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最終話 未来

 攻防の末、敵のボスだけが取り残される状況となった。黒は一手先を読み作戦を瞬時に構築させた。今までの訓練や戦闘で培われてきた戦略の全てが現れている。手足を失い頭だけ残ったとしてもやれることは少なく、反撃すらできないだろう。  黒煙の中で黒を捉え続け、物陰から敵の頭を狙う。仕留めるのが難しい距離に居るせいで上手く狙えない。 「黒、ここからでは届かない」 「燈、狙えるか?」  耳に嵌めた小型の通信機からはノイズと返答がかえってくる。 「狙えます。ただ……黒煙……酷く」  途切れ途切れの返答でもなんとか聞き取ることが出来た。爆発の影響で立ち込めた黒煙が風の影響で視界を霞ませている。風の流れまで先読みすることは叶わなかったようだ。  燈はレーザーやスコープは使わず遠距離から攻撃している。いつぞやの訓練で『レーザーやスコープに頼りきりでは困る局面に遭遇する。夜目も利くほうが戦闘で役に立つ。ただ簡単に習得できる代物ではない』と言っていた。血の滲むような訓練と努力の末に習得した物は劣ることなく発揮されている。羨ましく思う反面、守りたい者の為に人の命を奪う手段として鍛えられた能力だとしたら俺にはそんなもの欲しいとは思えない。 「燈、やれ。確実に仕留めて見せろ」 「承知しました」  黒の合図で1発の銃声が鳴り響いた。ボスの頭部が確実に撃ち抜かれ崩れ落ちる様を俺は物陰から見つめていた。昔の黒であれば自分が仕留めることに拘っていたが、今回は協力することで終止符を打った。  翌日のニュースでは、組織の抗争で既に沈静化された事件として発表された。惨劇の痕跡が残されたままの現場は進入禁止区域として指定され住民たちは自宅に戻ることも出来ず、仮住まいを余儀なくされた。それでも命だけは助かったと安堵しただろう。  黒はそんなニュース映像を優雅に珈琲を飲みながら眺めている。何事もなかったかのようにティータイムを堪能しているが、けして無感情ではない。  数日後には亡くなったファミリーの葬儀を行う。みんなが同じ野望を志し首領と組織の為に潔く逝った。ただ一つの後悔は共に未来を歩めなかったことだけだろう。彼らの犠牲は無駄ではない。これからも組織を大きくしファミリーを増やす礎として我々の記憶に残り続ける。俺は決して忘れはしない。  ニュースで詳細を語られることはなかったが政府はある程度の内情まで把握しているだろう。罪に問うことも出来るのに何の追及も受けず、薄気味悪さを感じながらも表立って顔が出回らなかったことに少し安堵した。    

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