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意を決して

「でも彼氏来てるんでしょ? 係長じゃない誰かさん。彼氏、寝てないって言ってたけど、大丈夫? イヤホンしてゲームでもしてるってこと? だけど、いくらなんでも気づくんじゃない? 本当はもう寝てる?」 まだ彼は言っている。 寝てないのがヤバいって、そういうこと? 彼氏が部屋にいて、起きてたらそりゃヤバいよね。 それで早く帰ろうとしてたってこと? 「だから彼氏なんて、いないって言ってるでしょ」 「へえ。君って彼氏でもない人としちゃうタイプだったんだ。ふうん」 彼は誤解を続ける。 「違いますよ。してないです」 「証拠は?」 彼は疑り深い。エビデンスを要求するとか。 どんだけ人を疑うんだ。 「濃かったでしょ?」 こうなったら彼のフェチを利用しよう。 「飲んでないからわからない」 「顔にかけてあげたじゃないですか!」 「かけられたの初めてだったから違いがわからない」 この屁理屈野郎!! もう一回、口ん中に出して飲ませたろうか! 僕は意を決した。 「わかりました。じゃあ、部屋に上がってくれます?」 「ええぇ。嫌だよ。そういう対決とか。俺、揉め事嫌いだって言ったじゃん」 意外と弱虫野郎だ。 僕って、こんな人が好きだったのか。 しかも極度に疑り深い。 スパダリかと思ってたのに、ヘタレすぎない? 「対決じゃないです」 「だって彼氏、部屋にいるんでしょ」 「いませんから」 「だって声がしたもん」 「幻聴じゃないですか」 幻聴で押し通そうと僕は覚悟を決めた。 彼はしぶしぶ部屋に上がる。 「あれえ?」 彼は部屋を見て言う。 ベッドには当然、誰もいない。 「ね? 幻聴ですよ。疲れているせいじゃないですか?」 僕はもっともらしく言う。 「これ、何?」 彼が床に転がっているものに目をつけた。 「あ、それは」 「いいね。これスマホ用のプロジェクター? 俺も欲しかったんだよね。どう? 使用感。見せてよ」 彼はベッドの上にあった僕のスマホを手に取る。 「何か、動画再生してみてよ」 「えっと」 僕はスマホを奪い返して操作する。彼とのハメ撮り動画再生してたことバレたら恥ずかしい。 適当なYouTubeの面白動物動画とか。手ごろなの。 と思って探したんだけど。 「あ、それでいいよ」 ハメ撮り動画の再生ボタンを彼が押しちゃった。 『アァ!! あぁん!! アッ! ア!!』 突然の大音量。 僕の喘ぎ声。 壁に映し出される、僕と彼の挿入場面。 『気持ちいい!!もっと!!アア!! イク!! イク!! いっちゃうゥゥ!!』 画面はブレブレだけど、彼にしがみつく僕の肌色がやけにいやらしい。 ゴクリと上下する彼の喉仏。 「意外と鮮明だね」 冷静そうに客観的な評価をくだしてるけど、完全に彼は挙動不審。 壁に投影された大画面では、射精してしまった僕の、肌に飛び散った白濁液を彼が大事そうに舐めている。 すごく変態っぽい。 あらためて、この人ヤバいんじゃないかと思う。 『好きなんですか? 精液』 『うん。誰のでもってわけじゃないよ。君のだと思うとね』 ほら、言ってるじゃん!! 僕のこと好きみたいなこと言ってるじゃん! 『それって僕のこと好きってことですか?』 彼は黙って僕の萎えたモノをしゃぶってる。 スルーか。 そうか、スルーされたんだっけ。 『ダメですって。出たばかりだから』 『んー。搾りたて。生。美味しい』 『ビールじゃないんですから』 『苦くて美味しい』 いつのまにか、現実の彼の手が、僕の裸を触っていた。 「ねえ。ほんとに彼氏いないの?」 まだ言うか。 彼の人間不信をどうにかしてあげたい。 「いませんよ」 「もしかして。さっきの喘ぎ声って、このハメ撮り動画の声?」 僕は黙ってうなずいた。 うう恥ずかしい。 でも彼の人間不信を打破するためだ。 「へえ。ハメ撮り動画、観てたんだあ?」 彼がニヤニヤしだす。 この変態め!! 「そうですよ。悪いですか?」 僕は開き直る。 「ねえねえ。ハメ撮り動画、一緒に最初から観ようか? 俺の持ってる分も観ない?」 彼がエッチな顔でにっこり笑う。 「うん」 夜は長い。 土日は始まったばかり。 僕の「抱いて」は、ついに叶えられるらしい。

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