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第1話

『バースに振り回されることなく、この大学で自分の進みたい道を見付けて下さい』  新入生向けのガイダンスで、最後の締め括りに教師に言われた言葉。当たり障りの無いよく聞くセリフだなと、隣にいた名も知らぬ同期と笑ったのは記憶に新しい。  男性、女性とは別に存在する第二の性。それは小学生でも当たり前のように知っている一般常識だ。  優秀な遺伝子を持ち、天性のリーダーとしての素質を持つアルファ。アルファ程優秀な遺伝子こそはないが、平均的な能力を持つバランス型のベータ。男女問わず出産能力を持つオメガ。人はこの何れかに分類される。  特殊な遺伝子というのは、そうぽんぽんと生まれてくることはないらしく、アルファとオメガは世の中のほんの数パーセントに過ぎない。特にオメガというのは個体数が少なく、希少種として扱われていたりする。  そうは言われてはいるが、身内に一人オメガがいる律にとってはオメガよりもアルファの方が珍しいのではないかと感じていた。 「でもまぁ結局は、アルファに生まれたヤツが人生の勝ち組なんだよね」   まだ肌寒さが残る春先。今年からこの大学に通うことになった音無 律(おとなし りつ)は、桜の花弁がひらりひらりと舞うキャンバス内を、少し長めの栗色の髪を風に遊ばせながら進んで行く。   世の大半はベータ。律も国のバース検査の結果はベータだった。きっとこの大学の学生も、ほとんどがベータなのだろう。  人並みに仕事をして、人並みに結婚をして家庭を作って、ごく普通のいわゆる一般的なテンプレートのような人生を送るんだろうなと……律はぼんやりとそう遠くはない己の未来を考えてみた。 「その人並みの幸せを掴むためにも、バイト探さないとなぁ」  入学から早一週間。気の合う友人も何人か出来たが、そんな友人たちは本日揃いも揃ってアルバイト。どうやら入学前にはアルバイトを決めていたらしい。  本来であれば律も大学から独り暮らしを始める予定だった。  しかし、不動産会社の手違いにより、借りる予定だったはずの部屋が他の人の手に渡ってしまったのだ。それを聞かされたのが入学式前日の話。  我ながら酷い目にあったと思う。手違いを詫びて不動産会社が代わりの部屋を探してくれてはいる……いるのだが、本格的に授業が始まる前にちゃんとした寝床を確保して環境を整えておきたい。  何せ今はネットカフェで生活中なのだから。  家具や日用品は後から買おうと、必要最低限の荷物で実家を出てきたことは不幸中の幸いだったかもしれない。 「早くベッドで寝たいな……」  大きく溜息を吐き出しながら、律はコンビニで買った食べ物を手に、本日の寝床であるネットカフェに向かった。

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