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第16話 台風の中の僕達3

彼が携帯をベッドの上に置いた後、 数分もすると当たりは完全に闇の中に消えた。 「矢野君、何にも見えないよ?」 僕がそういうと、 「停電してるんだから当たり前だろ」 と矢野君が答えた。 「これじゃ君の顔が見えないんだけど……」 「俺の顔なんて見なくてもいいだろ?」 「だって〜 矢野君の興奮している顔や、 立っているアレだって見たいのに〜」 僕がそういうと、 「お前、アノ話題からは離れろよ!」 と彼に頭を叩かれた。 「ちょと、ちょっと〜 真っ暗なのに何で僕の頭の位置が分かるの〜? やっぱりαだから? 暗闇でも目が効くの?」 「アホか! そんな訳ないだろう! お前はやっぱりどこまで行ってもアホだな」   と、訳もなくセックスからは雰囲気がかけ離れ始めている。 「ねえ、僕、凄く矢野君に触れたいんだけど〜」 そう言うと、矢野君も負けずと、 「お前に言われると、 何処を触られるか怖いよな」 と返して来た。 「もう! ロマンチックにって贅沢は言わないから、 せめてスムーズにセックスに進んでよ〜 矢野君て本当に経験あるの〜?」 と何だか疑わしくなって来た。 「お前な、後悔しても知らないぞ? 明日は足腰立たないかもだぞ?」 「プフフ、お手な意味拝見させて下さ〜い! 明日と明後日は仕事は休みなので良いんです〜」 そう言うと、彼が首に近づいて、 僕の事をスンスンと匂いを嗅いだ。 「何? 匂いを嗅いでるの? 何か匂う?」 「ああ、ヒートの始まりだよな。 僅かだが匂いが確認できる」 「やっぱり僕の匂いでも興奮出来ない?」 「まだ匂いは薄いからな。 これ位だと普通でも影響はそこまでしないだろう?」 「ふ〜ん、そんなもんなんだ…… きっと僕も周期外れのヒートだからそこまでないとは思うけど、 それでも何故今頃ヒートになったんだろう? 本当に分かんないや…… こんな事初めてだよ?」 「まあ、そんな事俺に言われてもな…… それよりもお前、妊娠する事はまず無いとしても、 ちゃんと避妊はしてるのか?」 「避妊? そんなのしてる訳ないでしょう? まさかこんな所でセックスするなんて夢にも思ってなかったし……」 「俺もゴムなんて持ってないし…… 勿論ジェルなんかも持ってないぞ?」 「大丈夫だよ! 僅かでもヒートになると濡れやすくなっちゃうからね。 でもゴム無かったらちゃんと外出ししてね」 「お前…… お前こそ本当に初心者か?!」 「まあさ〜 知識だけは詰め込んじゃったんだよ〜 耳年増なんだよね〜 年長さんって辛いよね〜」 「何の事だよ! 年長さんって。 やっぱりお前はバカだな」 「そんな事は良いから早く始めようよ〜 僕何だか暑くなって来ちゃった……」 僕がそう言うと、急に会話が途切れ、 僕たちの間に静粛さが戻った。 聞こえてくるのは荒ぶる外の世界の音だけだった。 「怖いか?」 闇を割いて矢野君が語りかけて来た。 「怖く無いって言ったら嘘になるけど、 凄くドキドキしてる」 「お前に触れても良いか?」 矢野君が尋ねた。 「うん、僕も矢野君に触れたい……」 そう僕がそう言うと、彼は僕の両手を取り、 自分の頬にそっと僕の手を置いた。 「矢野君の肌ってこんな感触なんだね……」 そう言うと、彼は “シーッ”と僕の耳に囁いた。 その声が僕の心臓の音を更に掻き立てた。 矢野君がどんな顔しているのか知りたかったけど、 当たりは暗くて、彼の表情は全然読み取れなかった。 「矢野君……」 そう呼びかけると、 彼は頬に置いた僕の手の平にキスをして来た。 「矢野君……」 僕はもう一度彼の名を呼んだ。 すると今度は僕の指で自分の唇を撫で始めた。 「柔らかい……」 そう言った途端、僕の指先から電気が走った様になり、 それはすぐさま僕の全身を回った。 震えさえ感じる程だ。 「矢野君、僕……、僕……」 「うん、大丈夫だ。 俺は此処にいる」 そう言われたとき、 堪らないものを感じ、 僕は自然に彼の手のひらにキスをしていた。 “彼が好きだ……どうしよう…… 僕は矢野君の事が好きなんだ……” 自分でも信じられない展開になった。 まさか矢野君の事を好きになるとは初めて会ったときは 思いもしなかった。 そう思うと嬉しさがこみあげてきて、涙が頬を伝った。 その涙が矢野君の指に落ちると、 彼は僕の涙を拭って、 そっと唇に触れたかと思うと、 彼の柔らかい唇が僕の唇に重なった。

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