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第142話

駐車場から玄関までの距離が億劫で仕方ない。 ちょっと事業に成功した両親の好奇心で建てられた、昭和臭い造りの家。当の本人らは世界旅行だかで留守が続く。 一人暮らしも慣れたものだ。 いい加減飽きた頃だと思うのだが、いつか戻ってきた時には是非とも無駄に広い家についての反省文でも書いていただきたいものである。 「荷物持つよ?」 「大丈夫だ。」 「開けて匂い嗅いだりしないって!」 その発想が出てくるのが怖いんだよ。 言う必要があったか? 気遣いの出来る心優しい佐々木のままでいてほしかった。本当に。 「おっじゃまっしまーす!」 ぴょこんと跳んだ拍子に履物を脱げる佐々木と違い、俺はゆっくりと腰を下ろしてベルトを剥がして剥がして剥がす。 解放された足首を体育座りのまま眺めてみるも…やっぱりまだ腫れていた。 それにしても…先日に続き、今日まで。 とてもまともな思考を持った大人のする事とは思えない。 夜遅くに高校生を家に連れ込み、挙句泊めるなど言語道断。 ただ、ホテルに連れ込ん…連れ込まれた?よくわからんな。それに比べればこんなもの、ほんの虫けら程度の罪だ。 …ってどこに自信を持っている。 嵐の吹き荒れたあの日から、数えてみればほんの一月も経っていないというのに3度も人を家に上げるなんて。 それも同じ人間ばかり…佐々木だけを。 まるで手の早いヤリチン野郎じゃないか。 無論、俺から手を出した事はない。出される方が俺なんだから。 弱みを握られているだとか、怪我をさせてしまうかも、だなんて言い訳をして彼を一向に拒めない、俺なのだから。 「相変わらず身長差すげー。」 「…うるさい。」 俺とまともに話すようになってまだ日は浅い癖に、ここまでイジれるのはもはや才能だぞ。 大人に可愛がられる方法をよく知っている奴だ。 その割には法月に対して刺々しい印象だったが。 「竹内さんがー、俺に?謝りたい事あるらしいし?とりあえず聞きましょうかねー??」 リビングに辿り着き、家主より早くソファに腰かけた佐々木はわざとらしく天井に話しかける。 朝程怒っているわけでもなく、その後送られてきたメッセージ程弱気な姿勢でもなく。 普段通りちょっと意地悪な顔をした佐々木と目が合えば、思わず身体が強張って。 「………ぁあの…まず風呂に行ってきても良いか?」 「えー…んー、しょうがないなあ。凸らないように頑張って耐えます!」 「それは本当に頼むぞマジで。」 「うい!」 元気の良い返事に甘え、またもや先送りにしてしまった状況説明と謝罪。 他の誰でもない自分自身がじわじわとプレッシャーをかけていくお陰で、全力疾走真っただ中の心臓が痛い。 風呂から出たら、今度こそ。 法月との関係において誤解させている部分も大いにあるだろう。世話をかけた事だけでなく、そちらもきちんと説明しなければ。 ……露天風呂での事は、まあ…なかったという事で。 ──頭から、まだ温まり切っていないぬるま湯をかぶって目を閉じた。 やっと落ち着ける時間。 色々とありすぎてパンク寸前だった脳も冷静さを取り戻す。 思い出すのは、先日佐々木が家に上がり込んできた時の事。 その時は追い出すように帰してしまったが、今日はゆっくり話せるといいな。 ゆっくり、話して…気持ちを伝えたら 佐々木はどんな反応をくれるだろう。 ……ん? 俺は何か、大切な事を忘れていたんじゃないか。 “もともと恋愛対象は女だと思うんスけど 今好きなのは男で…。 竹内さん、どう思います?そういうの。” “………どう思うも何も…。” 俺は…俺、は ──そうだ。 “応援は…する……。” 言ってしまったんだった。

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