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第30話 【side麗華】手のかかる坊やたち
舐めていたコックを口から離す。
「乗り気じゃないわね、雅貴さん」
「いや、そんなことは…」
「はぁ、やめましょ」
私は裸の身体を起こしてシーツの隙間に潜り込んだ。
「考え事?」
「そんなんじゃない」
「ふん、わかりやすいのよ。貴方は私と似ているから」
「………」
「西園寺さんのことでしょう」
「やめろ」
東郷は言われたくないことを言われて思い切り顔を顰めた。
「ねえ、素直になったら?あなた、西園寺さんのことが好きなのよ」
「馬鹿を言うな」
タバコを手にして火をつける。
「私、貴方のこと譲るわ。西園寺さんに」
「おい。いい加減にしておけよ」
「大体、私貴方のことタイプじゃないの。どっちかと言うと西園寺さんの方が好みだわ」
「麗華!」
「いやぁね、取って食ったりしないわよ。冗談に決まってるじゃない。ムキにならないで」
「……ふん」
「西園寺さんは私みたいな女相手にしないわよ、安心して」
「私、やっぱりもう少しやりたいことがあるの。パリへ行くわ」
「パリだって?」
「ええ。一緒に仕事してみたい人がいるの。本当はそれを我慢して貴方と結婚してあげようと思ったんだけど」
「してあげよう、ね」
私は雅貴さんを見つめる。
「でもやめたわ。私たちはよく似てる。やりたいことがたくさんあるの。貴方の妻に収まって大人しくするなんて無理だわ」
「麗華…」
「今回は私が振ったってことにしてあげる。ただしマスコミ対応はそっちでして頂戴よ」
「当たり前だ」
「それにしてもまったく、貴方たちと来たら。お互い好きなくせに馬鹿みたいに意地張って」
「はぁ。そんなんじゃないって言ってるだろ」
「え?雅貴さん、貴方まさか、自分で気付いてないの…?」
「お前は俺が何で西園寺のことを好きだなんていうんだ?」
呆れた男だわ…ここまで鈍感だとは…
「貴方ね、今までどれだけ女と付き合ってきたの?散々寝てきて、これ?」
「それに何の関係があるんだ?」
「西園寺さんが可哀想…」
頭が痛くなりそうだわ。
「あのね、貴方は好きでもない相手が倒れてるからってわざわざ会議を途中で抜けて駆けつけるの?最高経営責任者が、よ?」
「ああ?そんなこと…」
「あれが西園寺さんじゃなかったら?来た?」
「いや、行く訳ないだろ」
「ねえ、悪いけど貴方って意外と冷たいし人のために必死になることなんて無いじゃない?」
「それは…」
「はぁ。ここまで頭が固いとはね。じゃあ一つこの麗華様が教えてあげるわ」
「何だよ」
「西園寺さん、結婚するかもしれないわよ」
それを聞いた東郷はガバッと起き上がって威嚇してきた。
「ああ!?何だと!??」
「ちょっと!大声出さないでよ」
「おい、どういうことだ!?ちゃんと話せ!」
「ほーらほら、大慌て」
「何で黙ってた!?」
「だから今話してるじゃない。落ち着いてよみっともない」
「……」
「一応信用できる筋から聞いた話。六条准一って知ってる?」
「知らん。いや、聞いたことがあるな」
「不動産屋だけど、なんとなく嫌な感じ」
「ふん、で?その男がなんだ。娘でもいて西園寺の家にねじ込もうとしてるのか」
「いいえ違うわ。六条自身が西園寺さんのことを娶るつもりよ。養子縁組でね」
「なっ…!なに!?」
これを聞いて東郷はすっかり取り乱した。
ベッドを降りて裸のままフラフラ行ったり来たりし始めた。
こんな姿見たことないわ。
西園寺さんにかかったらこの男もただのゴリラね。
「ふふふ」
「おい、笑い事じゃないぞ」
「そうね。早く行かないと六条に西園寺さんを取られるわよ」
「…そんな事はさせない」
「雅貴さん、あなたが西園寺さんと結婚すればいいのよ」
「西園寺は男だ」
「馬鹿ね…」
「あいつは女扱いされるのを嫌がるんだよ」
「そう」
「くそ、だからこんな縁談なんて断るはずだろ!?何でこんな…」
「行きなさいよ。貴方がいないからこういうことになるんだもの」
「麗華、悪かった。ありがとう」
「貸しよ」
「ああ」
東郷は着替えて出て行った。
タバコの煙を燻らせる。
「本当に手のかかる坊やたち」
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