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お兄さんと契約!?

今日は珍しく朝の仕事が早く終わり、マーサさんの家のニワトリが沢山卵を産んだからからと卵をお裾分けしてもらって、今日は朝からいい事尽くしだ。 リアムさんは卵が好きだからきっと喜ぶだろうなぁ~と、ルンルン気分で小屋へと辿り着きドアを開けると険しい表情を見せるリアムさんと………何故かデュークさんがいた。 「デュークさん……どうしたんですか?」 滅多にやって来るはずの来客……というか、リアムさんがいる事がバレちゃってる!! デュークさんの名前を聞いたリアムさんは顔をしかめ、デュークさんは意地悪そうな笑みを深める。 「ココ。こいつは誰だ?」 「あ、あの……その……」 「まさか……勝手に他人を住まわせていたのか……?」 デュークさんは部屋の中を見渡し、リアムさんが来てから増えた食器に触れ僕を問い詰めてくる。 どうしようかと悩みながら、きっと訳を話せばデュークさんも許してくれると思った僕はリアムさんを助けたと説明する。 「リアムさんは僕が仕掛けた罠に掛かってしまって、森で怪我してしまって記憶を無くしてしまったんです……。それで……怪我と記憶が戻るまではここで生活してもらおうと思って……」 「はっ。身元も分からない者を公爵家の敷地内に住まわせるなど……危ないと思わないのか? これだから学のない奴隷は……。レノー様はどうしてこんな出来損ないと主従の契約を結んだのか分からないが……レノー様もその程度のお人だったと言うことか……」 レノー様を侮辱する言葉に怒りが込み上げてくるが拳を握りしめてグッと我慢する。 ここで僕が怒ってもレノー様にまた迷惑をかけてしまう……悪いのは僕なんだから気にしちゃダメだ……。 「さぁココ。部外者には出て行ってもらうように伝えるんだ」 「待って下さいデュークさん! リアムさんは記憶が無くて帰る場所も分からないんですよ!」 「そんな事は私には関係ない! 私はこの屋敷に仕える者として正当な理由で不審者を追い出そうとしているだけだぞ? コイツの世話をしているのならば、お前が正しい判断を下すべきだと思うのだが……? 黙っていてもしょうがないだろココ。さぁ、決断しろ」 デュークさんの言っている事は間違ってはいない……けど、そんな事をリアムさんには言えるはずない。 僕がリアムさんを守らなきゃ……。 「デュークさん……お願いします……。リアムさんの記憶が戻るまででいいので、ここにいさせてあげて下さい……」 「ココ……」 僕達のやり取りを黙って見守ってくれていたリアムさんに大丈夫ですよと微笑みかけ、頭を下げて嘆願するがデュークさんは大きなため息を吐く。 「何故、奴隷のお前の願いを私が叶えてやらないといけないのだ。それに、何度も同じ事を言わせるな。お前は頭も悪ければ耳まで悪いのか? どこの誰だか分からない他人をこの屋敷に入れるなと言っているんだぞ」 僕の願いがデュークさんに届く事はなく、どうしたらいいのか分からなくなった僕は俯いてしまう……。 リアムさんを助けたいのに……どうすれば……。 「なぁココ。ココは俺の怪我が治るまで世話してくれるんだったよな?」 「え? はい……そうですけど……」 突然リアムさんは僕に質問してきて、僕はリアムさんの意図が分からぬまま返事をする。大きな体を屈めて僕の手を取ると、リアムさんは続けて質問をしてくる。 「確か、記憶が完全に戻るまで傍にいてくれるとも言っていたな……」 「はい……」 「じゃあ、ココは俺の世話をしてくれる主人って事だな」 「はい………。ん? えっ……?」 リアムさんはそう言うと、ニヤリと悪い表情を浮かべ…… 「ココ……契約成立だ」 「ふぇ?」 リアムさんの言葉の意味を理解する間もなく僕の左手の甲はチリっ……と熱を持ち、視線を手の甲へと向ければ…… 主従の契約紋が刻まれていた……。 「これで俺のご主人様はココって事だな。俺はココの所有物だから……これで他人ではないな」 「「えぇぇぇ!?!?」」 リアムさんはそう言ってニコニコしながら僕を抱き寄せる。 デュークさんは突然の出来事に口をパクパクさせて、もちろん僕も口を開きっぱなしで……何も言葉が出てこない……。 「おい。これで文句はないだろう。俺はココの従者だ。ココはレノー様の物だから、ココの従者である俺もレノー様の物って事だな」 「なっ、そ、そんな馬鹿げた話が通る訳がないだろ!」 「ん? じゃあレノー様に直接聞きに行けばいいのか?」 「それは………お前達のような野蛮な人間をレノー様に近づけることは許されていない!」 「それをどうするかはレノー様が決める事で、使用人のデュークさんが決めていい事なのか?」 デュークさんはリアムさんの言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらリアムさんを睨みつけている。 僕の頭上でデュークさんとリアムさんが言い合いをしていて……そっちも気になるが僕は自分の手の甲に刻まれた主従契約も気になるわけで…… パニックになった僕はリアムさんの腕の中でキョロキョロと落ち着きなく視線を動かす。 「くッッ………そう言うのならばお前はココと同じくお屋敷に仕えるということだな……」 「あぁ。それで構わない」 「ならば今すぐイノシシを狩ってこい。この屋敷では狩りをするのも使用人の仕事だからなぁ。いいか今日中にだぞ! もし、それが出来なければお前はこの屋敷に仕える資格はない!」 デュークさんは無理難題をリアムさんに出したつもりだろうけれど……イノシシを狩るなんて朝飯前のリアムさんは「そりゃ~大変そうだなぁ……」なんて不敵な笑みを浮かべていて……。 数時間後。 デュークさんは解体場にズラリと並ぶイノシシを目の前に、目を丸くしたまま固まっている。 その隣ではリアムさんが、これだけのイノシシを狩るのがいかに大変だったを楽しそうに話している。 「これだけいれば満足だよな? これからよろしく頼むよデューク執事長」 肩をポンポンと叩かれたデュークさんはムスッとした表情のまま「こき使ってやるからな……」と、捨て台詞を吐いて解体場から去って行ってしまった……。 「おいおい。なんだか騒がしいから様子を見にくれば……なんだこのイノシシの数は……。それに、デュークの奴が凄い顔して出て行ったぞ……」 デュークさんと入れ替わりで解体場にやってきたダンさんは、僕とリアムさんの姿を見て大きなため息を吐く。 「……デュークにリアムの存在がバレちまったったのか?」 「えっと……そうなんです。あとぉ……リアムさんもこのお屋敷で働く事になりました……」 「はっ?」 「ダンさん。どうぞよろしくお願いします。これからは隠れずに堂々と解体の手伝いができますね」 「待て待て待て……。どうすればあのデュークを納得させてリアムが使用人になれるのか説明してくれ……」 眉間に手を当てるダンさんに経緯を説明すれば途中から寡黙なダンさんがゲラゲラと笑い出してしまう。 「笑い事じゃないですよダンさん~」 「こんな面白い話、笑わずにいられるか。ココから離れたくなくて主従の契約結んで、デュークの奴の無茶な要求をあっさり片付けちまって……。おかしな奴だとは思ってたが想像以上だなお前は」 「ありがとうございます」 ダンさんなりの褒め言葉にリアムさんはニコリと笑みを浮かべる。 「じゃあ、さっそく仕事にかかるか。このイノシシ達の処理、手伝ってもらうぞ」 「はい。もちろんです」 「ところでリアム。お前は主従の契約を自分で結んだって事は……魔法が使えるのか?」 「えぇ。使えます」 「……水をだすこともできるのか?」 「もちろんです」 手から水を出して見せればダンさんはニカッと口角を上げる。 「そうかそうか! たっぷりの水で洗い流した方が臭みもなくて食べやすくなるが、水汲みが結構大変で困ってたんだ。お前がいれば上手い肉が食えそうだな。さぁ、腐っちまう前にやるぞリアム」 「はい」 「ココも量が多いから手伝え」 「は、はい!」 ダンさんに言われるがまま僕達は解体イノシシを処理し続け……終わった頃には日も暮れていた。 解体場の掃除も終え、小屋に帰り着いた時にはドッと疲れが押し寄せてくる。 一方のリアムさんは疲れた様子もなく竈に火をつけお茶を淹れてくれて……柔らかな薬草茶の香りがふわりと香る。 「ココ。お疲れ様」 渡されたマグカップに口をつけると体の中がホワリと暖かくなる。疲れていた体もなんだか軽くなった気がして、自然と頬が緩む。 「リアムさん。今日は色々とありがとうございました。あの……主従の契約なんて結ばせちゃって……すみません。僕が頼りないからリアムさんにこんな契約を……。すぐにでも契約解除して下さい……って、言いたいけれどこの契約が無くなればデュークさんに何か言われちゃいますよね……」 「そうだな……。とりあえずは俺の記憶が戻るまでは、このまま契約を結んでいた方がいいだろうな」 「そうですよね……。嫌な思いさせてすみません」 奴隷なんかの僕と結んでしまった主従契約……。 手の甲に残る契約紋を見て僕がため息を吐くと、リアムさんが優しく頭を撫でてくれる。 「俺は嫌な思いなんてしていないよ。こうやって一緒にいられるのならば、ずっとココの従者でも構わない」 「……リアムさんは優しすぎますよ。でも、ずっとはダメですよ。リアムさんの帰りを待っている人達がいるんですから」 「そうだと……いいな……。さぁココ。ダンさんから貰ったイノシシ肉を食べよう。俺はもう腹ペコだぞ」 「あ、そうですね! 今日はご飯もまともに食べれずにいたからお腹空きましたよね。すぐに準備しますね!」 「あぁ。お願いするよご主人様」 「ご、ご主人様!? そんな名前で呼ばないで下さいよぉ~」 ワイワイと話しながらいつもと変わらずリアムさんと囲む温かな食卓。 少し変わったのは僕の手の甲にある主従の契約紋……。 こうして僕はリアムさんのご主人様になってしまった。

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