1 / 13

プロローグ

 俺は、昔から鼻がいい――。  自分に好意を抱いている人、悪意を持ってる人、それから自分に興味がない人間を嗅ぎ分けることができた。その特技は、大人になってからというもの大いに役に立っている。  恋愛なんて面倒なことはしたくない。けれど寂しがり屋な俺は時々無性に人肌が恋しくなる。そんな時は都合よく遊べる相手を探すのが一番いい。  遊び相手を見つけるのは結構難しいものだ。たかが一回だけ抱いただけで彼氏面をするようなやつが存在するからだ。そういうやつに当たると非常にめんどくさい。だが、幸いな事に俺の鼻はそんな面倒な相手を嗅ぎ分けることができる。  例えば、いずれ俺に好意や興味を持ちそうな人間は良い香りがする。花だったり果物だったりパターンは色々あるが、大抵良い香りがするのだ。そういう人間とは、こういう場においては深く関わらないようにする。友人関係を築くのは面倒だし、恋愛関係になるのなんて真平ゴメンだ。  反対に悪意を持っているやつは嫌な匂いがする。生乾きの洗濯の匂い、牛乳を拭いた雑巾の匂い、動物園の匂いがしたやつもいた。こういう奴らは大体の店で要注意人物とされている。暴力を振るったり、金を取ったりなんて前科を持ってるやつは大抵そういう匂いをさせている。だから不用意には近づかない。向こうから寄ってきても躱すのが正解だ。  狙い目はソフビ人形みたいな匂いのするやつだ。こういう人間は大抵遊び方を心得ている。あるいは、俺に興味を持っていない。興味があるのは、あくまでも遊べる相手かどうかということだけだ。  キスをする時柔らかいマネキンと口を合わせているような感覚に陥るのだけ我慢すれば、最高の時間を過ごすことができる。  今日もハンターになったつもりで、カウンターで良さそうな獲物を探していた。

ともだちにシェアしよう!