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第16話

「すぐ行くんでちょっと待っててもらっていいッスか?」 「別に慌てなくていい…。」 それだけ返事をすると、 いつもの通り頭を下げ──ようかとも思ったが どうせこの後また顔を合わせるのならと、目を合わせる事も無く店を出た。 もう同じ過ちは繰り返さない。体を張って学ばせてくれたアイツにはしっかり感謝をしなければ。 購入した煙草が入ったビニール袋の口をしっかり結び、完全防水体となったそれを抱えて走る。 店に入る前よりも、酷くなったんじゃないだろうか。 こんな嵐の中を自転車で帰ろうとしていただなんて佐々木の正気を疑うぞ。 もう一人店内に居た中年男性は名札にオーナーと記されていた。 髭面で渋い声の持ち主だが、最後に打ってもらったのはいつだったか。もう覚えてもいない程、ここに来る度相手をしてくれたのは佐々木だった。 彼のものだと思われる車はいつも店の脇に置いてあり、朝俺が出勤する頃にもまだそこに置かれているのを見るに…まぁ夜勤勤務が主なんだろう。 24時間、誰かが回さないと成り立たないコンビニのオーナーなんて絶対にキツいだろう。下手したら俺以上だ。 俺ならやらない。 というかやれない。真夜中なんざ眠くてたまらん。 遂にひとりぼっちになったオーナーを眺めながら、ほんの少しだけ窓を開けて新品の煙草に火をつけた。 バイザーを取り付けてあっても器用に入り込んでくる雨粒は、仕事を終えたスーツの袖で撃退だ。 半分も吸い終わらないうちに、学生服に着替えた佐々木が自動ドアの向こうに姿を現す。 男子高校生の早着替えは、やはり凄まじい。 傘を持っていない事に驚愕したのは言うまでもないが、佐々木は店内に残る男に大きく手を振ると 俺の車目掛けて一直線に走った。 殆ど毎日見ているはずなのに、やはりコンビニの制服姿でない佐々木では違和感があり落ち着かない。 似合う、似合わないの問題ではなく、どこからどう見ても学生に見えるその姿は、これまでよりも遠い存在に思えて。 それ程歳が離れているのだ、と。 つい先日まで、こいつはフリーターか何かだと思っていた。 身長もそれなりにあって、顔だって高校生にしては大人びている方だと思う。 髪の色こそ黒いが、長髪は後ろでひとつに結んである。降ろしたら肩にかかるくらいは長さがあるのではないだろうか。 だが、それでも佐々木は学ランを着ているのだ。 高校生であることを証明する服装の代表ともいえるそれを立派に着こなしている。 俺の知っている限りでは、制服が学ランの高校なんてこの辺りじゃ一つしか思いつかないが、 そこは法月も通っていた進学校…なわけで。 人は見た目によらない、と……納得せざるを得ない。 あぁいや、決して佐々木を頭が悪そうだなんて思っているわけではない。 悪そうとまではいかないが、良さそうには見えないというだけだ。 勿論、馬鹿にしているんじゃないぞ。 …因みに何故法月の出身校まで把握しているのかというと 俺自身、同部署の上司として、彼の立ち振る舞いから言葉遣いまでの全てにおいて完璧な面接試験に立ち会ったからだ。 別にストーカー対決をした覚えはないので、くれぐれも履き違えないようお願いしたい。

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