子供の頃、親に連れられて親戚の結婚式に参加したことがある。 　それは教会の結婚式だった。 　真っ白なウェディングドレスを着た花嫁が父親にエスコートされ、粛々とバージンロートを歩いて花婿の手を取る。神父の前で誓いの言葉を述べて指輪を交換し、集まった友人達から祝福のライスシャワーを浴びて幸せそうに微笑んでいた姿。 　結婚式に参加した女の子達は、花嫁のウェディングドレスを憧憬の眼差しで見つめていた瞳が印象的だった。 　男の子だった自分にはウェディングドレスはぴんとこなかったが、隣にいた従姉妹が「花嫁さんのドレスが白いのは、花婿さんの色に染まるからなんだって」との言葉に、なぜか衝撃を受けて体が痺れたことを覚えている。 　思えば――あれが“目覚め”だったのかも知れない。 　密やかに種を撒かれ、誰かに従いたいという欲望を結実させたあの日。 　「幸せになってね。ご主人様に従い仕えること、それが君の喜びなのだから」 　艶やかな黒髪をゆるく巻き上げ、熟れた林檎のような唇を持つ美しい男が嫣然と微笑んだ。大胆なほど背中の開いた赤いマーメイドタイプのラバードレス姿には色香と気高さがあり、“彼”によく似合っている。 　だが見目麗しくても、顔だちと声は男の物と疑う余地もない。 　美貌の彼は女装家なのだ。 　この倶楽部のオーナーであり、倶楽部の頂点でもある彼は、幼子に噛んで含めるように自分に言い聞かせてくる。その言葉を聞きながら高樹知寬(たかぎともひろ)は、子供の頃に見たウェディングドレス姿の花嫁を思い出していた。 　花嫁ではなく、さらには男でありながらも今の自分は限りなくそれに近い。 　相手に染められるための白い衣装、誓いの言葉を吐くための儀式、幼いあの日に見たようなそれらをも待っている。 「それでは行きましょうね。君のご主人様が待っているわ」 　ラバードレスの男は、赤いエナメル手袋を嵌めた手に持っていた鎖タイプのリードを掴む。それは知寬の首輪につながっていた。 　観音開きの扉が開けば、そこはＳＭ倶楽部のショーステージが知寬を淫靡な空気で迎えてくれる。 　知寬は数日前までは、ここで働くキャストの一人だった。 　被虐趣味を見抜かれてバイトを始めたのは3年前。いろんな客を相手にしたと思う。今夜は加虐趣味の客の中でも、特に相性もプレイ趣味もよかった男の“隷属”となる契約を結ぶ日なのだ。 「……あ、ぅう……」 　ずらりと並んだ加虐趣味側(サディスト)の客とキャスト、そして彼らに従う被虐趣味側(マゾヒスト)の客とキャストが無遠慮な、あるいは蔑んだ目で知寬を見下ろしている。 　女装家のオーナーに鎖を引かれて先導されながら、ステージまでの花道を四つん這いで蹌踉めきながらも知寬が進めば、ひらりと焼けた肌を覆う精緻なレースが揺れた。 　水泳を嗜んだ筋肉質のアスリート体型なのに、身につけているのは女物の白いベビードールと白いガーターストッキングだ。女装が似合うオーナーと違い、羞恥プレイの一環としてわざと似合わない格好をさせられているのは明白だった。 　だがその真っ白な色は、妙に淫らでありつつも清楚な禁欲さも併せ持っていた。 　まるでバージンロードを歩む花嫁のように。 「おやおや。まだ始まっても居ないのに発情期に入ったらしいぞ？　見ろ、雄のデカマラを欲しがってぷりぷりと尻を振っていやがる」 「チンポを強請らせたら上手な子だったものなぁ。チンポさえ有れば一日中喜んでいた淫乱じゃないか」 「それどころか露出好きの変態さ。前に同伴を頼まれて尻にローターを三つも飲み込んできた奴だからな。そのまま満員電車のローターで尻をぐちゃぐちゃにされてイき狂いやがって」 「誰かと思えば、子供達が遊ぶ公園の公衆便所で入れ替わり立ち替わりチンポをくわえ込んで、真っ昼間に肉便器になったようなクズじゃねえか」 　知寬を買った事がある客達がそんな言葉をぶつけてくる。それに追従してあざ笑う他のキャストや客達が鼓膜や肌に突き刺さった。 　むろん、被虐趣味の知寬へのご祝儀な言葉責めだった。 　恥じ入りながらも、左右に割れた人の間を四つん這いで歩き続ける。ステージの中央には彼の“専属のご主人様”になる、 富村真嗣(むらまさつぐ)がメガネを指で押し上げて知寬を待っていた。 　一昔前の公務員のような地味で冴えないひょろりとした容貌だが、露出を始めとする知寬の趣味と完全に合致している得難いご主人様だった。 　今夜あのステージで見届け人達が見守る中、結婚式のように隷属の契約を結ぶのだ。 　ステージへ向かってゆっくりと四つん這いで進みながら、知寬は熱の籠もった瞳で真嗣を見上げた。 　神経質そうな細い指が眼鏡のブリッジを押し上げ、レンズの中にある一重の瞳は冷たく知寬を見下している。 　その瞳に見られただけで知寬の股間が疼き、膨れた陰茎の先端がステージの階段に当たるほどだった。 「く、ゥ、ぅ……っ」 　亀頭が階段に当たってビクンと引き締まった尻が跳ねる。その様に真嗣は眉間に皺を寄せ、見届け人達は哄笑して知寬を侮蔑する。 　冷ややかな視線と嘲る言葉に晒され、股間の疼きはますます耐え難いものになっていく。 　熱い陰茎が当たる数段しかない階段を登り終えた頃には、尿道口からは糸を引くように先走りが滴っていた。 「やだわ。階段がびしょびしょね」 　点々と付いた階段のシミを見て、女装家のオーナーが柳眉を潜める。尖ったオーナーの声に真嗣の眉間の皺が不機嫌そうに深くなっていった。 「ご主人様の前で粗相をして恥ずかしくないのかしらね。富村さんは几帳面できれい好きな方よ？　お前のだらしないメス汁で富村さんの靴底を汚す気なの？　――――すぐに掃除しなさい。」 　ハスキーなオーナーの声に知寬の尻が跳ねた。 　躊躇う余地はない。四つん這いのまま階段を下り、衆目の前で瀟洒なレースの白いベビードールから引き締まった尻を晒して階段に顔を近づける。そのまま自分が汚した階段を舌で舐めとって笑われながらも掃除をして見せた。 「こんな子で良いのかしらね。お行儀がよくないもの」 　憂えるハスキーな声に少し甲高い神経質そうな声が絡む。 「駄犬を躾けるのも務めだ。問題は無いな」 　オーナーも真嗣もまるで知寬は無価値であるような物言いだが、今日の立場も展開も全て互いに理解と合意があってこそだ。ある種のプレイの一環なのだ。 　会員制ＳＭ倶楽部“名無し(ノーネーム)”の店内では、非日常の享楽に浸ることが許される。ここでは理性も常識も捨て去って秘された構わない場所だった。 　二人の出会いも“名無し(ノーネーム)”だった。 　知寬はＭキャスト、真嗣はＳ客として紹介され、プレイ内容と趣味のマッチング相談から関係は始まったようなもの。 　被虐、露出、乱交、この辺りで趣味が合い、何度かプレイを重ねて今日から正式に隷属契約を結ぶことになったのだ。 「階段は綺麗になったみたいね。――――では富村さん。こちらの駄犬をお渡ししますわ」 　オーナーが鎖のリードを真嗣に手渡す。鎖を手の中で確かめるように握ってから、少しだけ満足そうに微笑んだ。 　言葉遣いやプレイはどうあれ、ＳＭは互いに信頼関係が無いとうまくいかないが、この二人なら大丈夫だろうとオーナーも頷く。 「今日から俺がお前の主だ。俺の言うことには絶対服従。俺が望めばどんな場所でも尻を差し出すメス犬になれ」 　鎖を引かれて知寬が呻いた。首に掛かる負荷と苦しさが――――嬉しい。 「……はい。ご主人様」 　気がつけば客達に尻を向けた状態で、真嗣に向かって土下座していた。 　その短い言葉に堪えきれない歓喜が湧き上がる。誰かに従い。その者に染められる喜びは幼い頃からずっと自分の根底に合ったのだ。 　 「頭の位置がまだ高いだろうが。もっとメス犬の自覚を弁えて床に頭を擦り付けろ。お前の無様な格好を皆様に見て貰うんだ」 　ごつっと後頭部を踏まれ、床にのめり込むそうなほど床に額が当たる。頭に感じる靴の重みに、気がつけば知寬は尻を浮かせてくねらせている。 　細マッチョと言われるアスリート体型に真っ白なベビードール姿で剥き出しの尻を客達に向け、土下座する格好を見てクスクスと忍び笑いが漏れ始めた。 　加虐が趣味の男達からは「チンポの嵌め穴が丸見えだぞ」だの「主人を前に他の男に尻を振って誘うとは淫乱が」などと哄笑され、そのパートナーである被虐のネコ達からは「僕、ご主人様の前であんなにみっともなく他の男を誘えないなぁ」だの「ご主人様じゃなくてもいいなど最低だな」と嘲笑される。 　これらはご祝儀言葉だが、それでも調教された体は反応してしまうのは被虐のサガか。 「……よくも人前で恥をかかせたな」 　知寬の頭を踏みにじりながら、眼鏡のブリッジを中指で押し上げて真嗣が押し殺した声で呟く。不興を買ったと怯える知寛の耳に、冷ややかさの中に愉悦を含んだ声が降ってくる。 「まぁいだろう。今日はお前のメス犬ぶりを見て貰う為に、わざわざ来て下さった方々の言葉だ。有り難く拝聴するがいい。――そのお礼代わりに、皆様にキャンドルサービスでもしてみるか」 　真嗣の言葉を皮切りに、ステージ上に人が来る気配がする。だが真嗣の許可なしに顔を上げることは許されない。大きな音と何かを固定する金属の重たい音。 　しばらくしてから物音は止み、真嗣以外の人の気配もステージ上から去って行く。そこでようやく顔を上げる許可が告げられた。 「……あ、……ァ……」 　顔を上げた先にあるのは、扇状のステージの中央に固定された拘束板だった。 　X状の拘束板で下の部分が短いのは、膝立ちになる高さにしてあるからだ。黒いビニール張りの拘束板を見て顔を上気させた知寬の髪が掴まれ、這いずらせるように拘束板に連れて行かれて膝立ちになるように命じられる。 　呼吸を乱しながらX状の拘束板に背中を貼り付ければ、真嗣が片腕ずつ引っ張り上げて万歳をする形で左右の腕をベルトで固定してしまう。拘束板の下の方では膝上が同じように固定されていた。 　日に焼けたアスリート体型でありながら、肌が透ける生地で作られた白いベビードール姿を見られる恥ずかしさと、そこから生まれる快楽。それは白く薄いベビードールのレース部分を押し上げ、知寬の陰茎が勃起している事からも知れるというもの。 　膝をついた磔刑のような格好で勃起した格好を衆目に晒され、知寬の呼吸はどんどん荒くなっていった。 「誰が勝手に発情しろと言った」 　真嗣に靴の先でベビードールのレースを捲り、先走りまで滲ませた知寬の股間が晒され、衆目を集めたことで鈴口から淫らな涎が滴り落ちてしまう。 　その我慢の効かない様子を叱るように、知寬の裏筋を真嗣が爪先で蹴り上げて身の程を思い知らせてきた。 「ひ、ぎィィッッ」 　拘束板に張り付けになったまま、急所を蹴られる痛みに悲痛な叫びを上げる。小突かれた衝撃で知寬の陰茎がぶらぶらと揺れて、壊れた玩具のような有様に見届け人達の笑いを再び誘った。 「……だ、だらしない……俺、の……メスちん、ぽに……躾、あ、ありがとう、ございまし……た……っ！」 　 　躾されたら感謝する。それが知寬が仕込まれた態度だ。今はまだたまに忘れてしまうが、そんな駄犬をもご主人様である真嗣が躾け直してくれる。それ思うと心と体が昂ぶった。 　淫らに腰をがくがくと震わせる知寬の横で、真嗣が手にしていたのは真っ赤な百目蝋燭だ。 「さてキャンドルサービスと行こうか。皆様が楽しむようにスケベ声を張り上げろ。いいな？」 　ステージの外にいる客達が注ぐ熱の籠もった視線に、知寬の肌は淫らがましい汗を刷いてしっとりとした艶を見せつけていた。 　X状の拘束板によって胸は全ての目に晒すほど詳らかになっている。引き締まった胸筋を覆う瀟洒なベビードールの胸には、精緻なレースで編まれた見事な薔薇の意匠があった。 　真嗣はその薔薇の花びら部分を二・三度ほど撫でてから、乱暴に花を手折るように薔薇の部分を掴んで引き毟ってしまった。そこは仮留め程度に薔薇を添えていた部分。薔薇が無くなった部分は丸い穴が開き、知寬の乳首部分が卑猥に露出する仕組みだった。 「触られてもいないのに、もうガチガチだな」 「んッ、ヒィッッ」 　露出した乳首を乳輪ごと捻るように摘ままれて悲鳴が出た。 　期待だけで固くなった乳頭を爪で潰した真嗣は、知寬の固くなった乳首に触れて呆れた声を漏らす。 「おい、この勝手に勃起したいやらしい乳首はどうなるべきだと思うか言ってみろ」 　乳首を引っ張られた痛みは、そのまま快楽へ換算された。腰を突き上げ、濡れた亀頭を震わせながら必死に声を絞り出す。 「お、俺の、……勃起、ちくびッ……躾けて、くださ……んぁッ、んひぃッ」 「そうだな。勝手に勃起するような淫乱な物は躾けねばならん」 　固く尖った乳首を親指の腹で潰した真嗣が、これ見よがしに真っ赤な百目蝋燭に火を点した。小さな火でもふわりとした熱が過敏になった肌に触れ、知寬の期待が炎のように高まって全身が淫らに燻ってしまう。 　引っ張られた刺激と被虐の喜びで尖った乳首を自ら差し出すように胸を反らし、真嗣を見上げる瞳には媚びと期待と信頼があった。 「そら、躾の時間だ」 「……あ、……ァっ……ひ、ひ……ッッ……ひィィッ！」 　真嗣が高く掲げた赤い蝋燭。それを傾ければ、溶けた真紅の雫が知寬の胸へと降り注いでいく。 「あぁっ、アぁぁーッッ……ち、くび……っ……溶け、る……っ」 　この赤い蝋燭は過剰に火傷をさせない低温蝋燭だ。それでも感じる熱さは本物で、熱さのあまりに知寬は不自由な姿勢で身を捩り、食いしばった口元からは涎を垂らして躾に耐えようとした。 　ぽつぽつと健康的な肌に落ちる赤い蝋は、落ちた瞬間から冷えて固まり、悶える知寬の肌を汚して客達の目を楽しませる。 「なんだ、躾けて欲しいのは乳首だけじゃないようだな」 　左右の乳首が赤い蝋に覆われ、乱れた呼吸で蝋燭責めに耐えた知寬の股間を見た真嗣が冷ややかに笑った。ベビードールの薄い生地を押し上げ、腹を打つほど反り返った陰茎を見たせいだった。 「しょうが無い奴だ。――メスチンポも躾けてやろう」 「……あ、ひ……ま、まって……そ、こは……ぁっ――ヒグゥゥッ」 　下肢を襲う熱さから拘束板に何度も自分の後頭部を打ち付けて、知寬が苦悶の悲鳴を上げる。陰茎の竿の部分は赤い蝋で汚されていたが、それでも苦痛から萎えることはなかった。むしろ腰をガクガクと震わせて感じているようですらある。 　快楽に変える姿に真嗣が語気を強めて蝋燭を吹き消す。蝋燭の代わりに手にしたのは乗馬鞭。 「化粧直しをしてやってもこのザマか！　とことん駄犬だな、貴様は！」 　赤い蝋燭塗れになった知寬の乳首を鞭の柄で小突けば、哀れを誘う啜り泣きが辺りに響いた。 　加虐や被虐の趣味もない人間なら同情し憐れむだろう。 　しかし加虐趣味の者は愉しげに笑い、被虐趣味の者はうっとりと興奮する。 　ここはそんな空間なのだ。 　ステージ上で繰り広げられる知寬の痴態を見ていた女装家のオーナーが、蠱惑的な紅色の唇を引き上げてステージへ上がる。 　退廃的な美貌に柔らかな笑みを湛え、知寬と真嗣の背後に立つ姿は堂々とした姿であった。見た目は女装家だが、このＳＭ倶楽部を始めとする関連会社のオーナーだけのことはある。 　彼は艶めかしいハスキーボイスで舞台役者のように声を張り上げた。 「立会人である私、各務玲樹(かがみれいじゅ)が見届けます。そこのメス犬、あなたは誰の者なのかしら？」 　その声に被さるように空気を裂く鞭の打擲音。乗馬鞭の先端は、赤い蝋で固められた知寬の右の乳首に見事に当てられた。鞭によって砕けた赤い蝋がぱらりと砕けて落ちる。 　はがれた蝋から現れたのは、殻を剥いた果実のように擬似火傷で赤く尖った乳首。 　擬似火傷でいつもより過敏になった乳首を、乗馬鞭の平たい部分を振って撫でるように叩く。 「い、ッ、ひぃっ……！　ご、ご主人、さ、ま……真嗣、様の……情けを、い、頂く……従順な……メス犬、で、すッ」 　敏感になった乳首を固い鞭で弄られ、口の端から涎を溢しながら知寬は悲痛に叫んだ。 「重ねて問うわ。絶対服従のメス犬に人権は必要かしら？」 　オーナーの声を合図に真嗣が鞭を振り下ろす。左側の乳首部分でも冷えて固まった蝋が、器用に鞭で刮ぎ落とされて全身が痙攣した。 「い……いり、ませ……んっっ！！　人権、も……、プライド、お、おぉ……オスの意地、も……おぉ……も……いりま……ッせ、んッッ！　か、下等な、メス犬っ……メスッ、い、ぬッだからぁ……メスい、ぬとして……ぇ、い、生きますっっ！」 　ひゅっと空気を裂く音が響いた。 　陰茎にもこびりついていた蝋を鞭で叩き剥がされ、膝立ちのまま腰を突き出すようにして泣き叫びながらの言葉を褒めるように打擲は続く。 「ひぎ、ッッ、ィィ、いいぃぃぃっっ！！」 「最後に聞いてあげるわ。この情けない下等なメス犬はどなたの為に生きていくの？」 　蝋が叩き剥がされ、蝋の欠片と共に先走りを噴き溢して知寬は泣きながら声を張り上げた。思いの丈を込め、ここにいる全員に声が届くようにと。 「ま、まさ……真嗣、さ、ま……まさつぐ、さまのため、に……いきます、ッッ……俺、は……真嗣さま、のッッ下等な、メス犬、です……ッッッ！！」 「よく言った！　お前はこの俺のメス犬だ！」 　真嗣の喜びと興奮の混じった声と共に、スパンと小気味よい音をたてて先走りに濡れた亀頭へ鞭が当たった。 「は、はい゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っっ！！」 　歓喜の悲鳴と共に、まるで幸福なブーケトスでもするように知寬が勢いよく射精する。そのまま何度も小さな痙攣を繰り返し、半ば白目を剥きながら不明瞭な呻きを漏らし続ける。 　一連の痴態を見ていた女装家のオーナーが軽やかに手を叩く。それにつられて客達の同じように手を叩き、後は満場の拍手となった。 「とても素晴らしい宣言だったわ。主である真嗣さんと従順なメス犬知寬。お二人の隷属契約は私達が証人よ。お幸せにね」 　結婚式の神父のように厳かにオーナーが宣言すれば、彼の瞳に促された客達が舞台に上がってくる。 　彼らはお祝いをしてやるつもりなのだ。 　未だ痙攣を続ける知寬を囲むようにサディスト達が佇立し、その傍らをパートナーであるマゾヒストの客がそれぞれの主人の股間に舌や指を絡めて勃起させている。 　彼らもこうやって同好の仲間の前で、支配と服従を宣言し服従を誓ったのだから、物事をよく知っていた。 「さあ、プレゼントよ」 　子供の頃に見た花嫁へのお祝いのライスシャワー。それを彷彿させるのは知寬に降り注ぐ男達の精液。 　瞳に、鼻に、唇に、胸に、股間にと。 　焼けた肌を白く汚され、饐えた臭いと感触に脳まで喜びで蕩けそうになる。 　たっぷりと客のサディスト達に汚された後は、大量の精液をぶっかけた男のパートナー達が、砂糖に群がる蟻さながらに知寬の肌に付いた精液をぴちゃぴちゃと嘗め回している。 　知寬の痴態に興奮した被虐の犬たちは、それぞれ自分の主に媚びるようにある者は尻を振り、ある者は自分の指で尻の穴を弄って媚態を示した。 　この後は全員が舞台に上がっての乱交なのだから、よりきつく虐めて貰おうと必死の媚びだ。 「……ずっと可愛がってやるからな。さぁ、口を開けろ、俺の下等なメス犬」 　精液を舐め取られ、巧みな舌も蠢きで半ばイきかかった知寬の前に真嗣が立つ。神経質そうな指と裏腹に、ガチガチになった太い陰茎を取り出して隷属契約後の初の命令を下した。 　ご主人様の声と匂いを感じ、知寬は再び勃起しながら大きく口を上げた。 　最後はもちろん、服従を誓った真嗣の精液を一滴も残さず飲み干すために。 　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ この後、めちゃめちゃ乱交した♡