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はるかのおまけ

 唇と唇が触れる。最初は触れるだけだ。何度も角度を変えて触れていく内に、下唇を吸われはじめる。  吸われた下唇がそっと離れるときに、ちゅっ、とリップ音を立てていく。ちゅっ、ちゅっ、と何度も湊先生が音を立てた。ゆっくりと施されるキスは甘い刺激になる。なぜか僕はこのときがいちばん、食べられそうだ、と思う。  唇から順に、湊先生に食べられていく妄想をする。その頃には先生の舌がぬるり、と緩く閉じている僕の唇の境目をなぞっている。こうやって僕のからだは先生に侵食されていく。  そっと、湊先生が僕の革製の首輪の縁をなぞった。首輪の縁は湊先生の噛み痕で、結構ぼろぼろになっている。さすがに僕もそろそろ買い換えなければいけないかな、と思いはじめていた。 「遥くん、いい加減、首輪を買い換えようよ」  僕のヒートの終わり際、僕のにおいを名残り惜しむかのように、湊先生が僕の首すじに鼻先をうずめながら、そう提案してきた。僕の方は気怠げに湊先生の胸にもたれかかっていた。なんとも退廃的な絵面だと思う。 「……うん」  僕は深く考えずに頷く。湊先生がそう言うのなら、そうなのだろう。そんなことより今は、少しでも湊先生に触れていたかった。温かな体温が心地よい。対する湊先生は明らかにほっとした様子だった。 「約束だよ、遥くん」  安堵する湊先生に、僕はちょっと腹が立った。うなじを噛まれていなくても、僕らは番だ。それに湊先生が噛みたいのなら、僕はいつでも首を差し出すつもりでいる。  ぷくぅとむくれる僕に、先生は何を思ったのか、覆い被さってきた。顎を掬いとられる。唇と唇が触れる。  僕の唇の境目をなぞっている湊先生の舌は、僕にとって二番めの侵食の兆しだ。ゆっくりと入ってくる舌先を、どう迎えていいのか未だに僕はわからないでいる。ただヒート中のからだは、本能に忠実に湊先生を求めようとしている。結果、ぎこちない動きで僕は舌先を差し出す。  おずおずとした僕の舌先に、湊先生の舌先が触れる。僕のからだに甘やかな刺激が走る。食べられる、と思う。湊先生の舌が僕の舌に絡んで、そうこうしている内に、舌の裏側を舐められる。  ゆっくりと蹂躙していく舌先の感触に、僕のからだはびくり、と反応する。あ、食べられる、とまた思う。閉じた目蓋の裏で白い光がチカチカと点滅する。僕は慌てて湊先生の舌を押し戻す。  先生は僕の意思に逆らわなかった。ちょっと名残り惜しそうにしながらも、僕の舌を、唇を、解放してくれる。 「はふ……」  僕は溜め息を吐いた。心臓はとくとくとく、と速い鼓動を打っている。  湊先生はくすくすと笑いながら、「気持ちよかった?」と訊いてきた。  

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