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第184話
〇ーソンの店員…もとい松井さんの練ったプランは素晴らしいものだった。
普段の俺の口数から、積極的でない事やある程度の性格は把握してくれていたのかもしれない。
初めに指定されたレストランでランチを終えると、続いて水族館、買い物。イベント事も調べてくれていたらしく、ショッピングモールのロビーで開催されていたゲストライブを遠目に見る事も出来た。誰かもわからなかったが、客の集まり方からして結構知名度のある芸能人なのだろう。
ふと脳裏に佐々木が過るたび、上の空だのぼーっとしてるだのと突っ込みを入れられたが、社会人として嫌でも身についてしまった営業スマイルで回避した。
そして日は沈みかけ、そろそろお開きというタイミングで悲劇は起こる。
ようやく松井さんと二人きりにも慣れてきて、明日の互いの仕事や行きつけの料理屋の話をしながら電車を待っていた。
停車したそれからぞろぞろと出てくる人々。その中にひときわ目立つ赤い髪の男と、隣の青髪。良くもない目じゃまともに見えやしなかったが、何故か青髪の佇まいにはすごく見覚えがあって。
近づく影、聞こえてくる声。
ピントの合わない絶望的な視力でも確かに捉えられたのは、赤髪とお揃いの飾りを鞄にぶら下げた佐々木の笑顔だった。
「な、んで…佐々木ッ。」
扉は閉まり、行き場を無くした俺はその場に立ち尽くす。横で不思議そうに電車を目で追う松井さんなんか気遣う余裕はもはや無い。
瞬間的に赤髪が佐々木の想い人なのだと脳が認識すれば、これ以上視界に映し続ける事は不可能だった。
だから、逃げた。
人目も憚らず、ぶつかった他人に罵声を浴びせられようが見向きもしないで。階段を駆け上がり、ついさっきくぐったばかりの改札を飛び出しても尚走り続けた。
佐々木だった。髪の色、違ったけど。きっとあの子と色も合わせたんだろう。腰のあたりで揺れていたキャラクターのチャームは2つでセットなんだ。俺だって知っているくらい有名なんだ。いつだって2人で1つ。髪と言いそれと言い、もう俺の入る余地はどこにも無い。佐々木は俺の事なんか、もう一生…見てくれない。
重たい足に鞭を打ち何とか地上に出た途端、今までの佐々木の笑顔や怒った顔、怯える顔も寂しそうな顔も全部全部思い出した。
あんなに近くで見ていた彼が、遠くて、届かない。込み上げる涙を必死に押し隠す。それでも呼吸は乱れ、息苦しさは増すばかり。
あぁ、そろそろ何処かに行ってくれただろうか。あの場から消えてくれただろうか。
松井さんに呆れられるのは承知だ。もしもまだ彼女がホームで待っていてくれたのなら、電車代をさっさと渡して別々に帰るつもりだ。詮索されるのは好きではないから。
くっそ、格好悪いな。ただ片思いが終わっただけなのに。恋が叶う事は無かったという現実を見ただけなのに。
何ともガキくさい有様だ。
急激な運動によりガクガクと震える膝に気付き、ようやく足を止めた。蒸気が昇って息はしづらいし顔が熱くて堪らない。喫煙所でも探して一旦落ち着くべきだ。そう思い、駅の入り口へと振り返った時だった。
「…てえぇええ待てコラァァアアアアアアっ!!!」
「っ?!?!」
恐ろしいスピードで叫びながら一直線に走る人影──。
「なんて足してんだよ逃げ足速すぎんだろバカ畜生クソ野郎おおお!!!」
その正体はありとあらゆる暴言を吐き散らかし、身一つでこちらへ向かってくる青い髪の男だった。
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