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第1話
ードンッー
『いったーい』『いってー』
朝起きて顔を洗うために洗面所へ向かおうと扉を開けようとした時、奏汰(かなた)より先に洗面所を使っていた人物によって勢いよく開かれたドア。
それに思いきりぶつかり、お互いに倒れてしまった。
頭を強くぶつけた衝撃で、鈍い痛みが走る。
「もう賢人(けんと)、気を付けてよ」
「ああ、ゴメン。奏汰は飲み物、カフェオレでいい?」
「うん、よろしく」
奏汰と賢人は恋人になって3年、同棲し始めてから1年が経つ。
一緒に暮らし始めた頃は、何をするにもドキドキしっぱなしだったけれど、馴れというものは恐ろしい。
しかも、ここ最近はお互いに仕事が忙しくて、エッチもまともにしていない気がする。
別に毎日じゃなくてもいいけど、それなりに愛を確かめ合わないと、さすがに爆発してしまうかもしれない。
奏汰は賢人とぶつかったものの、寝起きのせいか顔も合わせず「おはよう」とも言わず、痛む頭を押さえながら洗面台の前に立つと、水を出して顔を洗う。
そして、タオルで顔を拭いて鏡を見た瞬間…、
「うわぁー! どういうこと!?」
奏汰は、自分の顔を見て大声をあげた。
何度も何度も鏡で顔を確認する。
でも、そこに映っているのは自分じゃない…。
顔を手で触れながら、感触を確かめていく。
夢…?
意を決して、頬っぺたを強めに捻ってみた。
「痛いっ!」
痛いってことは夢じゃない!!
「おい、奏汰! どうし…って、俺!?」
奏汰の声に慌てて洗面所へ駆け付けた奏汰の姿をした賢人が、驚きのあまり自分と奏汰に交互で指を指し、奥二重の目を大きく見開いている。
「なっ、何で!? どうなってるんだ!?」
賢人の慌てように、さっきまで焦っていた自分が嘘のように冷静さを取り戻す。
「僕にもわからない…。けど、完全に入れ替わってるよね?」
「あっ、ああ…」
どうやら、二人は心が入れ替わってしまったようだ。
要するに奏汰は今、身体は賢人で心は奏汰。
賢人は、身体は奏汰で心は賢人。
あり得ないことが起こってしまった。
どちらにしても、今日が休日でひと安心。
仕事だったらとんでもないことになっていただろう。
「俺たち、どうなるんだろう?」
「わかんないよ…でも、悩んでても仕方ないし、とりあえずゴハンにしよう」
「まっ、そうだな」
一先ずリビングへ向かいイスに腰を下ろすと、賢人の用意してくれていたカフェオレを口に注ぐ。
奏汰の姿をした賢人が、キッチンで朝食の準備をしてくれている。
自分で自分を眺めているなんて、何とも不思議な感覚で、奏汰は思わず見入ってしまう。
「なあ奏汰、あんまり見ないでくれない?』
「えっ? 何で?」
「何でって…、自分に見られてるのって変な感じだからに決まってるだろ」
「あっ、そっか…。そうだよね。僕も、自分が目の前で動いてる姿が不思議だなって思って眺めてた」
お互いに顔を見合わせて「ふふっ」って笑った。
奏汰は、自分が賢人といる時に、こんな風にすごく幸せそうな顔して笑っているんだということが何だか恥ずかしくなって、少し顔が熱くなったのを感じた。
朝食を食べ終わると、今度は奏汰が後片付けをする番。
賢人はソファーへ深く座り、テレビを見ている。
その後ろ姿は、奏汰の姿をした賢人。
ちょっと猫背なところや、座り方は賢人のまままで、見ていると後ろから抱きつきたいと思ってしまう。
一通り片付けが終わり、賢人の側へ歩いていくと、気持ち良さそうに眠っていた。
起こさないように近くにあったタオルケットを掛けて、奏汰は自分の部屋へと戻ると、鏡に映る姿をジッと見る。
そこには、奏汰ではなく賢人の姿が映っていて、何となく興味本意で上の服を脱いでみた。
映し出されたのは、奏汰が愛しくて止まない中肉中背でやんわり筋肉のついている身体。
手を肌の上へと滑らせると、賢人の身体に触れている自分がピクンと反応してしまう。
ダメだ…このままじゃ…止まらなくなっちゃいそう…
理性が飛ばないうちに止めようと思ったはずなのに、気がつくと奏汰の手は、まだ力を持っていない中心部分へと伸びていた。
パンツを穿いたまま下着の中へと入れた手でぺニスを包み込むと、ゆっくりと上下に擦る。
「んんっ…はぁ…」
立ったままの行為が鏡に映っていて、それが更に奏汰の感情を高ぶらせていく…。
何だか、奏汰が賢人を気持ちよくさせてあげてるみたいな感覚なのに、感じているのは自分…。
「んっ…あぁ…あっ…」
自分の身体でするのとは違うせいか、いつもよりも感じてしまう。
ゆっくり動かしていたはずの手が、だんだんと速くなっていて、立っていられなくなった奏汰は、鏡に姿が映るようにベッドへと身体を倒し、一気に大きくなっている肉棒を擦りあげる。
「あぁっ…賢人…あっ…はぁっ…」
勢いよく放たれた欲望は、穿いたままの下着を汚してしまった。
「あーあ、俺の服、汚れちゃったね」
「えっ…けん…僕…」
余韻に浸る間もなく、突然の訪問者に、奏汰は自分のしたことの重大さを痛感する。
「とりあえず、脱いじゃいなよ」
「いやっ、だって…」
「そのままじゃ気持ち悪いでしょ? なんなら、俺が脱がそうか?」
奏汰の顔をした意地悪な賢人が、楽しそうに笑顔で奏汰へ問いかける。
それに対して、奏汰はブンブンと首を横に振った。
「いつから見ていたの…?」
「うーん、ベッドへ倒れる直前くらいから」
「何で止めてくれなかったの?」
「だって、気持ち良さそうだったから…。それに、俺の身体で感じてる奏汰なんて、今度いつ見れるかわかんないし」
「悪趣味だよ…」
「いやー、その顔で言われてもね」
からかうような口調で言ってくる賢人を他所に、奏汰はベッドから起き上がろうとしたのを、あっけなく阻止された。
奏汰の上に乗っかってるのは…奏汰の姿をした賢人。
「ちょっと…、どいてよ…」
「何で? せっかくだし、このままセックスしようよ」
「冗談…だよね?」
「そう見える?」
見えない…。
もしかして、賢人はこの状況を楽しんでいる?
いや、自分も人のことは言えないんだけれど…。
でも、自分が自分に抱かれるなんて…考えられない。
そんなことを考えてる隙に、賢人が奏汰の穿いているパンツと下着をスルッと脱がせてきた。
顕になったイッたばかりのぺニスには、吐き出された欲望がねっとりとついていて、思わず顔を逸らす。
「ほらぁ、こんなことになっちゃってる…」
「ちょっ、賢人…』
賢人が奏汰の白い液体を指に絡めとり、ペロリと舐めて見せてくる。
奏汰の顔をした小悪魔のような賢人のしぐさが、何故かドキッと胸を踊らす。
この場合…僕が賢人に抱かれるの?
それとも僕が賢人を抱くの?
「今日はさ、いつも奏汰がされて気持ちいいことを俺にしてみてよ」
「気持ちいいこと?」
「そう…俺も奏汰の感じるポイントが知りたいし…ねっ?」
「う、うん…」
賢人の言葉に、思わず頷いてしまった。
まんまと賢人の誘導に乗ってしまったことに後悔するけど、今更後には引けないし…。
「ほらっ、俺の服、脱がしてよ…」
「じゃ、じゃあ…」
そう言って、身体を起こすと、奏汰は自分が昨日着ていた服に手を伸ばす。
だけど、どうしても先に進めず手を止めた。
「奏汰…?」
「やっぱり、僕…自分で自分に触れるなんてできないよ…」
「じゃあ、目を閉じて…」
「何で…?」
「俺がいつものように気持ちよくしてあげるから…」
「じゃあ、僕も…」
「それじゃあ、お互いに気持ちいいことしよ。そしたら顔見なくてもいいでしょ?」
「うん…」
奏汰と入れ替わるようにベッドへ寝転んだ賢人の上に跨がり、下半身に身に付けているものを脱がしていく…。
すでにお腹にくっつきそうなほど大きくなっているそこを両手で包み込むと、奏汰は口へと含んだ。
裏筋を根元から先端へと舌を使い滑らせていく…
「んはぁっ…んっ…」
賢人から甘い声が漏れるのが聞こえる。
奏汰は、いつも賢人から与えられる気持ちいいところを攻めていく…。
亀頭の尿道口をチュルッと吸い上げ、舌先を挿入させる。
「くっはぁっ…あぁっ…」
また賢人が気持ち良さそうに声を漏らした。
奏汰には、さっきまでとは違う感情が芽生え始めていた。
いつも賢人に与えられる快感に、自分がどんな表情をしているのか…。
知りたい…。
気がつくと、ぺニスを口から出し、身体を回転させて、賢人の脚の間に自分の身体を埋めた。
「ちょっ、ジュンス…?」
「僕が賢人を気持ち良くしてあげる…」
そう伝えると、もう一度くわえこむ。
カリの部分に、唇で何度も挟み込むように口を滑らせ、同時に亀頭を舌で舐める。
「んぁっ…くっ…」
奏汰が与える刺激に、賢人が腰を浮かせながら声を出す。
視線を向けると、腕で顔を覆っている。
今度は、含んでいたものを出し、先端から下へゆっくりと舌を這わせながら、丸い袋を口にくわえ舌で転がし、片方を手で優しく揉んでいく…
「はぁ…もう、奏汰…そんなエッチなことどこで覚えたの?」
奏汰にチラリと視線を向けてくる賢人は、色っぽい表情で目がトロンと潤んでいる。
賢人に愛されている時…僕はこんな顔をしているんだ…。
きっと、賢人のことが愛しくて堪らないから、そんな風にエロティックな表情になるんだね。
もっと、もっと感じてほしい…
賢人が僕を感じさせてくれるように、僕も賢人を感じさせてあげたい。
奏汰は、賢人のお尻に手を伸ばすと、そのまま持ち上げ、お尻と袋の間にある硬いところをペロッと舐めあげた。
「ふぁっ…はぁ…」
気の抜けたような声が出たと同時に、ピクッとお尻に力が入った。
何度も、何度もペロペロと舌を動かす。
「あぁっ…奏汰…気持ちいい…」
「まだだよ…これから僕の一番感じるところを舐めてあげるから…」
お尻から手を離し、ぺニスを下から上へと唇でキスを落としていくと、ある場所で奏汰は唇を止めた。
そして、お腹側を左手で被い上下に擦りながら、裏筋のカリのところから少し下の部分を舌で舐める。
「くはぁ…そこ…気持ち…あっ…」
賢人は気づいてないかもしれないけど、そこは賢人が見つけてくれた奏汰の性感帯。
一気に波が押し寄せてくるんだ。
舌を這わせながら、唇で吸い込んだり、キスをしたりする。
その間も左手はゆっくりと動かしたまま。
「奏汰…もう俺…イキそう…」
賢人の言葉を聞いて、奏汰は肉棒を根元までくわえこむと、上下に頭を振り絶頂へと導いていく。
「んっ…あっ…あぁっ…イクッ…はぁっ…」
口の中にドロッとした生温かい液体が広がって、賢人が達したことを知らせる。
ゴクリと喉を鳴らし、吐き出された欲望をすべて飲み干した。
入りきらなかった白濁が、唇の端から垂れているのを感じ、親指で拭い、口の中へ入れて舐め取る。
「気持ち良かったでしょ?」
「悔しいけど…感じた…」
「へへっ…でも、これはいつも賢人が僕にしてくれることだから…」
「そうなの?」
「いつもしてもらってるばかりだけど、僕だって賢人を気持ち良くしてあげられるんだよ?」
「うーん、嬉しいけど…その顔で言われてもね」
奏汰の顔をした賢人が、残念そうに顔を逸らした。
でも、これで終わったわけじゃない…。
ここからが本当に気持ちいいこと…。
「キスしよ…」
逸らされた顔を自分へと向き直らせ、見つめたまま言うと、どちらからともなく顔を近づけ唇を重ねた。
キスはやっぱり、入れ替わっても賢人の方が上手で、あっという間に奏汰を夢中にさせていく。
「今日の奏汰は積極的だね?」
「何でだろ…? 賢人の身体だからかな?」
「じゃあ、今日はこのまま俺を抱いてくれるの?」
「うん…。僕がいつもどれだけ気持ちいいか体験してみて」
「ふふっ、何か変な感じ…」
そう言いながらも、二人はまた唇を重ねる。
だんだんと深くなっていくキス。
絡み合う舌…
最後にチュッとリップキスをすると、奏汰は首筋へと顔を埋めて、唇を落とす。
首から鎖骨、鎖骨から胸、胸から横っ腹、横っ腹からお腹、お腹から上へと戻り、すでにコリッと固さを持っている突起を舐めた。
「んっ…」
ピクッと反応する身体…
片方の突起を口に含み、 舌で転がしたり、甘噛みしたりし、もう片方は指先で転がして遊ばせる。
「あっ…んっ…」
賢人から漏れる甘い声が奏汰の脳裏を支配して、だんだんと中心に先走りが溢れだしていた。
奏汰は、賢人を回転させると背中にもキスを落としていく…
行き着いたのは奏汰の秘部…
焦らすように周りに舌を這わせ、蕾には触れない。
賢人が腰を動かして、宛がうように持ってくるけど、あえて触れずにスルーする。
「もう…奏汰…」
いつも奏汰が言うセリフ。
奏汰はその先を期待した。
「焦らさないで…」
恥ずかしそうに顔を赤く染めて奏汰にチラッと視線を向けてくる賢人。
奏汰は毎回こうして焦らされて、お願いするんだ。
触れてほしいと…。
賢人の言葉で、ようやく奏汰は舌を蕾に這わせた。
「あぁっ…あんっ…」
ビクンと身体が跳ねる。
今度は執拗にそこだけを攻め立てる。
舐めては吸ってを繰り返し、時には舌先を蕾の中へ挿れ、動かしていく。
そして、唾液で濡れているそこに、奏汰は賢人のスラッとした長い中指をゆっくりと挿入させた。
「うっ…くっ…」
突然の異物感に、賢人が苦しそうな声をあげる。
「賢人…力を抜いて…」
「そんな…無理…」
このままじゃ指が押し戻されてしまう。
奏汰は、仕方なく空いてる方の手で賢人の中心に手をかけた。
「あっ…あぁっ…」
一瞬、力が抜けたのを確認すると、指を奥へと進めて掻きまぜながら、解していく…
賢人に馴らされている奏汰の身体は、すぐに解れ、あっという間に指を3本もくわえ込んだ。
グッと奥へ突き上げると、今までにないくらいに賢人の身体が反応する。
「あぁっ…そこ…なっ…あぁぁっ…」
ここは、奏汰が一番感じるポイント。
そこを目掛けて指を突いていく…
「んぁっ…あっ…あぁっ…はぁっ…」
「どう? 気持ちいい?」
「んっ…気持ちいい…もう…おかしくなりそうなくらい…」
「じゃあ、僕もそろそろ…」
中にある指を抜くと、膝をつき、指に絡まっている液体を、すでに起ち上がってるぺニスへ塗り、蕾へと宛がう。
今か今かと待ちわびている秘部は、入り口部分を開いたり閉じたりしている。
「賢人…挿れるよ」
「うん…」
奏汰の言葉に頷いたのを確認すると、グッと中へ推し進めていく。
さっきまで指を3本くわえていたはずの中は、嘘のように締め付けられる。
「うっ…くっ…つぅ…」
初めて感じる圧迫感に、顔が歪む。
奥に進めようとすればするほど、絡み付くように張り付いてくる襞。
熱い…。
僕の中はこんなにも熱くて、苦しい…。
「すごい締め付けだろ?」
「うん…苦しい…」
「もうすぐそれが快感に変わるから…」
「賢人は? 苦しい?」
「ちょっとね…。でも、気持ち良くしてくれるんだろ?」
「うん…」
苦しそうに左目を閉じながらも、賢人が優しく微笑みながら問いかけてきた。
奏汰は頷くと、ゆっくりと確実に奥へと進める。
「やっと入った…」
根元までしっかりと挿入させると、ちょっとした達成感。
止まってる間も、ギュッと締め付けられているのを感じる。
けど、その締め付けにはさっきまでの苦しさはなく、変な感覚…
「動くよ…」
賢人に告げると、奏汰は腰を動かし始めた。
だんだんと押し寄せてくる快感に、奏汰は夢中になっていた。
「んっ…あっ…んぁっ…あぁっ…奏汰…」
「はぁっ…賢人…僕…止まんない…」
「いいよ…もっと来て…俺ももっと感じてたい…」
腰を持ち上げて、思いきり突き上げ、あの場所を探る。
少しずつ位置をずらしながら、最奥を突き続けていく。
「あぁぁっ…また…そこ…あぁっ…んっ…」
コリッとした感触に出会い、そこが前立腺だとわかった奏汰は、何度も何度も打ち付けて刺激を与える。
律動させる度に感じる波が、奏汰を支配していく。
自分の中が、こんなにも熱くて気持ちいいなんて…。
「あっ…あっ…あぁっ…奏汰…ダメッ…そこばっか…んぁっ…」
「ここが僕の一番感じるところ…」
「あっ…んっ…感じる…ってか、すごい…」
「もっと感じて…僕がいつも感じてるみたいに…」
そう言うと、奏汰は動きを加速させていく…
賢人も自ら腰を振り始めていた。
あーっ、僕はいつもこんな風に賢人を感じてるんだ…。
賢人に抱かれている僕は、自分でも驚くほど妖艶でドキドキする。
自分じゃないみたいだ…。
「あんっ…はぁっ…んっ…奏汰…俺、もう…」
「うん…僕も…」
賢人が限界が近いことを告げてくる。
奏汰も打ち付ける度に摩擦感で絶頂へと導かれていく。
奏汰は更に速度をあげて律動させる。
「んぁっ…あぁっ…はぁっ…あんっ…奏汰…」
「くっ…んっ…んんっ…」
動く度に賢人からは声が出ていて、自分自身も絡み付いてくるヌルヌルとした熱い感覚と締め付けで顔が歪む。
「あぁっ…あんっ…もうダメッ…イクッ…はぁんっ…あぁぁっ…あっ…」
「んっ…はぁっ…賢人…僕もっ、イクッ…くはぁっ…」
こうして二人は同時に果てた。
賢人はシーツの上に欲望を吐き出し、奏汰は奥深くにドクドクと白濁が溢れていく。
初めて経験した抱く側の感覚…。
それは自分でも計り知れないほどの快感で、驚くほどに夢中になっていた。
奏汰の姿のままの賢人が、力を失い身体をベッドへ預けている。
奏汰は、賢人の身体をそっと包み込んだ。
「賢人…いつもありがとう」
奏汰がチュッとおでこにキスを落とす。
「んっ…奏汰?」
「僕って、賢人に抱かれてる時、僕じゃないみたいだね…」
「どうして?」
「すごく愛されてるって感じたから…」
「そんなの当たり前でしょ。俺は奏汰を愛しているんだから。俺に抱かれてる時の奏汰は、最高にキレイなの」
「うん…」
自分の顔をしてる賢人に言われても変な感じだけど、奏汰もそう思った。
「僕も賢人を愛してる…」
ふだんは恥ずかしくて言えない言葉を伝えて微笑むと、
「ありがと。でも、やっぱり俺の顔で言われてもね…」
苦笑いを浮かべて、賢人が顔を奏汰の胸元へ埋めた。
そのまま、賢人は深い眠りについた…。
奏汰は、起こさないように賢人をそっと抱き上げ、後処理をすると、賢人の部屋のベッドへと移動させた。
自分の部屋のベッドを片付けて、賢人の寝ている部屋へ向かい、奏汰も眠りにつく。
心地よい感覚に、ゆっくり目を開けると、愛しい賢人が気持ち良さそうに寝息をたてている。
元に戻ったんだ…。
少し残念な気持ちもあるけど、奏汰はやっぱり自分がいいと賢人になって改めて思う。
「んっ…奏汰…?」
「おはよ、賢人…」
「あれっ、俺たち…?」
「うん…戻ったみたい…」
「そう…」
特に驚くこともなく答えると、賢人がふわっと奏汰を抱き締める。
奏汰もそんな賢人に自分の身体を預けると、
「賢人…愛してる…」
今思ってる素直な気持ちを伝えた。
「俺も。奏汰を愛してる…」
優しくふにゃりとした笑顔で告げられた愛の言葉。
僕はこんなにも賢人にドキドキしている。
愛しい人…。
入れ替わってわかったこと。
それは、奏汰は賢人を抱くより抱かれたい…
だから…
「賢人…僕を抱いて…」
「うん…俺も奏汰を抱きたい…」
こうして元に戻った二人は、お互いを求め合うように抱き合った。
何故こんなことが起こったのかはわからないけれど、マンネリ化だった二人に、潤いを与えてくれたことには変わりない。
お互いの感覚を知ることで、大切な何かを見つけられたから…。
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