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第97話

ベッドサイドに取り付けられた照明調節をいじり、わずかな明かりに灯される佐々木の顔を見上げた。 こいつはまだ、高校生のはずで、10代のはずで なのにどうして、こんな…慣れたような手つきで。 素直に悔しいと思った。 俺よりも出来の良い部下に思ったそれとは違う 全く種類の異なる嫉妬だ。 俺が妬いているのは、佐々木本人ではなく 彼が他に抱いたかもしれない知らない誰かで。 佐々木が好きな、誰かで。 どうしてあんな残酷な事を言ったんだろう。 俺に、好きになれなんて。 自分は他に想い人がいるにも関わらず、酷い奴だな。 どこまで俺を弄べば気が済むのだろう。 代わり? 代わりになれるのか? 俺みたいな、佐々木からしたらおっさんの部類に入るような男で。 どんなに俺がお前に想いを寄せたところで そこに意味なんか無いのに。 暖色の光が照らす部屋。 何処からか聴こえる知らない曲。 すぐ上で袖から手を抜くのは、俺の心臓を鷲掴みにする君。 そんな出来上がった環境の中で、俺は──。 「…竹内さん?何泣いてんの。 あぁ……怖くなった?」 「こわ…っ、ぁいよ……おま、ッんなんだよぉ…。」 俺はこんなにも、お前で頭がいっぱいなのに こんなにも、お前の傍に居られることが嬉しいのに。 俺ばかりお前で埋め尽くされて、でもお前はそうじゃなくて 嬉しいはずなのに、全然安心しなくて、むしろその逆で。 好きになれって何だよ 好きなんだよ。 とっくに、気づいた時にはもう…遅かった。 この気持ちを言わせてくれないのはお前のせいじゃないか。 そんなに俺で遊びたいのか。大人を舐めるなよ、俺がいつお前の恨みを買うような事をしたというんだ。どれだけ傷つけさせたいんだよ。 俺は… 俺だって……ッ、お前に 「好きに、なって……っほし…ぃ。」 この世の普通なんて知らない。 俺が普通じゃないなんて知らない。 怖いに決まってる。 だけどそれ以上に、お前を好きだと自覚してしまったから この心はもう、止まり方を忘れてしまった。 無意識に佐々木へと伸びていた手が、俺よりも熱くて大きな指に絡む。 指同士の間に、佐々木の体温が馴染んで 強く、痛いほどに握り返された。 「……ねえ、竹内さん。それ本気で言ってんの?」 「……悪い、かよ…っ。」 悪い、だろうな。当然だ。 口にしてから真っ暗の波が押し寄せる。 だって、佐々木は別の誰かが好きで 俺を好きになる事なんてありえないから。 そう、思っていたのに。 佐々木の目は何処か熱を帯び、心なしか潤んでいるようにも思えた。 眉間に深くしわを寄せ、その表情が一体何を現しているのか 俺にはよくわからない。 「一応言っとくとさ、さっきもずっとずっと独り言いってたからな。俺の良いように解釈するからな。 竹内さん“も”俺の事好きって…そう思うからな。」 「……ぇ、?」 すり抜けた指先が、佐々木の熱を失ったと気付くよりも先に がばりと勢いよく伸し掛かるのは、俺よりずっと背の高い、俺をすべて覆ってしまう佐々木の身体だった。

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