28 / 28

第28話※

「……はぁ、ヨゾラ……大丈夫?」  快感の波が少しひいてきて、ナナトはヨゾラの乱れた髪を整える。その刺激にピクリとヨゾラの眉が動く。 「……あ、ナナト……」  掠れた声でかろうじてヨゾラが応じる。 「ごめんね、興奮して中に出しちゃった。一緒にお風呂行こ」 「待って、ナナト」  腰を引こうとするナナトをヨゾラは制止する。 「……しばらくこのまま、ぎゅってして欲しいです」 「……うん」  ナナトがヨゾラの上に覆い被さるようにして抱きつくと、ヨゾラもナナトの背に手を回し、抱きしめる。 ナナトはヨゾラの首筋に顔を埋める。大型犬のような仕草に、ヨゾラは微かに笑って、ナナトの背に回した手で優しく背中を撫でる。 「んんっ……」  突然、ヨゾラが顔を顰め、くぐもった声を出す。 「あ! 抜けたかも。ごめん、ほんとにめっちゃ出た」  ナナトは思わず顔を上げてヨゾラに謝る。 「ふふ、そのようですね」  内股の濡れた感触は少し不快だったが、ヨゾラは楽しそうに笑う。 「……僕は貴方があの家から連れ出してくれた時から、ずっと貴方の事が好きでした。だけど、貴方はそのうち恋人ができて、結婚して、子どもができるかもしれない。だから僕の思いは秘めておこう……貴方の幸せの邪魔はしないでおこうと思っていました。でも不思議ですね……」  ヨゾラはにかりと口角を上げる。  ギラギラと光る瞳はナナトを捉えて離さない。 「今は貴方を誰にも渡したくない。貴方は僕の居場所だから。なくなってしまっては困ります。貴方の未来の幸せを摘み取ってでも、僕は貴方の隣にいたい」  ナナトもにやりと笑い、口角を吊り上げる。 「すげー殺し文句だね、それ、プロポーズ?」 「ええ、貴方に僕の全てを捧げますよ。病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで」  すらすらと紡がれる誓いの言葉をナナトは引き継ぐ。 「愛し慈しみ貞操を守る事を誓います……ってこれ、プロポーズじゃなくて、結婚してるじゃん!!」 「ふふっ」 「あはは」  二人は体を起こし、見つめ合って笑う。久しぶりに、とても愉快で爽快な気分だと二人は思う。ぴったりと型にはまったような、しっくりくる感じは、とても心地良い。 「ねーヨゾラ、誓いの言葉を言ったんだからさ」 「ええナナト」  二人の目線が絡み合う。言いたい事は言わなくても伝わってくる。 「「誓いのキスを」」  最初は唇が触れ合うだけだったそれは、だんだんと大胆に、激しさを増していく。  ぽたぽたと飲み込みきれない唾液が二人の間からこぼれ落ち、シーツに吸い込まれていく。 「は、ふぁ……ヨゾラ、もっかい、したい……」  ぐりっ、と硬く立ち上がったペニスの先をヨゾラの腹に押し当てる。 「ここに、入れたい……お願い……」  ナナトの熱く掠れた声にヨゾラも煽られる。 「はい、ナナト……奥まで貴方で満たして」  何度も何度も交わされた行為は果てしなく続き、気がつけば空は白み始めていた。  時々水分や食事をとっては、またベッドで、浴室で愛を交わす。 「ヨゾラ……」  返事はなく、代わりに規則的な寝息が聞こえてくる。  何度も絶頂を極め、ついには潮まで吹き、気絶するように寝てしまったヨゾラの頬をナナトは優しく撫でる。 「……無理させてごめんね」  ナナトがヨゾラを家から連れ出したあの時。  家を出る決心をして、ナナトの手を取ったヨゾラの凛とした強さを垣間見たあの時。  ナナトもまた、恋に落ちていた。 「恋はするものじゃなくて、落ちるものだ……って、すごい名言だね」 「……ふ、意外とロマンチストですね、貴方」  ヨゾラが含み笑いとともに目を開ける。独り言をしっかり聞かれていたようで、ナナトはいたたまれない気持ちになる。 「……起きてたんなら言ってよ」 「今まさに起きた所ですよ? ……ん」  ナナトがヨゾラの横に寝転がって、ヨゾラの唇を人差し指で押さえる。 「嘘つき。俺、嘘つかれるの、嫌い。嘘つきのヨゾラ君にはお仕置きが必要じゃない?」  にやにやとするナナトに、ヨゾラは鼻で笑う。 「は、お仕置きですか。立てない僕にこれ以上の苦痛を強いるとでも?」 「苦痛じゃないよ、えっちなお仕置きだから気持ちいいやつだよ」 「これ以上したら僕、使い物にならなくなるかも」 「そしたら、俺がずっと飼ってあげるから大丈夫だよ」  ナナトが顔を寄せて、ヨゾラの耳を甘噛みする。 「ねぇ、お願い。ヨゾラの顔見てたら、ムラムラしてきたんだもん。責任とってよ」  耳元で囁きながら、ヨゾラの片側の胸の先を軽く摘むと、「んっ」と甘い声が聞こえてくる。 「ほら、ヨゾラのヨゾラはヤる気満々じゃん」  胸を触りながら、膝で半ば反応しているペニスを擦ってやると、みるみる内に硬さを増し、立ち上がる。 「……まったく、貴方みたいなのを絶倫っていうんですよ」 「ははっ、俺達、一卵性の双子だからヨゾラも絶倫って事になるね。……嫌じゃないクセに」  少し強めに胸をつまみ上げ、ペニスの括れに指を引っ掛けてやると、ナナトの手に擦り付けるようにヨゾラの腰が動く。 「ほら、何て言うの? ヨゾラ」  目元を赤く染めて、ヨゾラはナナトの求める答えを躊躇いなく口にする。ナナトはきっとヨゾラが求めているものを与えてくれる。ヨゾラは、この先に起こる事への期待と喜びで自然と頬が緩んでしまう。 「嘘をついて、ごめんなさい。お仕置き、してください」 「いいよ、ヨゾラがちゃんとごめんなさい、できたから、ご褒美をあげるね」  二人は絡まるように抱きしめ合い、ベッドの海に沈む。 「愛しているよ、ヨゾラ。もう誰にも渡さないから」 「愛しています、ナナト。貴方はもう僕のものです」  愛の言葉とともに唇を合わせ、お互いに貪り合う。  けして離さないように、離れないように。  二人は手を絡め、静かに額を合わせた。

ともだちにシェアしよう!