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第15話 夏休み②
夏休み。
真は今井に夏祭りに誘われた。真と二人きりで夏祭りに行って今井は楽しめるのかと不安に思ったものの、用事もなく断る理由もないし、純粋に夏祭りには行きたかったので彼の誘いを受けた。ささやかだが花火も上がるので、それもとても楽しみだった。
そして夏祭り当日。真は無理やり母親に浴衣を着せられた。
「夏祭りには浴衣で行くの!!それがサキュバスの常識なの!! 浴衣の色気で男を誘惑するのはサキュバスにとって使命なの! だから真もわざと胸元をはだけたり太股を見せたりしてしっかり男を誘惑してくるのよ!」
わけのわからない常識を押し付けられても困る。
母のような美女であれば浴衣の需要もあるだろうが、真が浴衣を着たところで誰も誘惑などされないだろう。必死にそう伝えたのだが聞いてもらえず、真は浴衣に着替えさせられてしまった。浴衣にパンツは必要ないと、パンツを脱がされそうになったがそれだけはどうにか阻止して、真は逃げるように家を飛び出した。
早めに着いたのに、待ち合わせ場所には既に今井が立っていた。真は彼に駆け寄る。
「今井くん、待たせてごめんなさいっ」
「別に…………っ」
顔を上げ、真の姿を見て今井は僅かに目を瞠った。
「お前、浴衣で来たのか……」
「あ、う、ご、ごめんなさい……」
今井は普通にTシャツにジーンズ姿だ。
浴衣で来た自分がめちゃくちゃ気合いが入っているみたいで恥ずかしい。今井も浴衣姿の可愛い女の子なら喜んだのかもしれないが、浴衣を着た真と並んで歩くのは嫌だと思っているかもしれない。やっぱり家に帰って着替えようか。
「なに謝ってんだよ」
「ぁ、う……」
「いいから、とっとと行くぞ」
「えっ、あの、僕、このままでいいの……?」
「なにが」
「浴衣、着替えてきた方が……」
「なに言ってんだ、さっさと来い」
「は、はいっ……」
今井は背を向け神社に向かって歩き出す。不安は残るものの、真は彼の後を追った。
屋台の立ち並ぶ人混みの中を、今井と歩く。
「あっ、今井くん、今井くん、チョコバナナ買っていい?」
「あ? あー、あそこか」
なかなか人混みの中に入っていけない真を今井がうまく誘導してくれる。一人だったら一つなにかを買うたびにかなり時間がかかっていただろうが、今井が先導してくれたお陰でそれほど時間がかからずスムーズに買うことができた。
チョコバナナに焼きそばにたこ焼き。りんご飴は両親へのお土産として買った。
人混みから外れ、今井と二人で買ったものを食べる。
「美味しいねっ」
熱々のたこ焼きをはふはふして食べながら、今井に満面の笑みを向ける。お祭りの雰囲気にあてられ、真のテンションも上がっていた。
「だな」
焼きそばを啜りつつ応える今井も機嫌がよさそうだ。
真と二人きりで楽しめるのか不安だったが、少しは楽しんでくれているのかもしれない。そう感じて、真の気分も高揚した。
自然と笑顔になりにこにこしながらたこ焼きを食べていると、隣で今井が小さく笑った。
「えっ、な、なに……?」
「お前、口の周りソースだらけだぞ」
「ウソ……!?」
真は顔を真っ赤にして慌てて口許を拭った。
小さな子供みたいで恥ずかしい。けれど、楽しそうに笑う今井の笑顔を見ていると嬉しくて、恥ずかしさなどどうでもよくなった。いつも怒っていることが多い今井がこんな風に笑ってくれるなら、こんな笑顔を見られるのなら、真にその笑顔を向けてくれるなら、それをとても嬉しいと思う。
いつになく穏やかな雰囲気で時間は過ぎていき、今井と一緒に回るお祭りはとても楽しかった。
人混みの中を歩き回って喉が渇き、冷たいものを食べようとかき氷を買った。食べながら歩いていると、気づけば真は今井とはぐれていた。周りを見渡すが、人が多すぎて今井の姿を見つけられない。
真は一旦人混みから離れた。
こんなに人が多くては、もう今井を見つけられないかもしれない。不安が込み上げ焦るが、ふとスマホがあることを思い出した。これを使えばすぐにまた合流できる。
真はほっと胸を撫で下ろした。
スマホを取り出そうと視線を下に向けていた真は、近づく気配に気づいていなかった。
ドンッと肩になにかがぶつかる。その衝撃で、片手に持っていたかき氷を離してしまう。
「うわっ、汚ねーなッ」
不機嫌な怒鳴り声に、真はビクッと肩を竦ませる。
最悪なことに、ぶつかったのはいかにもガラの悪い男で、その男に溶けかけていたかき氷をぶちまけてしまったようだ。
真は青ざめ、慌てて頭を下げる。
「す、すみません!」
「すみませんじゃねーよ、どうしてくれんだよッ」
「ああああの……っ」
恐怖のせいでまともな言葉も紡げない。
「こっち来いッ」
「ひっ……」
男に乱暴に引っ張られ、人気のない林の方へと連れていかれる。
「テメーのせいでびちょびちょじゃねーか! ああ!?」
「ひぃっ、すみません!」
「だから、謝られてもどうにもなんねーんだよッ」
「は、払います、クリーニング代! それで許して下さいぃっ」
涙目で男に懇願する。至近距離から睨み付けられ、真は上目遣いに男の瞳を見つめた。
すると男の双眸がギラリと光り、真を見る視線が変わる。息を荒げ、かなり興奮している様子だ。
このままでは殴られる、そう思った真は慌てて財布を取り出した。
「は、払います、今すぐ!」
しかし散々買い食いした後なので、財布の中身は殆ど残っていなかった。
財布の中を覗き込み、真は硬直する。
「…………払える金がないみてーだなぁ」
「ああああのっ、でもあのっ、今から家に帰って持ってくるのでっ」
「うるせぇっ」
「っわ……!?」
肩を突き飛ばされ、真は尻餅をつく。
はあはあと息を乱した男が覆い被さってきた。
「ひっ、な、なに……!?」
「金がないなら、体で払ってもらうしかねーよなぁ?」
「ええっ!?」
どうしてそうなるのだ。可愛い女の子相手ならばわかるが、真は至って平凡な男だ。こんな展開はおかしい。
ギラギラと正気を失くしたような男の双眸は、どこかで見たことがあるような気がした。混乱する脳裏にそのときの光景が蘇る。はじめて今井と佐野の精気を食べたあの日。セックスの直後に現れた教師だ。あの教師も、こんな風に急に雰囲気が変わって真に迫ってきたのだ。
それを今思い出したところで、どうにもならないけれど。
男は浴衣の上から真の体をまさぐってくる。
「ひっ、や、やめてくださっ……」
「うるせぇっ、じっとしてろっ」
男の荒い息が耳にかかりゾッとした。
ねっとりとした、濃厚な甘い香りが鼻を掠める。
この匂いは、興奮し欲情した人間が放つ精気の匂いだ。
その香りを吸い込み、真の体が火照りはじめる。体が精気を求め疼き出す。
けれど。
「やっ、離して、下さいっ……!」
いつもなら、この甘い匂いを嗅いだら精気が欲しくて堪らなくなる。
現に、体は確かに精気を求めていた。
でも、いつもとはまるで違う。今井や佐野や上原を相手にしたときのようにはならない。
身も心もどろどろに溶かされて、頭がくらくらして、胸がドキドキして、キスしたり抱き締めたり、相手に触れたくて、触れてほしくて堪らなくなる。
けれど今は違う。
触れたいとも、触れてほしいとも思わない。
心も体も男を拒絶していた。
サキュバスの血を引く真にとって、男とのセックスは食事でしかないはずだ。本能がこの男の精気を求めているはずなのに、心と体がそれを全力で拒絶している。
「ぃ、やっ、いやだっ……!」
死に物狂いで暴れるけれど、浴衣の裾を踏みつけられ、明らかに真よりも屈強な男に上から押さえつけられ、満足に動くこともできない。それでも、浴衣が乱れるのも構わず真は抵抗した。
嫌だ。怖い。気持ち悪い。
涙を零しながら、震える声を上げて必死に抗っていたとき。
「真っ」
今井の声が聞こえた。顔を向けるとこちらに走ってくる彼の姿が見えた。
真にのし掛かる男は今井の存在など気づいていない様子だ。血走った双眸で真の体をまさぐり続けている。
「真から離れろこのッ」
今井はその男をひっぺがし、思い切り顔を殴り付けた。呻き声を上げ、男は地面に転がる。
白目を剥く男には目もくれず、今井は真を助け起こしてくれた。
「おい、大丈夫か!?」
「う、うん……」
真は呆然と今井を見上げた。
「ありがとう、助けてくれて……」
今井に支えられ立ち上がり、乱れた浴衣を直す。
今井は真の手を握り、歩きだした。しっかりと今井に手を握られ、真の心は安堵に包まれる。温かくて、安心する。
半ば放心した状態で、真は今井に手を引かれるまま足を進めた。
祭りの喧騒から離れ、人のいない夜道を二人で歩く。
「今井くん……」
呼び掛けると、今井は足を止めこちらに顔を向けた。
今井の顔を見て、繋がれた手から彼の温もりを感じて、安心感からぽたぽたと涙が溢れた。
「僕、僕……っ」
「っ、まさかお前、あいつにヤられたのか……!?」
真の様子を見て今井の顔つきが変わる。
真はぶんぶんと首を振って否定した。
「されてない、今井くんが助けてくれたから……」
「どっか痛むのか? 悪い、頭に血が上って、確認もしないで引っ張って来ちまって……」
今井の手が気遣うように優しく頬に触れ、流れる涙を拭ってくれる。
「ううん、大丈夫、怪我もしてない、なんともないよ……」
不安げな彼の視線に、心から心配してくれているのが伝わってくる。
怖かったけれど、今井が助けてくれたから真はもう大丈夫なのだ。
ただ、頭が少し混乱して、情緒がおかしくなっている。
「今井くん、僕ね……淫乱だけど、他の男の人と、ああいうこと、したくない……っ」
「はあ?」
「僕、あの男の人に触られるのすごく嫌だった……怖くて堪らなかった……」
「っ、ん、なのっ、当たり前だろーがッ。レイプされてかけたんだぞ、それが当然の反応だろ」
「でも、僕、淫乱なのに……?」
真にはわからない。
サキュバスにとってセックスとは食事でしかないはずなのだ。食事のためにセックスしているのなら、あの男を今井達と同じように求めてもおかしくない。サキュバスであるなら、そうなるのが自然なのではないか。
あの甘い匂いを嗅ぐと誰であろうと見境なく発情し、男の精気を貪るのがサキュバスなのではないのか。
でも、さっきの男相手にはそんな風にはならなかった。甘い匂いを吸い込んでも理性を保ったままだった。
それなのに、今井達が相手だと、すぐに身も心もぐずぐずにされてしまう。
それはどうしてなのだろう。
「僕、おかしいのかな……?」
「おかしいわけあるかっ。それが普通だって言ってんだろっ」
「うん……」
でも、真は普通ではない。真にはサキュバスの血が流れているから。
それを、今井に言うことはできないけれど。
今井や佐野や上原に触られるのを嫌だと思ったことは一度もない。けれどさっきの男には嫌悪感しか感じなかった。
それは、どうしてなのだろう。
考えても、真にはわからなかった。
今井に手を引かれ、連れてこられたのは彼の家だった。
部屋に上がった途端、真はその場にへたり込んでしまう。
「真!? どうした!?」
傍らにしゃがんだ今井が顔を覗き込んでくる。
「な、なんか急に力が抜けて……」
真は自分の両手が震えていることに気づいた。
「今更、震えてきちゃった……」
へら、と笑うと、今井が震える真の両手を握った。
怒ったような彼の顔が近づき、唇が重なる。触れるだけの優しいキスに、強張っていた心が解けていく。
唇を離し、今井は真摯な眼差しを真に向ける。
「嫌か? お前が嫌ならしない」
嫌だなんて思わなかった。
「やじゃない……。し、してほしい……」
寧ろ、もっと触れてほしいと思ってしまう。
こんな風に自分から求めてしまうのだから、やはり真はサキュバスの血を引く淫乱な性質のはずなのだ。それなのに、どうしてさっきの男相手ではそうならなかったのだろう。
わからない。
今井は真の望み通り再び口付けてくれて、沸き上がる疑問は意識の外へ追いやられた。啄むようなキスは、徐々に深くなっていく。真が口を開けば、その隙間から舌を差し込まれた。粘膜の触れ合う感触が気持ちよくて、真は自分から舌を伸ばして彼のそれに絡める。
「んっ……ふぁっんっ……」
甘い香りを感じ、それを吸い込んだ真はぞくりと体を震わせた。精気を求めて体内が疼く。思考が蕩けていく。もっとこの甘い味を味わいたい。これで身体中を満たされたい。全身が今井を求め出す。
「ンッ、はあっ……今井くぅん……っ」
「っは……エロい声出しやがって……っ」
息を乱し、今井も明らかに興奮していた。
彼の欲情した顔を見ても恐怖なんて感じない。それどころか、性感を煽られ、もっと見たい、その情欲を孕んだ瞳にもっと見られたいとすら感じる。
下腹がじくじくと熱を持ち、真は無意識に内腿を擦り合わせた。
その場に押し倒され、角度を変えて何度もキスをされる。
真の舌に吸い付きながら、今井が浴衣を乱していく。差し込まれた掌が胸元を撫で、指先が乳首を探り当てる。
「ふぁっんんっ」
突起を軽く擦られただけで快感が駆け抜け、大袈裟に体が跳ねる。少しの刺激にすぐに固さを増していくそこを、指の腹でくにくにと押し潰された。
「んぁっあっあっあっあンッ」
「お前ほんとここ弄られんの好きだよな」
「あぁんっあっあっ、すきっ、指でいっぱい弄られるの、すきぃっ」
くりくりくりっと両方の乳首を捏ね回す指の動きに合わせ、びくびくびくっと背中が仰け反る。
「舐められんのも好きだよな」
「んあぁんっ、すきぃっ、それ、すき、すきっ」
濡れた舌で敏感なそこを舐められると甘い快感に全身が痺れる。
「ひぁっあっ、ちゅうって、されるのもすきっ、僕、僕ぅっ、男なのに、乳首ちゅうって吸われるのきもちいぃっ」
「っは……エロいねだり方しやがって……っ」
「ひゃあぁあんっ」
じゅうぅっと乳首を吸い上げられ、強烈な快楽に真は身をくねらせた。
「あっあっあっはぁあんっ、きもちい、よぉっ」
つんと尖った乳首を歯に挟んでこりこりと甘噛みされ、もう片方も爪の先でカリカリと優しく引っ掛かれ、ピリピリと鋭い刺激に背筋が震えた。
激しく身悶えたせいで浴衣がはだけ、真の下半身は殆ど剥き出しになっていた。露になった太股に、今井の手が触れる。勃ち上がり既に先走りを漏らすぺニスを下着の上から握り込まれた。
「んぁンッ」
「すげ、もうぐっちょぐちょだな」
揶揄するように笑いながら、今井は下着を下ろしていく。
「ほら、スゲー糸引いてんの」
「や、ぁんんっ」
ぬちゅ……と卑猥な音を立てながら、わざとゆっくり下着を脱がされ、真は羞恥に顔を真っ赤に染めた。
恥ずかしがる真を情欲の滲む双眸で見下ろし、今井は直接性器に触れた。
「触る前からちんこガチガチにしやがって……こっちも、もう濡れてんじゃねーか……っ」
「あンッ」
ぺニスを握るのとは別の手が、刺激を求めてひくひく収縮するアナルを撫でた。漏れ出た蜜で、今井の指がぬるりと滑る。
勝手に腰が浮き、中に欲しいとねだってしまう。
自分のはしたなさに泣きそうになるが、ぬぷりと差し込まれた指に内壁を擦られ、快感に羞恥など消し飛んだ。
「っ、中もぬるぬるだな。指入れただけで締め付けすぎだろ……」
「んぁっ、ってぇ、中、なか擦られるの、きもちぃっ、あっあぁんっ」
指にしゃぶりつくように肉壁が動いてしまう。
きつく締まる内部を、今井の指がぐちゅぐちゅと掻き回した。本数を増やし、前立腺をぐりぐりと擦り上げて真を悶えさせる。
今井は体をずらし、真の下肢へと顔を近づけた。
ぬるっとした感触がぺニスの先端を這い、真はびくんと反応する。
「あっ、やっ、だめ、舐めちゃだめぇっ」
今井の舌が真のぺニスを舐め回している。
真は必死に首を振り立て、行為を止めようとするが、ぺニスを舐められアナルを穿られ、強い快感を与えられた状態で満足な抵抗などできなかった。
「ひあっあっんあっあっ、だめ、だめ、離して、あっあぁっ、今井くぅ、んんっ、いっちゃ、も、いっちゃうからぁっ」
離して、と訴えるけれど今井はそれを無視し、ぺニスを口に咥え込んでしまう。
後孔をじゅぽじゅぽと掻き混ぜながらぺニスをじゅるじゅると吸われ、真の我慢は続かなかった。
「あっ、いっちゃ、いくぅっ、あっあっらめっ、出る、出ちゃ、あっあっあっあっあっ~~~~~~っ」
ぶるぶると腰を震わせ、真は今井の口の中に精液を放ってしまう。
ごくっ……と嚥下する音が耳に届き、真はぽろりと涙を零した。
「やっ、だめって、言ったのに、そんなの飲んじゃだめ、ひっうぅ、ごめ、なさ、ごめ……っ」
しゃくり上げ謝る真に、ぺニスから口を離した今井は呆れたような視線を向ける。
「お前ほんと、されるのは嫌がるよな」
「うっ、うっ……だって……っ」
嫌なわけではない。ただひたすらに申し訳ないのだ。
この行為は真が無意識に魅了 をかけてしまい、精気をもらうためにセックスしてもらっているのだ。今井の意思ではない。
それなのに、そんなことをさせてしまうのは申し訳なくて仕方ない。
「余計なこと考えずに感じてろ」
「ンああっあっふぅんんっ」
埋め込まれた指が、激しく後孔を行き来する。敏感な肉壁を三本の指で何度も擦り上げられ、真の罪悪感は霞んでいく。
「んはっぁあんっあっ、きもちいっ、いいっ、あっあっ、今井くぅんっ」
びくっびくっと背中が跳ねる。
快楽に蕩けた甘えた嬌声がひっきりなしに口から漏れ続けた。
不意に、なにかに気づいたように今井が動きを止めた。
「っ、悪い、背中痛いだろ」
「んぁっ……?」
言われて、ここが玄関を上がった廊下の床なのだと気づいた。場所なんて意識の外で、そんなこと気にならないくらい、ただ今井との淫靡な行為に耽溺していた。
「ベッド行くか?」
気遣うような問いかけに、真は緩くかぶりを振ってせがんだ。
「やっ、も、お願い、今井くんの、入れてほしい、今すぐ、欲しい、お願いぃっ」
「っ、っ、じゃあ、せめて後ろ向け。その方が楽だろ」
「やぁっ、このままがいい、今井くんの顔見たいっ、今井くんの顔見ながらがいいっ」
今井が真のために言ってくれているのはわかっているが、真は子供のように首を振ってわがままを言う。
苛ただしげに舌打ちし、今井は後孔の指を抜いた。
「ックソ、真のクセに、煽るんじゃねーよッ」
「ふあぁっ」
「おら、望み通り突っ込んでやるからケツ上げろッ」
「ンッあっあっ」
今井に大きく広げられた脚を折り曲げられ、腰が浮く。今井の眼前にひくつくアナルが晒された。
はしたないポーズに羞恥を覚える前に、張り詰めた陰茎がそこに押し当てられる。
「ひっあっあっあっあ────っ」
泥濘んだ肉筒に、剛直が突き立てられた。一気に奥まで貫かれ、真はその刺激に射精せずに絶頂を迎える。
「はっ、ひっ、くぅっんんっ」
ガクガクと痙攣する真を見下ろし、今井は口角を吊り上げる。
「っは、お前、入れられただけでイッたのか? 締め付け、すげ……っ」
「ひぅっ、んあっひあっああっ、いった、いっちゃった、のぉっ、あっあっ、いってる、のにぃっ」
今井は絶頂を迎え蠕動する肉筒の感触を楽しむようにぐぽっぐぽっと激しく奥を突き上げる。
絶えず強烈な快感を与えられ続け、真は涙を流して今井に縋りつく。
「はひっひっあっあっあっ、いまぃく、いまいくぅっんんあっ、ひっあっンンンッ、はげし、あっあっああぁっ」
「っ、お前は、激しいの、好きだろうが……っ」
「んひぁっあっ、すきっすきぃっ、はげしぃのっ、ああっひっ、きもちぃっよぉっ」
「淫乱が……っ」
「はひっひうぅんっ、ごめ、なひゃっ、ぼく、ぼく、いんらん、で、あっあっんあぁっ」
「相手が俺だから、気持ちいいんだろッ」
「ふえっ? えっ、あっあっアンッ」
「お前が、そうやって淫乱になるのは、俺が相手だからなんだよッ」
「ひああぁっ」
ばちゅっばちゅっと肉のぶつかる音と粘着音が響くほどの激しさで内奥を抉られる。
気持ちよくて、もうそれしか考えられない。
「あぁっ、あっ、いいっ、きもちいぃっ、あっあっひっ、いまいくぅっ、んあっ、いまいく、にぃっ、されるのきもちいいぃっ」
「俺だから、だろ……っ」
「んっうんっ、今井くん、んっんっあっ、いまいく、だから、きもちぃのっ」
頭の中も体の中も快楽でぐちゃぐちゃになる。
真が必死になって今井に腕を伸ばしてしがみつけば、彼は何度も優しくキスをしてくれた。
「んひっひっあっあっ、今井くぅんっ」
「っは、く、もう、イく……っ」
「あっあっあっ、いって、いまいく、中、僕のなか、出してぇっ」
「んっ……お前も……っ」
「ひあぁっあっンあぁんっ」
今井にぺニスを扱かれ、真も絶頂へと追い上げられる。
「んあっあっひあぁっあっ、いくっいくぅっ」
「っく……」
「っ、っ、~~~~~~っ!」
真は激しく全身を震わせ絶頂を迎えた。
ぎゅうっと内部が締まり、一拍置いて今井も胎内に射精する。
大量の精気を取り込み、真はうっとりとした顔で愉悦に浸った。
今井が体を離しても、真は食事の余韻を楽しむようにぼんやりと床に転がったままでいた。
そのとき、カシャリという音が聞こえて意識を現実に戻す。見ると、今井が真にスマホを向けていた。
「っえ? え、今、なにしたの……?」
「写真撮っただけだ」
「えっ? 写真って……僕のこと、撮ったんじゃないよね……?」
「お前を撮ったに決まってるだろ」
「な、なんでぇっ?」
今井は当然のことのように言うが、真には意味がわからない。
浴衣は乱れ殆ど脱げかけた状態で、だらしなく床に寝そべる真をなぜ写真に撮る必要があるのだ。
「この写真、佐野と上原に送ってやるんだ」
「ええっ、なんで!?」
「あいつらが、海に行ったときのお前の写真送ってきて自慢してきたからだよ」
「えっ……」
確かに真は佐野と上原と海に行った。そして確かに二人はスマホで写真を撮っていた。しかし今井に送っていたのは知らなかった。真の写真を送りつけたところで自慢になどならないだろうに。
「仕返しに今度は俺が羨ましがらせてやるんだよ」
「ええ……」
今井はどや顔でそう言うが、誰も羨ましがらないと思うのだが。というか、浴衣はぐしゃぐしゃで明らかに事後な写真を撮られるのは恥ずかしい。
「しゃ、写真、消すよね……?」
こんな写真残しておくはずはないだろうけど。
「は? 消すわけねーだろ」
「な、なんで!?」
「うるせーな。ベッド行くぞ」
「えっ? わっ!?」
今井に横抱きにされ、真はベッドへ連れていかれる。
ベッドの上に下ろされ、再び今井が覆い被さってきたとき、外から花火の音が聞こえてきた。
今井は顔を上げ、窓を見る。つられるように真もそちらへ視線を向けるが、そこから花火は見えなかった。
「忘れてたな、花火」
「うん……」
あんなことがあって、楽しみにしていたはずの花火の存在をすっかり忘れていた。あんなことがあった後では、見ても純粋に楽しめなかっただろうけれど。
「花火は見れなかったけど……でも、今日、今井くんとお祭り行って、一緒に見て回って、美味しいもの食べて、楽しかった」
「……だったら、来年も行くぞ」
「え……?」
「また来年行って、花火見るぞ」
「……うん」
ぶっきらぼうな今井の誘いに、真は頷いた。
その約束が果たされるのかどうかはわからない。
けれど、今井にそう言ってもらえたことが嬉しかった。
思わず笑顔を浮かべれば、今井も小さく微笑んだ。
今井の顔が近づいて、唇が重なる。何度もキスを交わしながら、また途方もない快楽に飲まれていく。
襲われたときの恐怖などすっかり頭から追いやられ、今井と過ごした楽しい時間と、心地よい快感に満たされる幸せな思い出だけが記憶に刻まれた。
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