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第21話 恋の罪悪感

僕を散々絶頂に追い立て喘がせて、東郷は立ち去った。 東郷も気持ちよくなれたのかわからないくらい僕は余裕がなかった。 健斗が駆けつけた時、僕はベッドにへたり込んで泣いていた。 裸のままシーツを身体に巻きつけただけの僕を見て健斗は血相を変えた。 「おい!静音泣いてるのか?なあ、大丈夫か?まさか酷いことされたんじゃないだろうな!?」 「ううん…違う…」 僕は銀木犀の生けられた花瓶を見つめて言った。 「すごく優しくしてくれた…」 僕がぼうっとしたまま座っていると、健斗は意味を理解して苦しげな顔をした。 全部話してるから、わかってるんだ。 僕が東郷のことを本気で好きになってしまったことを。 「静音…」 「僕はだめだって言ったのに…挿れてって言わされて…」 「わかってるから何も言うなよ」 「気持ちよくて頭ふわふわして…」 「大丈夫、静音は悪くないから」 これで僕が悪くなかったら誰が悪いんだよ。 東郷が上野のときみたく変になっちゃったらどうするの? そうならないことを祈るしか無い。 でも、逆に彼が僕に少しでも執着してくれたらいいのにと思ってしまう自分もいた。 また抱きしめてもらえたら? いや、だめだ。父さんの顔が浮かんで一気に現実に引き戻される。 東郷は長男で経営のトップ。絶対だめだ。 もう会わないし、連絡もしない。 一回だけ寝てみたいって思ってたのが叶ってよかったって思おう。 そうやってなんとか東郷のことを忘れようと、僕はまた毎週水曜日に色々な男と寝る日々を再開した。 東郷と寝てから数週間は、とても調子が良かった。 体調が良すぎてちょっと怖いくらいだった。 東郷もそうだったのかな? と少し考えたりした。でも基本的にはあまり彼のことを考えないようにしていた。 そんなある日、診察中に思わぬ出来事が起きた。 初めて来院する患者さんで、事前に書いてもらった問診票の名前は知らない名だった。 番号で診察室に呼び、入ってきた人物に僕はぎょっとした。 「東郷…?」 僕は問診票と彼の顔を見比べた。 え、なんで?間違えた?この問診票の名前は山田さんだ。 しかも今日の予約表に東郷の名前なんて無かった。 僕が焦っているのを見て東郷は言った。 「お前が連絡くれないし水曜の予約も受けてもらえないから、偽名で今日予約取ってきたんだ」 え?そこまでする? やっぱり東郷おかしくなっちゃったのかな。

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