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 五階に到着したところで知樹と別れ、自室である最奥の部屋を目指した。ドアを開けると、そこにはすでにルームメイトの姿があった。聖利はひそかに息を呑む。 「よぉ、聖利。同室だって? 俺たち」  けだるげな声で言うのは海瀬來だ。身長はざっと185センチ。高校一年生の割には、筋肉質で男らしい体つきをしている。切れ長の瞳と高い鼻梁、薄い唇の端正な容貌。誰が見ても美しく凛々しい男だ。 「來、どこに行ったかと思えば、ちゃんと新しい寮に来ていたのか」 聖利は動揺を押し隠し、平静の口調で言った。 「さすがに部屋なくなっちゃうのは困るし?」 來はふたつあるデスクの片方をすでに占領している。ベッドも日の当たらない奥まった方を選択し、荷物を広げていた。相変わらずマイペースで勝手だ。 聖利は預かっていた鍵をひとつ、來に渡した。 「これから二年の終わりまでよろしく」 「あー、よろしく。でも、おまえは来年には副寮長とか生徒会役員とかで個室が与えられそうだよな」 「……僕も早く個室を与えてもらうため頑張るつもりだ。おまえと同じ部屋は気詰まりだからね」  ふたりの間に数言分の沈黙が挟まる。ふっと來が口の端をあげて笑った。 「言うね。まあ、違いない」  そう言うと來は制服のブレザーを脱ぎ、財布とスマホを手にした。あきらかに出かける様子である。 「來、この後、オリエンテーリングがあるんだぞ」  シャツの上にフード付きのトレーナーをばさりとかぶり、下はトラウザーズのまま、來はドアノブに手をかけた。 「悪いけど、聖利に任せる」 「任せるとかそういう問題じゃないだろ」 「じゃな」  來はさっさと出て行ってしまった。閉じたドア、遠くなる足音。聖利は嘆息した。  おそらく來は学園のある山を下り、タクシーなどで街場に出かけるのだろう。    まったくどうしてああなのだろう。真面目にやれば、誰より優秀な頭脳を持ち、身体能力も高いのに、いつだってやる気を出さない。あんな男をライバル視して、自分が馬鹿みたいだ。 そして……。 「あんなヤツを……、好きだなんて」  ぽつりとつぶやいた言葉は誰もいない部屋に響き、聖利を居心地悪くさせた。ああ、本当になんでだろう。なんで海瀬來なのだ。  聖利はもう丸三年、來に恋している。叶うあても、叶えるつもりもない恋を。

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