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第13話(終)
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俺たちオメガは、体内の臓器がきちんと形成されるのを待つため成人前の性行為を禁じられていた。
高濃度の抑制剤によって発情期は抑えられている。
番となるアルファ様が現れるまで、その抑制剤の効果は消えない。
だから俺は、一生、発情期はこないと思う。
「うわ、眩しい……」
仕事に行った両親の代わりに庭に出て洗濯物を干していた俺は、照りつける太陽があまりに眩しくて思わず目を細める。
青い空を見上げると、群れを成した鳥たちが澄んだ風に乗って飛んでいた。
「……平和だなぁ」
──あれから俺は、十三歳からの人生をもう一度生きている。
リアムが飛行機から飛び降りたと知って気を失い、目が覚めたら七年前に戻ってたんだ。
でも俺には記憶がある。
十三歳が二度目だっていう認識も、リアムとの最期の旅の記憶もあったけど、両親をはじめ周囲のみんなはそうじゃなかった。
俺だけが、リアムの功績を知っている。
なぜなら今の世は、争い事を避ける傾向にあるからだ。
カーストが存在する以上、どうにもならないと思っていた風潮が大きく変わっていた。
この世の終わりまであと三秒半だったなんて信じられないくらい、穏やかな世界になった。
「リアム……死んじゃうなんてな……」
終末時計を操作したリアムがどうなったのか……。
何となく、この世にはもう居ないような気がしていた。
リアム曰く “神の創造物” に触れた罪は重いと思うんだ。
でも、大切な思い出を二つもくれた俺のアルファ様─リアム─は、世界を救うヒーローとなって死んでいった。
こんなに格好良くて誇らしい番は、世界中どこ探したって居ない。
「──勝手に私を殺すんじゃない」
「え、……?」
風でふわふわと揺らめく洗濯物の影から、この七年何よりも聞きたかった愛しい人の声がした。
幻聴かと思った。
囚われの日々なんて送ってないのに、脳内花畑で都合の良い夢を見てるのかと思った。
「ユーリ」と二度呼ばれ、まさかと思いながら恐る恐る振り返る。
そこには、貴族を思わせる正装に身を包んだ、宝石みたいなエメラルドグリーンの瞳を持った長身の男が両腕を広げて立っていた。
「リ、リアム……リアムだ……!」
「迎えに来たぞ、ユーリ。今度はあんなにオンボロでなく、立派なプライベートジェットでな」
驚きのあまり動けない俺を抱きしめてくれたリアムが、茶目っ気たっぷりに挨拶がわりのキスをくれる。
四回目のキスが出来るなんて、思いもしなかった。
退廃した世界の時間が巻き戻った事と同じくらい、俺にとっては信じられない事だった。
「話したい事は山ほどあるんだが。その前にユーリ、私と番になる気はあるかな?」
「……ッッ! あ、当たり前だ! 俺も言いたい事が山ほどある!」
俺の返事にご満悦なリアムの手首には、腕時計が二つ、不自然に嵌められていた。
一つは、ウン千万はくだらなそうな上等な時計。
もう一つは……あの神の創造物によく似た、不気味な世紀末の象徴だった。
終
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