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第46話

「本当ありがとうございました!家まで送ってもらっちゃってマジですいません。」 「……いや、構わない。」 橋を渡ってから佐々木の家まではあっという間だった。 突き当りを曲がって見えた小さなアパートの手前に車を停める。 少し寂しそうに見えたあの顔が嘘のように、佐々木はいつものコンビニスマイルで後頭部を掻き、ドアに手をかけて。 「じゃあ…。バイト先、また来てくださいね!」 「あぁ…。」 俺の返事に頭を下げ、佐々木はバタンと助手席の扉を閉めた。 やっと静かな一人の時間が出来るぞ。それなのに、最後に見えた表情は、 またあの俺が唯一好きじゃない佐々木の顔で。 どうしてかはわからないが、気づいた時には俺まで車を降りていた。 「さ、佐々木っ………。」 アパートの入り口を目指していた、長めの髪を一纏めに括った男がこちらに振り返る。 実際声に出した回数はほんの少ししかなくて、頭の中では何度も何度も呼んでいる名前でも やはり本人を前にして“佐々木”と呼びとめるのは恥ずかしかったりするものだ。 「へ?…どうかしましたか?」 「あ、その………。」 たたんと軽快な足音を鳴らしてこちらへ来る佐々木に対し、何とか話題を作る為、脳内をフルに働かせる。 自分が呼び止めたのだから、それなりの理由がなければおかしい。 「どうかしました?」 頭の中でぐるぐると考えを巡らせているうちに、すぐ目の前まで来てしまった佐々木は 俺をじっと見て不思議そうに首を傾げる。 何か言わないと。いや、でも何を言えばいいんだ?ここまで来てもらって「気をつけて帰れよ」は流石にな……だからって寂しそうに見えたなんて正直なことを言うと、恋人でもないのにキモいだけだろう。こういう時は…あー、えっと──。 遂に本格的パニックを起こす3秒前まで迫った次の瞬間 「あー!まさか俺が車に財布忘れたの気付いてくれました?すいません!!開けていいっスか?」 ズボンのポケットをパンパンと叩いて焦る佐々木にばれないよう、盛大に喜んだ。 それはもう、盛大に。 やったーーーー!と叫んで飛び跳ねた。 あぁ、勿論心の中で。

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