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第38話 まさかの情報

僕はインフィニティに入って、 提供先の全てのホテルを回った。 提供先のホテルは全てで都内に4つ。 僕の調べによると、 これらのホテルの創業者は 矢野君の高祖父である矢野浩二になっている。 僕はこの一年、 何度も何度もこれらのホテルに足を運んだけど、 やはり同じように矢野君の情報を掴む事は出来なかった。 僕は高くそびえるスプリング・ヒル・ホテルを見上げると、 大きく深呼吸をしてドアへ向かって歩いて行った。 「高崎さん、お疲れ様です〜」 ここに来た時に、 何時も最初に挨拶するのがドアマンの高崎さんだ。 「お疲れ〜 今日も花束が……綺麗だな」 と高崎さんが揶揄ったように言うと、 「高崎さんの方こそ、 今日も……制服が素敵ですね」 と揶揄い返す。 それが僕たちの合言葉のようになっていた。 高崎さんはこのホテルの正社員で ドアマンとして働いて2年目だそうだ。 何時かはこのホテルのコンシェルジュになるのが 夢だと話してくれたことがある。 彼との出会いは何のことは無い、 良くあるあるの、 出頭にぶつかって挨拶したのがきっかけだ。 αだとすぐにわかる体格と見た目とは裏腹に、 とても気さくで話しやすい人だった。 僕たちは顔を見合わせて笑いあうと、 ハイファイブをして中に通してもらった。 彼がドアの所に立っているときは、 何時も僕を通すときに “As You Wish” と言ってバロック時代のヨーロッパ風の挨拶をしてくれる。 その姿が制服とマッチしてとてもカッコいい。 道行く人の視線を釘付けにするほどだ。 そんな彼を後にホテルの中に入ってあたりを見回すと、 洋子さんはすでにロビーで僕たちを待っていてくれた。 「洋子さ〜ん! こっちこっち!」 ようやく彼女に花を渡すと、 「わざわざありがとう〜 陽向君がゼロに向かっていてくれて良かったわ〜 もう直ぐお昼だから、 是非私の奢りでカフェでランチしていって〜 サンちゃんにはもう伝えてあるから!」 サンちゃんとはカフェのマネージャーで 洋子さんとは長い付き合いらしい。 「あら、あなたは新しくバイトに入った子たよね? あなたも一緒に行っておいで!」 洋子さんがそう言うと、本田さんも 「じゃあ、お言葉にあまえて頂きます!」 と、言葉に甘えてランチを奢って貰うことにした。 カフェに行くと沢山の人がランチを取っていて、 その中にベルボーイの立川さんがいた。 「陽向! お前、いま大学生だよな?」 彼はめざとく僕を見つけて声をかけてきた。 彼は僕と同じように大学生のバイトでここに来ているけど、 同じ年なのに何時も上から目線で僕に物を言うところが苦手だった。 「お前さ、Ωだろ? 今度α・Ωで食事会するんだが、 お前、何人か可愛いΩの女の子を集めてこいよ。 相手はT大のαだぞ?」 と本当に偉そうだ。 “食事会って言って、ただの合コンだろ?” 僕も城之内大学に行こうとしたほどだから 出会いが欲しいのは分かるけど、 一体どういった人が来て、 どういった所で会うのか分からない。 下品な集まりにでもなり兼ねる可能性だって大だ。 そんなところに友達を送るほど僕は馬鹿ではない。 「え〜 僕そんなにΩの知り合い、いませんよ? でもT大って…… 立川さんってT大でしたっけ?」 本当はT大に落ちたことを知っていたのに 意地悪で尋ねてみた。 「そんなのお前には関係ないだろ」 と自分で話を振っておいて本当に失礼な人だ。 すると彼の隣に座っていた別のベルボーイの人が、 「本当にこいつ強引だよな。 今俺にも同じこと言ってT大生のαを集めろって……」 と言うのに対して、 「え〜っと貴方は?」 と尋ねた。 此処には何度も来ていたけど、 彼の事は初めてだった。 「ごめん、ごめん。 自己紹介が遅れたね。 俺は周防義宗。 先月から此処で働いてるんだ。 宜しく」 と彼は品性方向が良さそうだ。 それに爽やかな青年で話しやすい。 「初めまして。 長谷川陽向です。 ブライダル・インフィニティのバイト生です。 宜しく。 所で君はT大生なの?」 僕がそう尋ねると、 「まあ、そうなるかな?」 と照れ臭そうに答えた。 「ねえ、今何回生?」 「え? 今2回生だけど、何か?」 「いや、ねえ、矢野光って人、 T大にいないかな? それとも多すぎて分からないかな?」 僕は一応矢野君が目標にしていた T大の学生と言う周防君に聞いてみた。 T大生に会ったのは此処に来て初めてだ。 周防君は頭を傾げて、 「う〜ん、聞いた事ないな〜 ごめん。T大生なの?」 と聞いてきた。 「分かんない。 前に会った時はT大が志望校って言ってたから……」 僕がそう言うと、 立川さんが笑いながら、 「お前の友達だったら落ちたんじゃないか? その矢野光ってやつ!」 失礼極まりない言い方をした後、 「ん? ちょっと待てよ? お前の友達、矢野光って言ったか?」 と再度尋ねてきた。 「うん、うん、そうそう! 背が高くって、スラッとしていて、 すごくカッコ良いんだ!」 そう言うと、 「じゃあ、同姓同名の違うやつだな」 と立川君が言い始めた。 「え? 立川君、矢野光って人知ってるの?!」 僕の心臓が跳ねはじめた。 「ねえ、その人、どこに居るの?! 同姓同名でも良いから教えて! もしかしたら彼かもしれないし!」 僕がそう言うと、立川君は目を丸々として、 「そうだな、もしかしたら、 アイツはお前の知り合いかもな。 あんなところで働いているほどだからな」 そう言って鼻で笑った。 “あんな所?” 「ちょっと! 持ったぶらないで教えてよ! 一体彼はどこで働いてるの?!」 もう、居ても立っても居られない。 気持ちは焦るばかりだ。 「そう慌てるなよ。 そんなに慌てなくても奴は何処にも逃やしないさ。 何ってったって、このホテルの ランドリー室で働いてるんだからな」 と言うのが立川君の答えだった。

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