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Dead Ending(2)

それは、可哀想な男の子の歌だった。 いわゆる引きこもりで、 誰の事も信じられなくなった彼が… 彼を思う両親を殺めてしまう そんな絶望の真っ只中の彼の心情を、 つらつらと並べた歌だった。 「…重い歌詞のくせに、サビがキャッチーだね」 「この、そぐわない感が、逆にイイなー」 「こんなシンプルな曲に、よくそんなメロディーが浮かぶな…」 シルクがしみじみと言った。 「浮かんだわけじゃない…聞こえただけなんだよー」 僕は少し照れながら言った。 「聞こえるって能力スゴい…」 サエゾウがそんな風に言うので、 僕はキッパリと言い切った。 「そうじゃなくて、曲に伝える力があるんだと思う」 「…」 「…」 「…」 静かになっちゃった… 3人様は、ちょっと泣きそうになっていた。 「カオルー嬉しいー」 やっぱりイチバンにサエゾウが ガバッと僕に抱きついてきた。 「お前、なんていい奴なのー」 言いながらサエゾウは、僕の頬に… そしてくちびるに…口付けた。 「…この曲もやろう…」 カイが言った。 「PVは、これ入れて4曲にしよう」 「そーだね、それがいいわ」 「LIVEのセトリは、プラス前の2曲とカオルの曲」 「いいと思うー」 「じゃあ次回のリハは、その方向でいきましょう」 「決まりー乾杯〜」 「本日3回めだな…」 改めて僕らは乾杯した。 「新曲が増えるって、楽しいよね」 「うん…」 「それもみんなカオルのおかげだわ」 「いやだから、僕は聞こえるだけなんでー」 そして、その日の楽しい宴会は、 そう遅くなくお開きとなった。 「じゃあ俺は、明日早いから、さっさと帰るわ」 カイはそう言い残して、シュッと出て行った。 「どーすんの?カオルは…」 「えっ…」 「ご本人とこに置いてく?」 サエゾウは、またちょっと悔しそうに言った。 「…連れて帰ってもいいよ」 シルクはサラッと言った。 「…」 僕はちょっと困ってしまった。 サエゾウは少し考えてから、言った。 「置いてくから…下まで見送って」 「…はい」 「じゃあねーシルク」 「んー」 サエゾウは、僕の手を握って、シルクの部屋を出た。 そのまま僕らは手を繋いで、階段を降りた。 ビルの玄関を出るとサエゾウは、 すぐ先の人気のない駐車場に僕を連れ込んだ。 そして僕の顔を両手で押さえて言った。 「お前…シルクのこと大好きだもんなー」 僕は彼を見つめて、答えた。 「サエさんも好きです…」 「…うん」 「カイさんも…」 「うん…知ってる」 そう言うとサエゾウは、僕に力強く口付けた。 「…ん…」 彼の舌が、口の中に激しく侵入して… 僕は思わず、ガクンと膝が折れそうになった。 そんな僕を支えながら、 彼は僕をしっかりと抱きしめた。 「…今日はこれで我慢しとく…」 ゆっくり口を離して、彼は言った。 「宵待ちくん…ホントにありがとう」 「…」 名残惜しそうに…サエゾウは、僕から離れると、 僕の頭をポンポンと叩きながら言った。 「あとは、シルクに可愛がってもらえー」 「…っ」 そして彼は、手を振って… 向こうへ歩いて行ってしまった。 僕は彼の後ろ姿を見送った。 手を振りながら、最後の曲がり角を曲がって、 サエゾウの姿が見えなくなってから… 僕は再び、シルクの部屋に戻った。 「…ただいま」 「んー」 シルクはテーブルを片付けていた。 僕は…何となく、またたまらない気持ちで… 黙ってシルクの動きを目で追った。 やがて彼は、ベランダの窓を開けて… 煙草に火を付けた。 「ふうー」 僕は、ゆっくりそこに近づき… 背中からシルクに抱き付いてしまった。 「…!?」 シルクはとても驚いた顔をしていた。 「…サエさんに…シルクのこと、大好きだもんなーって言われた…」 僕は彼の背中に顔を埋めたまま、そう言った。 シルクは、すぐに平静を取り戻して、 また煙草をふかした。 「…そうなの?」 「…」 「でも、サエもカイも好きだろ?」 「…うん」 シルクは煙草を揉み消すと… ベランダの窓を閉めてから、僕の方を振り返った。 そして、正面から僕の目をマジマジとみながら、 少し怒ったような顔で訊いた。 「誰がいちばん好きなの?」 「…」 「たぶん、みんな同じくらい…お前の事が好きだ」 「…」 答えに困ってしまった僕を見て、 シルクはふっと表情を緩めて、微笑んだ。 「でもね、お前が誰がいちばん好きか…なんて、実はきっと誰も気にしてないと思う…」 「…」 彼は、僕の顔を両手で押さえた。 「そんなことより、バンドが良くなれば、それでいいって思ってるんだよ、みんな」 「…そうだね…僕もそう思う」 そう答えた僕に… シルクはそっと口付けてから、続けた。 「まーでも…バンドが破綻したときの争奪戦は、恐ろしいことになりそうだけどなー」 「…っ」 …僕は苦笑した。

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