も無事に成功し、卵が生まれた。隣の牧場から頼まずとも助っ人がたくさん来てくれたので大変に助かった。一匹のメスからは平均4個だった。  これも進化のさせかたで数が変わってくるらしい。大方の予想よりは少なく、悲喜こもごもである。  卵は一ヶ月で孵る。最初の卵は魔法で孵化を押し留めていたのだ。  二週間が経つと、まだ孵らないのかと毎日のように聞かれた。  種付け依頼をした者はその卵に対して高い優先権を持つが、基本一同に介した子竜から優先権の高い者から選んでいく式となったので、最初の子が孵ってもすぐに連れ帰れるわけではないのだが。  二ヶ月後、ようやく産まれた子竜たちのお披露目が行われた。  卵の孵化した時期もあるが、目を凝らせば既に様々な違いがあった。  最も、その違いがどう作用するかは謎なのだが。  眼を鷹のようにし、選んでいく。  当然だが、一回の譲渡会では行き渡らないので、何度も種付けを繰り返していく。  私達夫婦の経緯はバレてしまっているので、魔女から頂いた飴を欲しいというものも訪ねてきたりする。どうしても子供が出来ない夫婦や、同性カップルである。  夫婦両方が望んでいるのを確認して、目の前で食べて貰う形で飴を分けている。  これは実を言うと、何度かルイの補充を受けている。  子供がいなくて苦しむ夫婦というのは、割と多いようだった。  二年掛けて、卵の配布を完了させる。  その後、やっと私とミレアスの番である。  それでも選ばれなかった子は去勢せねばならない。残念だが、計算された繁殖というのも牧場のお仕事である。  そもそも、ここまで残ってしまった子は、弱い子が多かったので。  去勢した子達だが、気が早い陛下が創設した始祖竜騎士団に下げ渡された。  国内の選ばれない子竜たちは全てここに投入されることとなっている。  騎士団員も若いというか幼く、育成に長く時間を掛ける陛下のご覚悟がわかる。  子供なので始祖竜達も軽々と乗せることが出来、元気に駆け回って訓練をしている。  ぼんやり竜を眺めて過ごすよりは健康的だろう。    ミレアスはガチで選んでいたが、私は子供達の選んだ子竜と優しい瞳の子竜を選んだ。    ソルが竜にベッタリなのは良いが、竜とともに旅する行商人を目指していて困る。  あと、ミレアス。自分は竜にベッタリなのに、私が竜と仲良くすると嫉妬するのはどうかと思うぞ。  自分の竜の前で交わるのは恥ずかし……この話はやめよう。  なお、強力なテレパシーを持つ愛玩竜とも呼ばれる小竜……これは大きくならないそうだ……だが、ミレアスの次兄に預けることとなった。  長兄、末子が竜を育成していて、次男が何もなしというのは色々問題があったのもあるし、私も手が足りなくて困っていたから、力を借りれたのはありがたい。  飼っていれう小竜が発情期に入ったらにエッチなことしか考えられなくなるのは問題だと思うが。私とミレアスの小竜は番にした為、その問題も解消できている。  発情期のミレアスは激し……この話もやめよう。  とにかく、こうして競争は和やかに始まった。

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