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第1話

 あの日、俺はこの先の暗闇に足を踏み入れる選択をしなかった。  学校の屋上。  目の前から消える肉体。  数十メートル下から微かに聞こえる鈍い音。  覗き込めば見える赤い血溜まり。 『悠、お前は生きろ』  一緒に死のうと言っていた槙斗は、最後には真逆の言葉を残して逝ってしまった。  高校生になり、着ている制服も今日から通う学校もその環境も変わった。  それでも屋上から見える空は変わらず優美で、ここから飛び降りる人を優しく受け入れてくれそうな風格すら感じる。  俺を歓迎するように背中から吹き抜ける風が心地よい。背後から聞こえる、柵がカタカタとなる音も。  勇気も覚悟も必要ない。  ただ一歩、前に進むだけ。  学校に向かう通学路を歩くように、ただ無機質に右足を空中に送り出した。  体の重心は前へ前へと重力に従い、数十メートル先にあるコンクリートの地面が見えた。  感じる浮遊感に親しみを感じる。 「槙斗……ごめん」  俺やっぱり、槙斗と一緒がいいよ……。 「なんで謝ってるの?」  唐突に浮遊感がなくなった。  視界が揺らぐ。右腕は突っ張り、右手首は締め付けられている。 「離してよ」 「嫌だよ。俺がここで手を離したら悠くんが死んでしまう」 「あなたには関係のないことだ」 「ッと! 危ないなぁ、腕を振り回そうとするなんて」  できる限り腕を動かそうとしてみるものの男の力が異常に強く、ビクともしない。  今すぐにでも落ちそうな体勢だというのに抜群の安定感だった。 「引き上げるよ」 「離してよ」 「じゃあ、俺も一緒に落ちようかな」 「ッ……なんでそこまで」 「悠くんには俺の主人になってほしいから」 「は……?」  

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