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第20話 告白①
放課後。麻雀部の部室に呼ばれた真は部員の三人と麻雀卓を囲んでいた。
麻雀部の部員だけあって、当然だが三人はきちんとルールを把握していた。真はルールを教えてもらい、部室に置いてあった麻雀の入門書を読みながら参加していた。
そもそも部員が三人しかいないのに麻雀部が部活として成り立っているのか疑問だ。真が知らないだけで、他にも部員がいるのだろうか。
他愛ない会話を楽しみながら、真以外の三人は滑らかな手付きで牌を動かしている。
「えー、じゃあ今日食べてたお弁当、あれ、真ちゃんが作ったんだ?」
「う、うん……」
「真、料理できるんだな」
「まだまだ、得意ってわけじゃないけど……それなりには……」
佐野と上原の言葉に答えながら、真は入門書と自分の牌を見比べる。
「だったら、俺んちに飯作りに来いよ」
必死に入門書を読み込んでいると、今井がそう言ってくる。
今井は一人暮らしだ。そして如何にも自炊をしなさそうである。もしかしたら、毎日コンビニの弁当で済ませているのかもしれない。
「も、もちろん! 僕でよければ……」
今井の体が心配になった真は二つ返事で引き受けた。
「よし。じゃあ行くぞ」
立ち上がった今井は真の腕を掴んだ。
二人分の鞄を持ちさっさとドアへ向かう今井に引き摺られるように真は彼についていく。
「えっ、えっ!? 今日? 今から?」
「今井ずるーい。俺も真ちゃんの手料理食べたいのに」
「真、今度俺にも作ってくれ」
佐野と上原に挨拶を返す暇もなく、真は部室から連れ出された。
そうして真は今井の家に行くことになり、彼と一緒に電車に乗った。
タイミング悪く車内はかなり混んでいる。
真は今井と向かい合い、彼とドアに挟まれる形で電車に揺られていた。
「なんか、すごい混んでるね……」
「だな。……っと」
電車が揺れ、今井は体を支えるためにドアに手をついた。
真は彼の腕に囲われ、二人の体がぐっと近づく。
彼の男らしい首筋が目に入る。
微かに香ってくるのは、今井の匂いだ。精気の匂いではない。彼自身の匂いを感じる。
精気の匂いを吸い込んだわけでもないのに、真の体温は上昇した。
ドキドキして、顔に血が上る。
「お前、顔赤くねーか?」
「っえ……!?」
今井に至近距離から顔を覗き込まれ、心臓が跳ねた。
「大丈夫かよ?」
「う、う、う、うんっ、大丈夫、ですっ」
じっとりと額に汗を滲ませながら、真はこくこくと頷く。
怪訝な目で見下ろしながらも、今井はそれ以上追及してはこなかった。
真はこっそりと、上目遣いに彼の顔へ視線を向ける。
目付きは悪いけれど、整った綺麗な顔立ち。
前は怖くて、目も合わせられなかったのに。
今は彼の顔を見ていると、なんだか変だ。落ち着かないのに、じっと見つめていたいような、そんな気持ちになる。
心臓がドクドクと脈打っている。
無性に、今井に触れたくて堪らなくなる。
キスしてほしい。
抱き締めてほしい。
胎内がきゅんと疼く。
真は慌てて視線を落とした。
こんなのはおかしい。
精気の匂いを嗅いでいないのに。
体が発情したように火照っている。
でも、精気の匂いを嗅いだときとは違う。
精気を求めているのではない。
真は気づく。
精気を食べたいのではない。
ただ、彼に抱かれたいのだと。
口調は乱暴だけど、いつも真が求めればそれに応えてくれる。いっぱいキスもしてくれる。
それが嬉しくて、とても満たされた気持ちになって。
でも、それは真が魅了の力を使っているからだ。 そうでなければ、相手にもされない。
魅了の力を使わなければ、彼にも、佐野にも上原にも、抱いてもらうことなんてできない。
キスしてもらうことも。
抱き締めてもらうことも。
真が望んだってしてもらえないのだ。
真は地味で平凡で、彼らに相手にしてもらえるような魅力などないのだから。
そんなのわかりきっていることなのに、胸に鋭い痛みが走った。
傷つくなんておかしいのに。
素面の状態でキスしてほしいとか、抱き締めてほしいとか、そんなことを望む自分がおかしいのだ。 そんな風に思ってしまうなんて、それではまるで、彼らに恋をしているようではないか。
そう考えて、「恋」という言葉がストンと胸に落ちてきた。まさにピッタリ当てはまるのだ。
もう一度、今井へ視線を向ける。
彼の顔をじっと見つめると、胸がドキドキして、無性に彼に触れたくなった。
ああ、そうか……と真は納得する。
自分は彼らが好きなのだ。
友達としてではなく、恋愛的な意味で。
だから、精気を食べたいわけでもないのに抱かれたいなんて思ってしまうのだ。
好きで、だからこれからもずっと一緒にいたいと願っている。
けれど、なんの魅力もない真がこの先もずっと彼らの傍にいられるわけがない。
それどころか、真がサキュバスの血を引いていることを知れば。
魅了の力せいで真とセックスしていたのだと知れば。
軽蔑されるだろう。
真は事実を隠し、彼らに抱かれ続けていたのだ。
皆はそんなこと望んでいなかったのに。
真実を知れば、三人とも真に憤りを感じ嫌悪するだろう。
きっともう二度と顔も合わせてもらえなくなる。
三人に侮蔑の眼差しを向けられる場面を想像し、胸が激しく痛んだ。
気づけば真の双眸からぼろぼろと涙が零れていた。
いきなり号泣しはじめた真に、今井がギョッとする。
「なっ、なに泣いてんだよお前……!?」
「だ、だっ、だって、ぼく、みんなに、きらわれっ……いまいくん、たちのこと、すき、だけど……でも、すき、なんて、言える立場じゃ……ぼく、ぼく……っ」
「はっ? な、ちょ、落ち着けよッ。ほら、着いたからとりあえず降りるぞ」
動揺しつつも今井は真の手を引いて電車を降りる。
端から見ると、まるで真が今井にいじめられているようだった。
チラチラと向けられる周りの目など無視して、今井は真の腕をしっかりと掴んだままずんずんと足を進めた。
泣きじゃくる真は今井の自宅へと連れ込まれた。
並んでベッドに座り、真は全てを今井に打ち明ける。
自分がサキュバスの血を引いていることを。
今まで今井達に魅了の力を使ってしまっていたことを。
そのことを黙って、三人の精気を食べつづけていたことを。
このまま隠し通すことはできない。
彼らを好きだと自覚したあとで、また無意識に魅了の力を使ってしまい、抱かれることになったら。
そんなの辛いだけだ。
ならばいっそ、嫌われてしまった方がいい。
彼らが離れていき、近づかなくなれば、もう魅了をかけてしまうこともなくなる。
今井は黙って話を聞いていた。
「今までずっと、隠してて、ごめんなさい……っ」
深く頭を下げる。
全部吐き出し、真は今井の反応を待った。
謝って許されることではない。
これで完全に彼に嫌われただろう。
殴られ、罵られ、もう二度と近づくことさえ許されないのだ。
ぎゅっと目を瞑り身を縮める真の頭に、ぽん、と今井の手が乗せられた。
「お前、なんでそんな勘違いしてんだ?」
「…………へ?」
言われたことの意味がわからず、真は顔を上げた。
呆れたような双眸でこちらを見下ろす今井と目が合った。
「か、勘違い……? って、なにが……?」
「俺は別に、その魅了? ってやつにかかってねーよ。多分、佐野と上原もな」
「…………え?」
「少なくとも、俺は俺の意思でお前としたんだよ」
「…………」
真はポカンと今井を見つめ、それからぶんぶんと首を横に振る。
「いやいやいやいや、それはないよ! 今井くんが自分の意思で僕となんて、まさか……!」
否定する真を、今井は真剣な瞳でまっすぐに見てきた。
いつにない今井の雰囲気に、真は口を噤む。
「俺は、ずっとお前のこと気にしてた」
「ず、ずっと……って……」
「小学生の頃から、ずっと」
「ええっ……!?」
真は驚きに目を丸くする。
そんなことあるわけないと思うのに、今井の目は冗談や嘘を言っているようには見えなくて、否定することはできなかった。
「お前はもう、忘れてるかもしんねーけど……」
そう言って、今井は話し出した。
今井と真は小学校三、四年で同じクラスになった。
その頃、家族仲がうまくいっていなかった今井はすれていた。誰とも馴れ合わず学校では一人で過ごすことが多かった。
小学校四年のときの遠足でも、わいわいはしゃぐ集団から離れ、今井は一人林の中に入っていった。 集合時間になれば戻ればいい。それまでは一人静かに過ごそうと思っていた。
迷子になるなんて間抜けなことはしたくないので、ちゃんと戻れる範囲内で林の中を歩いていた。
そのとき、泣きながら歩く真とばったり遭遇したのだ。
目が合って、真は更に大粒の涙をぽろぽろと零す。目の前で泣かれてどうすればいいのかわからず今井は固まった。
『い、今井くん……?』
震える声で尋ねられ、思わず頷いた。そこで漸く今井も、この泣いている少年が同じクラスの小林真だと気づいた。しかし何故こんなところで一人で泣いているのかわからない。いじめられでもしたのだろうか。
『いまいくうぅん……っ』
真がいきなりしがみついてきた。
『な、なに、なにしてっ……!?』
今井は狼狽する。
こんなに泣きじゃくっている相手を振り払うこともできず、かといって慰めることも不器用な今井にはできないのだ。
『ど、どうしよう、ぼく、トイレに行って、そしたら、帰り道、わかんなくなっちゃったよぉ……っ』
『…………』
一人でトイレに行ったあと、帰り道がわからなくなって皆のところに戻れず、泣きながらさ迷っていたようだ。
真は完全に迷子になってしまったと思っているみたいだが、皆がいるのはここから十五分もかからない場所だ。
呆れつつも、必死に手を握り締めてくる真に胸が温かくなった。
『来いよ。俺が案内してやるから』
ぶっきらぼうにそう言って、今井は歩き出した。
『ほ、ほんと……? 今井くん、皆がどこにいるかわかるの?』
こくんと頷けば、真は安心したのか涙を止めた。
少しでも離れればまた迷子になってしまうとでも思っているのか、真は縋るように今井の手をずっと握っていた。
頼られている。必要とされている。そう感じて、今井は嬉しかった。
けれどそんなことはもちろん口には出さず、今井は仏頂面で無言のままただ足を進める。
『あ、あのね、おやつ食べる? 僕、マシュマロ持ってるよ』
そう言って、真は袋から取り出したマシュマロを今井の口に押し付けてきた。甘過ぎて今井はあまり好きではないのだが、いらないと言えばまた真が泣き出してしまうかもしれないと思って仕方なく口を開けた。押し込まれたマシュマロはやはり甘かった。
そして真は自分もマシュマロを食べ、幸せそうに笑う。
『美味しいね。マシュマロ、甘くて、美味しいよね』
ニコニコと嬉しそうな真を見ていると、なんだか今井も苦手なマシュマロが美味しく感じられた。
やがて林を抜け、すぐそこにわいわいと騒ぐ生徒達の姿が見えた。
『着いたぞ』
『わぁ……! ほんとだ!』
真の顔がばあ……と明るく輝く。
『ありがとう、今井くん! 今井くんはすごいね!』
真は満面の笑みを今井へと向けた。
心からの笑顔を向けられて、たったそれだけのことが今井は堪らなく嬉しかったのだ。
それから今井はずっとそのときのことを覚えていた。
真のことが気になって、でも自分から声をかけることはできなくて。
結局真とはそれっきりになってしまった。
進級してクラスも離れ、同じ中学に通っても三年間クラスは別でなんの関わりも作れず。偶然にも高校も同じで今度はクラスも一緒になったが、やはり今井の方から真に近づくことはできずにいた。全くタイプが違いすぎて、同じクラスでも挨拶すら交わさない、すっかり遠い存在となってしまった。
それでも今井は真のことをずっと意識していた。
無意識に目で追い、なにか話しかけるきっかけがないかと常に探していたのだ。
だから、真と廊下でぶつかったあの日。
真は顔を背けていたので気づいていなかったが、今井はずっと真を見ていた。
周りには誰もいなくて、声をかけるには絶好のチャンスだった。だが、声をかけたくてもどう声をかければいいのかわからず躊躇ってしまう。
逡巡している間に距離は近づき、このままではなにもできずすれ違ってしまうと思ったとき真がすっ転んだ。ぶつかって、なにがどうしてそうなったのか真が股間に顔を埋めていた。
そういう状況ではないのに、数年ぶりに真にこんなに接近して。真が触れられる距離にいる。というかがっつり触れている。そう実感すると同時に真に欲情していた。
そして欲情した今井の甘い精気の匂いで真も欲情したのだ。
「わかったか? 俺は魅了なんてのにはかかってねーんだよ」
今井の話を聞き終え、真はぱちぱちと瞬きする。
遠足のときのことはぼんやりと覚えている。迷子になって心細くて怖くて、でも今井に助けてもらったということは。マシュマロのことや交わした会話など、細かいことは思い出せなかったが。
「魅了にかかってないのに、どうして、僕と……し、し、してくれたの……?」
「はあ!? だから、お前のことが好きだからだろーがッ」
「えっ、ええっ……!?」
「なんでわかんねーんだよ」
「だっ、だ、だってそんな……今井くんが、僕のことを……なんて、そんなこと……」
そんなことがあるというのだろうか。
真を見つめる今井の瞳はとても真摯で、信じられない、なんて否定することなどできなかった。
「で、で、でも、僕、普通じゃなくて、サキュバスの血を引いてて、こ、こんな、僕を、す、好き、なんて……」
「別に気にしねーよ」
「ええ!? で、でも、っていうか、信じてくれるの、こんな、話……」
「お前がそんなウソつく理由がねーだろ」
「そ、そう、だけど……」
「寧ろ納得したっつーか。じゃなきゃおかしいっつーか……。とにかく、ンなこと気にしてねーからお前も気にすんな。言っただろ、チンコ欲しくなったら俺に言えって」
「今井くん……」
「精気なんて、いくらでも食わせてやるよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。口調はぶっきらぼうだけれど、真を見つめる瞳も触れる手もとても優しい。
彼の気持ちが嬉しくて、だからこそ、真は罪悪感に胸が痛んだ。
「僕、僕ね……僕も、今井くんのことが好き……」
「真……」
「でもっ……でも、佐野くんと、上原くんのことも、好きなんだ……」
「…………」
「こ、こんなの、おかしいってわかってるんだけど……。一度に、三人のことが好きなんて……。でも、同じくらい三人のことが好きで、ずっと一緒にいたいって思ってて……。こんなのダメなのに、僕……っ」
「いーよ、別に」
震える真の肩を、今井が抱き締める。
「い、今井く……」
「俺だけじゃねーのは、まあ……ムカつくっちゃムカつくけどな……。けど、それでいい。お前はそのままでいい」
「今井くん……」
「あいつら二人がどう思うのかは知ンねーけど、俺はお前が好きだ。どうであれ、それは変わらねーよ」
全てを受け入れてくれる今井の優しさに、真の胸は甘く締め付けられた。
「僕も、好き……。今井くんが、好き……」
ぎゅうっと抱きつき、真も素直な気持ちを彼に伝える。
「真……」
名前を呼ばれ顔を上げると、優しく口付けられた。
今までずっと、こうしてキスをしてくれるのは魅了にかかっているせいなのだと思っていた。彼の意思ではないのだと。
でも違うのだ。彼は彼の意思でこうして真にキスをしてくれている。
そう思うと胸に喜びが広がった。嬉しくて、頭がふわふわする。
真はとろんとした顔で彼のキスを受け入れた。
唇を啄まれ、角度を変えて重ねられる。
それだけでは足りなくなって口を開けば、ぬるりと舌を差し込まれた。
「んっ、ふぅっ……」
真は自分から彼の舌に舌を触れ合わせ、擦り付ける。ぴちゃぴちゃと音を立て、舌を絡ませ合うと蕩けるように気持ちよかった。
キスをしながら、今井が真のシャツのボタンを外す。前を開かれ、彼の掌が胸を這う。
「はっ、ぅンッ、んんっ」
彼の掌の感触にぞくぞくして、真は塞がれた唇からくぐもった声を漏らした。
指が乳輪をくるりと撫でる。もどかしい快感に、乳首が徐々に固くなっていく。
「んふっ、ふっ、ふぅんんんっ」
ねだるように僅かに身を捩れば、ぷくりと膨らんだ乳首をきゅうっと摘ままれた。途端に強い快感が駆け抜ける。
乳首への刺激に意識を取られ、無防備になった真の口腔内を今井が我が物顔で蹂躙する。
口の中を舐め回され、上顎を舌で擦られた。
同時に乳首をくりゅくりゅと捏ね回され、真は快楽に身悶える。
下半身がじんじんと熱を持ち、頭を擡げたペニスからはじわりと先走りが溢れていた。
「ンッ、ンッ、ぁっ、はんんっ」
だらしなく開いた唇の端から唾液が顎を伝って流れていく。
引き出された舌が今井の口の中へと引き込まれ、音を立てて吸い上げられた。
乳首はこりこりと転がされ、与えられ続ける快感に真は体を震わせる。
「んぅぅんんんんんん~~~~っ」
じゅるじゅると舌を吸われ、絶え間なく乳首を弄り回され、びくんびくんっと真の腰が跳ねた。じわりと下着が濡れるのを感じる。
そこで漸く今井が唇を離した。
「お前、イッたのか?」
「はっ、ぁっ……ご、ごめん、なさ……出ちゃった……」
下着を汚してしまった情けなさにじわりと涙が浮かぶ。
こんなにも早く果ててしまった真を嗤うことなく、今井は瞳に情欲を浮かべた。
「なに謝ってんだよ」
「だ、だって……」
「いいから、脱げよ」
「ん……」
力の入らない真の下肢から、今井がズボンと下着を引き抜く。ぬちゃりと糸を引く光景に、真は強い羞恥を感じた。
「うぅ……ごめ、なさ……」
「だからなんで謝ってんだよ」
「わかんない、けど……は、恥ずかし、くて……」
「なんだよソレ」
今井は笑う。
彼の表情はいつもより優しい。
ぽうっと見惚れていると、ベッドに押し倒された。
再び唇が重なる。深く口づけ、唾液と舌を絡め合う。
今井の唇は顎を辿り、首筋へ移動する。
「ひゃっ、ぁうんっ……」
首筋を舌が這い、ぞくぞくっとした感覚が背筋を走った。
今井の舌が鎖骨をねぶり、ぢゅっと吸い付く。
丁寧な愛撫を施され、真は甘い快楽に耽溺する。
つんと赤く尖った乳首に唇が触れると、体が期待に震えた。
背中が勝手に浮き上がり、その先をねだってしまう。
今井が意地悪く唇の端を吊り上げた。
「エロいな、それ」
「ふっ……う……ご、め……」
「謝りすぎ」
「だって……っ」
「別に悪いなんて言ってねーだろ」
「で、でも……」
「寧ろ、興奮するからもっとしろ」
「ふぇっ? ッあ、んん~~っ」
おもむろに乳首にしゃぶりつかれ、真は更に背中を弓なりに反らせた。
熱い粘膜に敏感な突起を包まれて、舌の腹でぬるぬると舐められる。
「ひあぁっ、あっンッ、んんぅううっ」
快感に、びくんびくんっと体が反応する。
今井の唇が片方の乳首に吸い付き、もう片方を爪の先でカリカリと優しく引っ掛かく。
「んふぁっンンッ、きもちぃ、あっ、ちくび、きもちいぃっ、あっあんっ、今井くぅっ、んぁっあっ」
「お前、ほんとエロい声出すよな」
「うっ……」
「抑えんな、聞かせろよ」
「っ……」
ギラギラと嗜虐の色を孕んだ彼の双眸に見つめられ、ぶわわっと羞恥が込み上げた。
真は彼の視線から逃げるように、素早い動きでうつ伏せになる。
あまりの素早さに、今井が止める暇もなかった。
「おいこら、なんでそっち向いてんだ」
「だだだ、だって、恥ずかしくて……っ」
「なにを今更……」
本当に今更だ。けれど恥ずかしくて堪らないのだ。
いつもは精気の匂いにあてられて、羞恥よりも精気を食べたいという欲求が勝っていた。理性を手放し快感を求めてしまっていた。
今だって、確かに精気の甘い匂いを吸い込んでいる。濃い精気の匂いが充満しているはずなのに、けれど理性は塗り潰されることなく、今井と恥ずかしい行為をしているのだと強く実感してしまうのだ。
「こっち向けよ」
「むむむ、ムリ、だよ……っ」
「はあ?」
「だって恥ずかしいよ……!」
「ったく……」
呆れたように息を吐き、今井は真の腰を持ち上げた。
ベッドの上に膝を立て腰を突き出すようなポーズをとらされ、真は更なる羞恥に襲われる。
「やっ、今井くっ、んひぁっ……!?」
抗議の声を上げるつもりが、ぬるりとした感触が臀部を這い、甲高い悲鳴が漏れた。
「ひっ、やっ、うそっ、あっやぁっ、今井く、だめぇ……っ」
慌てて制止の声を上げるけれど、それを無視して今井は後孔に舌を寄せる。
「あっ、今井くぅっ、だめ、だめっ、そんなとこ、舐めちゃ、あっあっんゃあっ」
既に蜜で濡れていたそこを、ぴちゃぴちゃとねぶられる。
恥ずかしいし申し訳ないのでやめてほしいと思うのに、後孔は悦ぶように開閉した。中も、とねだるように舌を誘い込もうとする。
「言えよ、真。中も舐めてほしいって」
「っ、そんな、あっ、だめぇっ、そんなの、だめ……っ」
「ダメじゃねーだろ、ほら、吸い付いてくるくせに」
「あンッ、んんっ、だって、勝手に、そうなっちゃ、あっあっ」
「ひくひくさせて、ねだってんだろ。言えって」
「だ、めっ、あぁんっ」
「聞かせろよ、真のおねだり」
「っ、で、も……っ」
「言ってほしいんだよ、真に」
熱っぽい声音でそう言われたら、真は断ることなどできなかった。
「っ、今井く、ンッ……なか……なかも、なめてぇ……お願、あっんっん~~~~っ」
ぬぐーっと舌が中に侵入してくる。熱を持ったそれが内壁をにゅるにゅると舐め回し、内腿が快感に震えた。
「んあっあっ、ひぁっンンッ、きもち、いっ、あっあっ、今井くぅっ、きもちぃっ、あぁんっ」
にゅぽっにゅぽっと舌を出し入れされ、粘膜の擦れる感覚にぞくぞくする。
「スゲーひくひくしてんぞ。そんな気持ちいいのかよ」
「あっあーっ、だめ、ンあっあっ、ひあぁっ」
じゅぷじゅぷと卑猥な音を響かせながら、更に激しく舌で犯される。
「そんなに、しちゃっぁあっ、だめっ、ああぁっ、いっちゃ、いくっ、いくいくっ、ぃっあっあっ、~~~~~~っ」
きゅうぅっと舌を締め付けながら、真は射精せずに絶頂に達する。
痙攣する後孔からにゅぽんっと舌を抜かれて、その刺激にも軽く達してしまう。
「感じすぎだろ」
「あっあっ、ごめ、なひゃ、ぁああっンッあーっ」
舌で解されたそこへ、ぶちゅんっと指を挿入された。
「スゲ、奥までとろとろ……」
「ンはぁっあっあっ、ゆび、ゆびぃっ、ぐちゅぐちゅ、しちゃぁっあっあぁっ」
「めちゃくちゃ吸い付いてくんな、お前の中」
「んぁあああ~~っ」
指を増やされれば、内部がひくんひくんと蠢き悦ぶ。
中を掻き回され、敏感な膨らみを指の腹で擦られる。
「ひぁあっあっひぅんっ、ンッ、そこっ、きもちいっ、あぁっあっ、────っ」
こりゅんこりゅんと前立腺を押し潰されて、ペニスから精液が飛び散った。
射精してもそのまま中を弄られ続け、真は終わらない快感に身をくねらせる。
「はひっんんんっ、い、くっ、また、あっあっあっ、いくぅぅぅっ、~~~~っ、っ、いって、いってるのにっ、あっあっあっ、らめぇっ」
「ダメじゃねーだろ。気持ちよさそうにケツ振って、俺の指美味そうにしゃぶってるくせに」
「ンゃぁああっ、やっ、ぼく、ばっかり、やあぁっ、おねが、あっあっ、今井く、今井くんと一緒がいいぃっ、一緒に気持ちよくなりたい、ンああぁっ」
じゅぷんっと指を引き抜かれ、ペニスからぴゅくっと精液が漏れた。
真はベッドに伏せ、腰を突き出した態勢で首を後ろに向ける。情欲を滲ませた瞳でこちらを見下ろす今井を見つめた。
「今井くんの、おちんち……ほしい……おねがぃ、入れてぇ……」
ごくりと喉を鳴らした今井は真の腰を掴み、そしていきり立つ肉棒をぬかるんだ後孔に突き入れた。
「ひあっ、あああんぁぁあっ」
媚肉を掻き分け、剛直が一気に奥を貫く。
真は背中をしならせ絶頂に震える。
目の前がチカチカするほどの強烈な快楽に、ただ嬌声を上げることしかできない。
「あっあっんひぁっ、はぁんッんっあっあっあぁっ、いまぃ、くぅっンンッ、ひはっあっああぁっ」
「っは……あー、イきっぱなしになってんのか? っ、お前ん中、スゲーうねって、ヤバ……っ」
ぐちゅんっぐちゅんっと、剛直が激しく出し入れを繰り返す。膨らみを亀頭で抉るように擦り上げ、内奥を強く突き上げる。
真のペニスからは壊れたようにパタパタと体液が滴り落ち、後孔は断続的な絶頂に蠕動が止まらない。
「はひぃっんっ、ぃま、ぃくぅっ、んっんっんうぅっ、あっあっあひぁっ、いまい、くぅんっんっひっあっあああぁあっ」
歓喜の悲鳴を上げながら、真は何度も今井の名前を呼ぶ。
魅了にかかっているわけではない。彼は彼の意思で、こうして真を抱いてくれている。それが堪らなく嬉しくて、体は貪欲に快楽を求め溺れた。
「っ、真、真……っ」
応えるように、熱の籠った掠れた声音で名前を呼ばれる。
喜びに胸がきゅんと締め付けられ、連動して後孔もきつく中を締め付けた。
「っあ、くそッ、んな締めんな、もたねー、だろ……ッ」
「あっひぅぅっンぁあっ、はげし、んひっあっあぁっ、ああぁっあっあっ」
今井は真の腰を強く掴み、最奥を穿つ。
ごちゅっごちゅっと奥深くを貫かれ、真はおかしくなりそうなほどの快感に襲われた。
「あひぁああっあっ、らめっ、あっはぁあんっんっあっあっあ────っ」
「っは、真……好きだ、真……ッ」
今井の言葉に、これ以上ないくらいの愉悦に満たされる。
真も伝えたいのに、激しい抽挿にまともな言葉も紡げずただ快楽に喘いだ。
「んひうぅっぅぁあっあっあっひぁあああっ」
「真、真っ、出る、出すぞ……っ」
「はひっ、ひっあっあっあっあ~~~~っ」
ぐぷんっと奥まで捩じ込まれた亀頭から、熱い精液が吐き出される。びゅーっびゅーっと注がれるそれを、真は恍惚とした顔で受け入れた。
腰から手を離されると、膝に力の入らなくなっていた真の体はべちゃりとベッドに落ちる。同時にずるりと陰茎が抜けた。
「あっちぃ……」と呟いて、今井はシャツを脱ぎ捨てる。
陶酔した表情で浅い呼吸を繰り返す真の背中に、今井が覆い被さってきた。彼の息も荒く、熱い体温が伝わってくる。
顔の横に置かれた今井の手が視界に入った。真は彼の指をそっと握る。
「真……?」
「今井く……好き……僕も、好き、今井くん……」
さっき言えなかった言葉を伝える。
首を横に向け、今井と目を合わせてへにゃりと笑った。
「大好き、今井くん……」
今井が僅かに息を呑む気配を感じた。
そして柔らかく綻んだ後孔に、ずぶんっと真上から剛直を突き立てられる。
「んひっ!? っ、──~~~~~~!?」
一息に奥まで貫かれ、体が勝手に絶頂を迎えた。
唐突に与えられた強い快楽を、真は受け入れることしかできない。
「はっひっひあっ、待っ、まっひぇっぇあっあっ、おく、おくっうぅっ、そんな、しちゃっぁああっ、んひっひうっ、うっンうぅうううッ」
「お前がっ、煽るから悪いんだろッ……可愛いんだよ、くそッ」
「あっあっあっあーっ」
シーツに縫い止めるように両手をきつく握られ、ぴったりと背中に張り付かれ身動きの取れない状態でぐりゅぐりゅと最奥を穿られ、真は涙を流してよがり声を上げる。
「ンひぁっあっ、ぃまいくぅっ、ひっあっあっ、~~~~っ、はっはぅっンンッ、んっひっくうぅんっ」
「あーっくそッ、お前ん中、よすぎて……マジで、止まんねー……ッ」
強烈な快感に頭を支配され、それでも今井も同じように気持ちよくなってくれているのだということはわかって、それが嬉しくて、もっともっとしてほしいと望んでしまう。
「はぁうっんっ、いまいくっ、すき、すきぃっ、もっとしてっ、きもちよくなってぇっ、ぁあっあっあっあっあっんんぁあああっ」
「煽りすぎ、なんだよッ……めちゃくちゃされても知らねー、からなッ」
「あひぃんっ、して、してぇっ、いっぱいしてっ、あぁっあっあっ、すき、っまいくぅっ、すきっ、ひっあっあっあ~~っ」
「くっ、~~っ、っ、っ、俺だって、好きだっつのッ」
「んひぁあああっ、あっあっあーっ、ひはぁっぁあっあっ」
ぐぽぐぽぐぽぐぽっと何度も小刻みに最奥を貫かれ、真は快楽に泣き喘ぐ。
体は精気で満たされて、けれどそれよりも彼に抱かれる喜びの方が深く心を満たしてくれた。
もう何度も今井に抱かれてきたが、今までの行為とはまるで違う。
幸せで、とろとろに溶けてしまいそうなくらい気持ちよくて、真は際限なく彼を求めた。同じように今井も真を求めてくれて、それが嬉しくて更に離れられなくなった。
気づけば随分と時間が経っていて、真は今井の家に泊まることになった。
真はセックスで体力を消耗しても精気をたっぷり食べるので疲労が残ることはない。なので当初の目的通り、今井に手料理を振る舞うことができたのだった。
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