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比翼連理  スイ視点

瀟洒な音楽の中、グラスと氷がぶつかり合う音がした。 明るさを落としたバーのカウンター席に間接照明がぽつりぽつりと暖色の灯りを落としている。 窓の代わりに壁一面がガラス張りになっていて、横浜港の夜景を一望できた。 僕の隣にはSNSで知り合った女の子が座っている。大学生で、髪もコートやバッグの色も明るかった。 かわいい子だよ?人懐っこくて甘えるのが上手い。依存心が高くて、僕の言うことを素直に聞いてくれる。 家賃は払うから同棲するアパートの敷金を払って欲しいとか、企業した友達の会社の株を一緒に買って欲しいとかね。 全部嘘だけど。 けど、そろそろ潮時かな。お金が無くなってきてちょっと危ないところから借りているみたいだし。今となっては大学も行ってるかどうか怪しい。 でも社会人の僕と一緒になれればなんとかなると思っているみたいだ。 ジンフィズを一口飲んだ。レモンの酸味と炭酸で口の中がさっぱりする。それから 「別れよっか」 彼女にそう言えば、思った通り取り乱して泣き出した。 「嫌いになったから」 スッパリ切り捨てた方が意外と上手くいく。まあ、最初から好きでもなんでもなかったんだけど。 彼女はあっさり引き下がった。そんな気はしてたって。ちょっとずつ冷たくしていったからね。僕に捨てられまいと充分にお金を落としてくれたよ。 よかったね、こんな酷い人と別れられて。 バーの入ったビルを出ると、冷たい風がコートや髪を嬲った。お酒を飲んだからかそんなに寒さは感じない。 ここでサヨナラして終わり、のはずだったけど、彼女はここに来て駄々をこねてきた。予想してなかったわけじゃないけど溜息が出そうになる。 え?ホテル?冗談でしょ。セックスなんかしたくないんだけど。頭がくらりとする。 どんどん身体が熱くなってきた。え、待って待って。 熱を持った目が潤んで彼女の姿が滲んでぼやけた。彼女は口の両端を吊り上げる。 「ねえ、赤ちゃんできたら結婚してくれる?」 彼女に触れられた途端、全身に鳥肌が立った。身体の芯は熱いのにぞわりと寒気が襲いかかる。 しつこく付き纏う彼女を無視して、タクシーを拾ってやっと引き剥がした。 ご飯かな、お酒かな。何か盛られたみたいだ。久々に失敗しちゃったな。素人だからって油断しちゃダメだね。 車の中からスマホで電話をかける。彼女がお金を借りている金融業者のところに。ここ結構取り立てが厳しいんだよね。後は彼女がどうなっても知ったことじゃない。 上手く逃げられてもホストクラブのキャッチやキャスト、それこそ|同業者《詐欺師》の人なんかにあの子の情報を売ったから、次に依存する相手もすぐ見つかるはずだ。 アパートのドアを開けるとレンの匂いと煙草の匂いが鼻をくすぐった。それだけでレンが欲しくて堪らなくなる。なんでこっちに帰って来ちゃったんだろう。ホテルとかに泊まればよかった。 視界に入れるのも危うい気がしてすぐシャワーを浴びに行った。冷たい水を浴びても火照りが鎮まらない。 「調子悪いからもう寝るね。おやすみ」 そう言って寝室に入り布団に潜り込む。こう言っておけばレンは放っておいてくれる。 でも今日に限って 「おい、スイ」 寝室の入り口から声をかけられた。 「何?」と短く答える。 「なんかいる?買ってくるけど」 「いらな」 いらないって言おうとしたけど、レンと少しでも離れてた方がいいかもしれない。 「・・・やっぱり買ってきて」 「ん、何がいい」 「んー、アイスとか、適当に」 「わかった、ちょっと行ってくる」 玄関の鍵が閉まる音にホッとした。でも全然楽にならない。少しでも欲望を吐き出す為に、下着の中に手を伸ばした。 ーーーーー 「スイ、買ってきたから」 レンが帰ってくるのはあっという間だった。なんだか余計にひどくなった気がする。 「・・・ありがと」 「なんか飲む?」 「いい。ほっといて」 ちょっと素っ気なかったかなと思ったけど、足音が近づいてきて首筋がヒヤリとする。今はレンがふっと笑みを漏らす声さえ情欲を誘った。 「ダメ、触らないで」 お構いなしで華奢な手がスポーツドリンクを枕元に置いた。 なんでレンは指の先まで色っぽいんだろう。目の毒だ。 「あっち行ってて」 と布団を頭から被った。レンは溜息を落とす。 「あのさあ、お前早く寝ろよ。熱は」 「だから、触らないでって言ってるでしょ」 レンの手が額に伸びて来て思わず振り払う。 「俺に床で寝ろって?もっと場所あけろ」 「ああもう!ほっといてって言ってるのに」 レンの手が背中に触れて、そこから導火線に火がついたみたいに衝動が走って目に火花が散った。気がついたらレンを組み敷いていた。それ以上触るのを我慢してレンの手首を掴む手に力を込める。こっちの気も知らないでレンはキョトンとしていた。 「どうした?」 レンは僕を真っ直ぐ見ながら聞いてきた。黒曜石みたいな目が綺麗で、妙に落ち着いた表情にドキドキする。 「お前、俺には嘘ついたこと無いんじゃなかったのか」 痛いところを突かれた。でも正直に変なクスリを飲まされたらしいことを伝えれば、レンは声を上げて笑っていた。「お前もそんなことあるんだな」って。 「わかったよ、取り敢えず手ぇ離せ。なんとかするから」 「ダメだよ、今もすっごい我慢してるんだよ」 「うっせえな。普段も気絶するまで突っ込むくせに」 「ちゃんと加減してるよ?」 「嘘つけ」 レンには嘘ついたことないって言っているのに。 「たまには(年上)に頼れ」 レンがそんなこと思ってたなんてビックリした。僕がずっと守ってあげたいって思ってたから。ああでも、年下のくせに、とかやっぱガキだな、とかよく言われてたな。 不安そうな顔に見えていたか、レンは少し声のトーンを明るくする。 「大丈夫だって。前に店で後輩が似たような目に遭ってさ、その時は」 「その時、どうしたの?」 ちょっと聞き捨てならないんだけど。その人にはどうしてたんだろう。さっきみたいに介抱してあげたのかな。それとも慰めてあげたとか? レンは何か言おうとしていたけど唇を塞いでしまった。弾力が心地よくて、ぬるりと舌が擦れあう感触が気持ちいい。夢中になりすぎてレンは咽せていた。 「・・・っのエロガキ!死ぬほど水飲ませて吐かせてシフト代わってやっただけだっての!」 「ふぅん。仲良かったんだね」 どうしたかなんてどうでもいい。とにかく僕以外にレンの慈しみや優しさが向けられるのがすごく嫌だ。 「良くねえよ、上に勝手にシフト変えられ・・・っ」 服を脱がされて、僕に触られながらも気丈に言い返す。そういう気の強いところもすごく好き。気持ち良さそうにしてるのに声は我慢するところとか、イッた後一瞬だけとろんと目を潤ませるところとかも。 でも今日はそんな余裕がない。早くレンの中に入りたくて、亀頭から溢れる液体を窄まりに塗りつける。本当はレンがもういいって言うまで蕩かしてあげたいんだけど。 そう思ってたら、レンの肩に顔が押し付けられた。レンは僕の頭を抱えて甘やかすように抱き寄せる。俺を頼れってもう一度言うみたいに。 こんなことされたら本当に我慢できなくなる。レンにも言ったけど、 「・・・しょうがねえな。後で責任とれよ」 って絡めた腕を離してくれなかった。 なるべく優しく唇を重ねた。絶対無理させちゃうし。やっぱり挿れる時も苦労したし、ナカも痛いくらい狭かった。レンはもっと痛いだろうなって思いつつも、腰を振るのをやめられなかった。暴力的なまでの快感の波がたびたび襲ってきて、飲み込まれないようにレンにしがみつく。 「んっ、レン、もっ・・・出る」 レンはコクコクと頷きながら、僕の背中に回した腕に力を入れる。自分の意思とは関係なくびくりと何度か身体が震える。息を吐き出すと力が抜けていってレンの身体の上に重なった。 すごく気持ちよかった。でもまだ足りない。レンの顔中にキスしながら、ゆるゆると腰を動かし始める。 「あー・・・ヤバ、止まんない」 「いいよ別に」 レンは小さく呟いた。愛おしさが溢れ出して、好きって言葉やレンの名前を呼ぶのを繰り返す。 レンはやっぱり最後まで持たなかったけど、眠ってしまった後も僕に寄り添って寝息を立てていた。僕のこと好きでいてくれてるのかなって思えて頬が緩んだ。 明日は思い切り甘やかしてあげなくちゃね。レンを抱きしめて目を閉じれば、あっという間に眠りの中に落ちていった。 翌朝、レンは身体が重いとか腰が痛いとか言いながら起きてこなかった。僕のせいだから何も言えないけど。 レンに色々してあげるのは好きだけどね。僕がレンをコントロールできている気がして安心する。普段は「うっとうしい」って言われちゃうけど。あれ、でも今日は何も言われてない気がする。 こたつでスマホを触るレンの隣に座る。チラッとこっちを見ただけで何も言われなかった。 「何かいいことあった?」 「は?」 「だって怒らないし」 レンの手に指を絡めてみる。レンはスマートフォンに目を戻して 「・・・素っ気ないよりは」 なんて小さな声でひとりごちた。確かにね。昨日は襲っちゃいそうで避けてたもんね。それでいつもより構ってきたのかな。 ポニーテールに指を通せば「調子に乗んな」って怒られちゃったけど。 「レンってホントかわいいね」 「どこがだよ・・・」 そうやって睨みながらも、髪を撫でさせてくれるところとかだよ。また怒られそうだから、言うのはやめておくけどね。 のんびりしていたらもう夕方だ。窓から差し込む太陽の光は飴色を帯びている。その色も、口に含んだ飲み物も、とても甘かった。 end

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