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ふたりの時間(5)

そして豪華なディナーが完成したー シルク特製、ローストビーフ! 僕の作った、ポテトグラタン的なもの… そしてバケット。 例の、おそらく不味くなってるであろうワインで、 僕らは乾杯した。 「…全然美味しいですよー」 「そーね、思ったほどダメになってなかったな…」 「いただきまーす」 「あ、ちょっと待って…」 シルクはスマホを持ってきた。 「記録しとこう」 そして、テーブルの上に並んだ料理の写真を撮った。 改めて、僕らはそれらを味わった。 「美味しいっ…ローストビーフ、全然なんちゃってじゃないですよーすんごく美味しい!」 「うん…安い肉だったけど、美味くできたな…」 ローストビーフが、ワインにとても合った。 「グラタンも美味いじゃん」 「そうですか…よかった」 「お前が、料理出来るって、ちょっと意外だわ」 「あー、いや…」 異世界の…って話を、しようかと思ったがやめた。 またオカシイ人って言われちゃうからなー いやでも、それよりシルクさんが、 こんなおばちゃん主婦だったってのが、 僕にはメッチャ衝撃的でしたー 「昨日のDVD、もっかい観るか…」 「あ、いいですねー」 シルクは立ってPCに向かった。 そして、また、昨日の映像が流れた。 シルクは改めて言った。 「マジで良かったと思うよー」 「…だったらいいんですけどね…」 「次までには、あの新曲仕上げたいよなー」 あーあの…ちょっと不安要素いっぱいの曲ね… 「そーだ、前のバンドの動画とか、ないの?」 シルクが思い付いて、訊いてきた。 「あーあるかも…」 僕は、PCの前に行った。 そして…確か誰かがアップしてた筈の… 前のバンドの動画を探した。 「一応ありました…」 「観たいー」 全然、メンバー向けの記録的な動画だったが… とりあえず、流してみた。 ちょっと恥ずかしいな… 「これって、オリジナル?」 「あ、はい…そうです」 「誰の曲?」 「これはギターの人かな」 「ふーん…」 ちょっと小っ恥ずかしくて、 僕はゴクゴクとワインを飲み切った。 シルクは本当に、黙ってジーッと動画を観ていた。 そして、いちいち「これ誰の曲?」って訊いてきた。 僕は新たにハイボール缶を開けながら… 自分作の曲が出てきた所で、先に言った。 「あ、これは僕の曲です」 「…」 シルクは、一層動画に集中した。 「へえー」 曲が終わって…彼はしみじみと言った。 「いいね、これ…やりたいな、俺らでも」 「…ホントですか?」 「うん…メッチャ世界観あるじゃん」 「そーですかねー」 気を良くして、僕は続けた。 「ちなみにこのあと全部、僕の曲です…」 「…」 またシルクは、動画に集中した。 「…これもいいな…」 「…あーこれも好き…」 「これも?お前作ったの?」 いちいち言ってくるもんだから… 僕はいっぱい飲んでしまった。 「…この動画、みんなに送っとくわ」 「マジですかー」 「うん、マジで、やりたいお前の曲…」 「…ありがとうございます…」 シルクはカチカチとPCを操作して、 早速、お2人様に、送ったようだった。 「絶対あいつらも良いって言うよ」 「…」 ひとしきりの作業を終えて… シルクもテーブルに戻ってきた。 彼もワインを飲み終え… ハイボール缶を開けていた。 なんか…酔っ払っちゃったなー 「ごちそうさまでした…」 料理もきれいサッパリ完食し、 今度はちゃんと、落ちる前にテーブルを片付けた。 僕が食器を洗っている間に、 シルクはまた、僕の前のバンドの動画を観ていた。 「…また観てんですか」 洗い終わって、僕はそう言いながら…彼に近寄った。 と、シルクは、椅子から立ち上がり… いきなり僕を抱きしめたかと思うと、 そのまま、敷きっぱなしだった布団の上に、 ドサッと僕を押し倒した。 「…うわっ」 シルクは、僕を見下ろして…訊いてきた。 「ねえ、あのバンドのときは玩具じゃなかったの?」 僕はすぐに答えた。 「…そんなシステムありませんでした」 「誰ともやってないの?」 「やってませんー」 「…俺らだったら、もっと上手く演れる」 「…えっ」 「…俺は、あのベース弾いてるやつより、もっとお前の良さを引き出せる」 「…」 シルクは…なんていうか… あれか…ヤキモチ妬いてる…? みたいな表情をしていた。 そしてそのまま、勢いよく僕に口付けた。 「…んんっ…」 ゆっくり口を離れたシルクは… じっと僕の目を見て、言った。 「俺だけってのは諦める… 」 彼は、僕の顔を撫でた。 「でも、TALKING DOLLでは、なんとしても、お前を独占させて欲しい…」 言いながら彼は、僕の身体を力強く抱きしめた。 そんな風に言ってもらえることが、僕は嬉しかった。 例えそれが… 玩具育成の手の内の1つだったとしても…

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