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第26話 セックスの意味

 槇を見返す白緑(びゃくろく)の瞳は潤んで揺れている。  嫌な気持ちもあるくせに、期待しているその色は槇の欲情に油を注ぐようなものだと学んで欲しいものだと思った。 「(せつ)が悪い」  人のせいにして。馬鹿みたいなのに、自分のこれから行う行為を正当化したいだけだった。  一気に野原の身体を引き寄せてから畳に押し倒した。さっきまで飲んでいた日本酒の瓶が音を立てて転がる。 「だめだ。実篤(さねあつ)。……迷惑になる」  否定の言葉だが、それは説得力もないほどか細い。  ――本意じゃないのだろう? 「おれがこんなことに使うのだって、女将さんは想定内だ」 「嘘」 「嘘じゃない。――ただし大きい声は出すなよ。他の客もいる」  そっと野原の口元を左手で押さえながら、右手でワイシャツのボタンを外す。 「んんっ」  抗議の声なのだろうが、それは逆効果だと理解して欲しい。槇の瞳の色は欲情が色濃くなった。  自分の下で、いつもとは違い抵抗するような仕草をする野原は、槇を刺激すると言うことを理解するべきだ。  シャツをまくり上げて白い肌に触れる。 少し焦らすようにそっと触れそうな、それでいて触れないほどの微妙な加減で撫でてやる。 「……っ」 「声出したい? くすぐったいの?」  首を横に振る野原。目元が赤らみ、生理的な涙が溢れそうな様を見るだけで、彼が感じ入っていることはわかったを  なのに――素直じゃないんだから。  槇は意地悪に口元を歪ませてから、更に野原が弱いところを刺激する。肌を撫で上げていた手のひらで、乳首を転がしたのだ。 「ッ……んんっ」 「うっとりとしてきたじゃん。いい顔だ。雪。嫌じゃないだろ?」  野原の目の縁から涙がこぼれ落ちた。 「可愛すぎるだろ……」  上手くいかなかった。そのやり場のない苛立ちを解消したい。  じっと槇を見上げていた野原は瞳を閉じる。自分を受け入れてくれるらしい。  どんなことをしても野原は、結局自分を受け入れてくれるのだ。  槇は知っている。  口元を押さえたまま、胸を弄っていた手を下半身に持っていくと野原の腰が跳ね上がった。 「料亭でなんて唆られる」  ベルトを外してから、一気に手を差し込み、目的のものを握り上げた。 「ッ……ッ!」 「なあ、雪。お前、本当に誘ってんの? おれ以外の人間とこんなことするなよ」 「んん……っ」  根元から先へ、親指と人差し指の輪っかで扱き上げると、躰がゾクゾクと震えている様が見て取れた。静かな部屋に不自然な水音と野原の息遣いだけが充満していく。  ――気持ちいいんだ。雪は。言葉では言えなくても、躰は素直なんだから……。 「ああ、おれも気持ちよくなりたい」 「……」  口を押さえていた手を離し、それから槇は自分を取り出した。  それは、野原の姿を見ているだけで触れてもいないのに大きく膨張し、漏れ出した液体で卑猥に光っていた。 「実篤……」 「ほらこんなに。我慢できるわけないだろ?」  これから起こることが予期できて、脳内で先行してその感覚が再生され始める。  ――早く。早く気持ち良くなりたい。  自分もそうだが、野原も確実に同じ気持ちであると認識した。 「実篤……」 「入れて欲しいだろ?」  絡み合うような視線を交わすと、野原がそっと手を伸ばして誘うように求めてくる。 「早く……」  槇は野原とのセックスが好きだ。いつも言葉にしない野原の気持ちがわかるからだ。    彼は自分自身の気持ちすらよくわかっていない。だから自分への気持ちを口にできない。  しかし情交の最中、野原は槇を求める。それはきっと「好き」ってことだから。  野原が言っていた。 『本で読んだ。セックスって、普通は異性同士の間で行われ、お互いの信頼関係を結ぶ良い行為。人間は子孫を残すために絶対的に必要な行為である。――ただね。同性のおれたちの行為にはどんな意味があるの? 子孫を残すことはできないよ』  ――雪との関係を確固たるものにすることはできるのだろうか?  肉を割って膨張した槇を受け入れた野原の体全身が震えた。

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