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第36話 ブライダル・インフィニティ

「あの…… 長谷川と言いますけど、 嵯峨野さんと11時に約束があるんですけど……」 そう言うと、受付の綺麗なお姉さんがニコリとほほ笑んで 「少々お待ちください」 そう言って内線の受話器を取った。 “凄いな、受付嬢って噂に聞くようにやっぱり綺麗なんだな…… それにしても大きな会社だな……” 僕はキョロキョロと、お上りさんの様に周りを見回した。 ブライダル・インフィニティは初めて聞く名前だったけど、 10位の部門からなるブライダルのトータル会社で、 予想を上回って大きかった。 “こんな所の社長が何故ゼロの面接官になってたんだろう? ゼロと提供してるのかな?” 落ち着いて周りを見回すと、凄く緑が多い。 オフィスもとても明るいし、 ロビーにはソファーもあって、 どこそこに飾ってある花は、 まるで昨日の続きを見ているようなアレンジだ。 ブライダル会社と言うだけあって、 カップルの出入りが多い。 中には男性同士のカップルもいる。 きっとΩが伴侶になるカップルなんだろう。 “途端に矢野君の事を思い出した。  矢野君、どこにいるんだろう…… 僕のαなのに…… だめだ、だめだ、油断をするとすぐに彼の事を考えてしまう……” 僕が首をブンブン振っていると、 「長谷川様、ご案内します。 こちらへどうぞ」 そう言って受付嬢が席を立った。 「長谷川様をご案内してまいります」 そう言って他の受付嬢に挨拶をすると、 彼女は僕を従えてエレベーターの方へと進んでいった。 エレベーターを待つ間、 「あの……」 と声を掛けた。 彼女はニコリとして 「はい?」 と答えた。 「この会社はフラワーショップ・ゼロと 関連してるのでしょうか?」 僕はずっと疑問に思っていたことを訪ねた。 「はい。ゼロにはお式のお花を提供していただいているんですよ。 こちらのフラワーコーディネーターとあちらのコーディネーターが コラボレーションしているんです。 それにこのビルに飾られたお花もゼロのアレンジなんですよ」 そう言われ、やっぱりと思った。 他社の人間が何故面接官に?と思っていたけど、 嵯峨野さんはきっと第三者の視点から、 昨日の面接を行ったのだろう。 そんなことを考えているうちに、 あっという間にエレベーターは社長室のある5階に着いた。 「こちらです」 そう言うと、受付嬢は僕を社長室へと通してくれた。 そこで社長秘書である寺田由香さんにバトンタッチされた。 「ありがとうございました」 そう言って受付嬢にお礼を言うと、 彼女はニコリとほほ笑んで一礼すると、 自分の持ち場へと帰って行った。 「長谷川さんですね、嵯峨野社長にお伺いしております。 こちらでお待ちください」 そう言って応接室へと案内された。 僕は応接室にあったソファーに座ると、 バウンスしながらその座り心地の良さを確かめた。 “凄くしっくりくるな…… きっと高いソファーなんだろうな” 手で押して戻ってくる感覚を楽しんでいると、 「わざわざありがとう」 と嵯峨野さんがやって来た。 ソファーから立ち上がり挨拶をすると、 「楽にしてください」 そう言われ、僕はまたソファーに腰を下ろした。 嵯峨野さんも僕の目の前に座ると、 「今日、呼びしたのはだね、 長谷川君、ここでフラワーコーディネーターの 助手としてバイトしてみないかね?」 と予期しないオファーにびっくりした。 「僕がですか?」 「君の花冠にとても共感してね、 まだ作品としては荒削りだけど、 手元に置いて育ててみたいと思ったのだよ。 花冠を望まれる花嫁さんも多いし、 花冠だけではなく、 ブーケなども学んでみないかね? 幸い社にはとても優秀な人材が揃ってるんだが、 どうだろうか? 是非、受け入れて貰えないだろうか?」 思いもしなかったオファーに心躍る様な思いだった。 でも本当に僕なんかで良いんだろうか? 「あの…… 僕は昨日の面接はまぐれで受かった様なものなんです。 あの面接の意味も良く分かって無かったし、 花輪だって見様見真似で……」 そう言い掛けると、 「長谷川君、我社はゼロでは無いんだよ。 確かに他の面接者達は洗練されたスキルがあったかもしれないが、 私が探してるのは洗練されたスキルでは無く、 君の持っている感性なんだ」 「僕の感性……ですか?」 「君はまぐれでゼロの面接まで漕ぎ着けたと言ったが、 私はそうでは無いと思う…… 私も君の履歴書を拝見させて貰ったけど、 提出されていた作品には目を見張るものがあった。 きっとあそこに居た誰もが気付いて無いと思うが…… 君の一つ一つのスキルが洗練されて完成されていけば、 君はきっと素晴らしいコーディネーターになるだろう」 そう言われ、僕は彼の視点にとてもびっくりした。 でもこれは願ってもないチャンスだ。 是非チャレンジしてみたい。 まだ花に携わる仕事がしたいと思ってから日も浅いけど、 何も持っていなかった僕が目を留めてもらえた。 ここまで来ると、この道で極めてみたい。 僕はここで頑張ってみようと決心した。 「ありがとう……御座います。 是非やらせて下さい! 宜しくお願いします!」 そう言って深々とお辞儀をすると、 嵯峨野さんは手を差し出して僕に握手を求めた。 僕は手をシャツで拭うと、 嵯峨野さんの手をしっかりと握った。 嵯峨野さんは僕がシャツで手を拭く姿を見ると少しクスッとしたようにして、 「それじゃあ、 少し我社について説明したいんだが、 時間は大丈夫かね?」 と尋ねられたので、 「いえ、時間は大丈夫です。 是非お願いします」 そう答えると、 「寺田君!」 と嵯峨野さんが秘書の人を呼んだの同時に 彼女が束になった資料らしきものを持って来た。 その資料を受け取りパラパラとめくっていると、 この会社がウェディングに使っているホテルの名前が幾つか書いてあり、 僕の記憶が正しければそのホテルはすべて、 矢野君の家族が経営するホテルの名前だった。

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