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太陽と月

まだ少し肌寒かったランシェットの誕生日から少し時は流れ、暖かな日差しがきらきらと新緑に輝く季節になっていた。 王は二十五歳になっており、王女は二十二歳。 国を上げて輿入れのパレードが催され、隣国の国境から王宮まで国民が列を成して歓迎した。 その様子を王宮の自室からそっと眺めたが、豊かな黒髪の美しい、意志の強い瞳をした女性だと感じた。 噂に伝え聞くガズールの砂漠を思わせるような、褐色の肌が贅を尽くした白い婚礼衣装から覗いていた。 ガズールは広い領土を持ち海にも接しているが、国土の大半が砂漠であり、ヴォルデのように農業が上手く根付く土地ではない為ヴォルデとの結びつきを強く求めていた。 ヴォルデはフォルスト王の母でもある先代の正妃を、ガズールとも国境を接しているフィリル王国から迎えていたが、フィリル王国は雪深い峡谷が故に資源が限られており今のガズールと対抗する程の国力はなく、後ろ盾の欲しいヴォルデの重臣の殆どとガズールの思惑が一致し婚礼の運びとなったらしい。 王のあの夜の言葉を思い返す。 熱くランシェットを見つめていた瞳が、王女に優しく微笑みかけている。 きつく絡め合った指も、今は王女のしなやかなそれを優しく支えている。 ――胸の奥がきしむように痛い。 太陽の光に照らされ、民からも祝福を受け歩みを進める二人が妬ましい。 堪えられなくなり窓から離れようとした時、王女と視線が合った気がした。 王は子孫を残し、国を繁栄させていかねばならない。 その障害になってはいけないと解っていた為、婚儀から少ししてランシェットは称号の返上と領地へ戻ることを申し出たが、王は聞き入れることは無かった。 そればかりか、それ以後まだ婚儀から日もさほどたっておらず王女の元へ通うべきであろうところを、ランシェットの寝室に通う日が週に一日、二日と増えてしまっていた。 これが仇となってしまう。 アリオラ王妃が身篭ったという報せが国に知れ渡った後のことだった。 何者かの差し向けた屈強な男達がある夜ランシェットの寝室に押し入り、暴力的に辱められた挙句、王がありながらランシェットから望んで以前より何度もその男たちと姦通していたという汚名を着せられることになってしまう。 ランシェットの存在が疎ましいのは誰か。 一番疑わしいのは王妃だが、証拠は何も無かった。 隣国から嫁ぎ身篭ったばかりで王やその淫らな愛人にとんでもない仕打ちを受け、心労で塞ぎがちになったとして、アリオラはランシェットの幽閉を王に求めた。 王は仕方なく、王都から離れた塔にランシェットを幽閉することを決めた。 噂というものは恐ろしいもので、さらに根も葉もない話が追加され、ヴォルデ始め周辺各国内ではランシェットが稀代の好き者であり、男と見るや誘惑してくる魔性の男だ、まだ若かった王を手玉に取り堕落させた淫らな男だなどということになっていた。 その為、先代の塔守は退役間近の老いた男だったのだろうし、十年経った今でも出会って僅かの新塔守が名を聞いて息を飲むほど固く信じられていたのだった。

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