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本編
夜になり、神社の参道に沿って設けられた燈籠に火が灯る。ぼんやりと浮かび上がる朱色の鳥居をくぐり抜けると、参道に並ぶ多く出店から活気ある声が響き、その声に誘われるように参拝者が足を止めている。
「すごい人出だな。おい、迷子になるなよ」
そう言って躊躇なく手を掴んだ聡 。驚いて目を見開いた和彦 は、引っ込めようとした手を引き寄せられ、恥ずかしさと嬉しさで熱くなった顔を隠すように俯いた。
幼い頃からずっと一緒で、高校生までこの土地に住んでいた二人だったが、大学進学で離ればなれになってしまっていた。
夏祭り――もう、子供の頃のようにはしゃげる歳ではなくなり、ここにも盆と正月以外に戻ってくることはないと思っていた。そんな和彦のもとに聡からLINEが来たのは、ちょうど一週間前のことだった。
『久しぶりに会わないか? 夏祭り、一緒に行こう』
短い文章であったが、和彦は心臓が大きく跳ねてしばらく治まらなかった。コンクリートに囲まれ、夜になっても温度が下がらない地下鉄のコンコース。帰宅を急ぐサラリーマンの流れに逆らうように足を止めた和彦は、スマートフォンを手にしたまましばらく動けなかった。
聡に隠し事をしているという罪悪感はあった。でも、それを打ち明けるには、ちょっとやそっとの勇気だけでは到底無理だった。男に恋愛感情を抱いている。しかも、幼馴染みであり、いつでも一番近くにいる親友に……。
最初からそういった感情があったわけじゃない。気がついたら、聡の横顔に見惚れ、声に身を震わせ、何気なくシャツを脱いで笑う彼の姿を思い出しては自慰をするようになっていた。
ふざけて彼が抱きついてきた日などは、一晩中ドキドキして眠れなかったことを思い出す。
それは、彼と離れてしまえば自然と忘れていく、思春期特有の一時の迷いだと思っていた。でも……離れても、和彦の感情は薄れることはなく、それまで以上に聡を意識し、会えない寂しさに涙を流すまでに膨れ上がっていた。
しかし、和彦から連絡をとることはなかった。もしも今、再会してしまったら……。二度と離れられなくなると分かっていたからだ。
「うわっ! 懐かしいなっ。リンゴ飴とかまだ売ってんのかよ。なぁ、和彦っ」
あれから少し伸びた身長、広くなった肩幅。浴衣の胸元は厚く、聡が身じろぐたびに嗅いだことのない爽やかな香りが和彦の鼻腔を擽った。知らないことなどなかったはずの幼馴染みが、少し会わない間に知らない人になってしまったようで、和彦は寂しさを覚えながらも、それを笑顔で隠した。
「リンゴ飴の専門店、都内にあるよ。映えるってインスタで話題になってた」
「え、マジ?知らなかったぁ。今に思えば、あんなに甘いもの、よく食えたよな?口ん中真っ赤にしてさぁ」
無邪気に笑った聡は、背伸びをしてごった返す人越しに何かを探し始めた。爪先立ちにならなくても十分に見渡せる身長があるのに、どうしてそんなことをするのかと不思議そうに見ていた和彦だったが、不意に腰を抱き寄せられ変な声が出てしまった。
「ひぁっ!」
「どうした、和彦?」
高校生の時のまま身長が止まってしまった和彦に目線を合わせるように屈んだ聡の顔が近づき、緊張と恥ずかしさに息を呑んだ。
「な、なんでもないっ。いきなり、腰……に、手ぇ回すから……。驚いただけだから」
「ごめん。痴漢にでもあったのかと」
「俺、男だよ? 痴漢とかありえないし…」
「今どきの痴漢は男も女も関係ないっていうし……。お前、満員電車とか乗ってんの?」
「あぁ。もう慣れたけど、最初は死ぬかと思った」
「俺も」
にっこりと笑い返した聡は、再び和彦の手を握りしめると足早に歩きだした。浴衣の裾が乱れる上に、慣れない草履で人混みを抜けるのは容易ではない。和彦は必至に聡の後ろを追いかけた。
参道の中ほどまで進むと、聡は不意に脇に逸れた。明るい電球が灯る店の前に出ると、簡易的なカウンターの向こう側にいる金髪の青年に明るく声をかけた。
「リンゴ飴ひとつ!」
割り箸に刺さった姫リンゴに真っ赤な飴がコーティングされている。その飴が電球の光にキラキラと輝き、まるで宝石のようにも見える。
「一本でいいのかい?」
青年の問いに、聡は迷うことなく答えた。
「二人で食べる」
「え……?」
聡を見上げた和彦は、目を細めて薄い唇を意味ありげに舐めている聡を目の当たりにし、浅ましくも下半身が熱くなるのを感じて、また俯いた。
「ちょっと参道から離れようか。たしか……手水舎の方は人が少なかったはず」
青年に小銭を渡し、リンゴ飴を手にした聡は和彦をリードして人混みから離れていく。
長い参道の入口付近にある手水舎は、境内に設けられているものよりも小さいが、ブロンズ製の黒い龍の口から溢れる清らかな湧き水は、量も冷たさも変わることなく昔のままだった。屋根の下に揺れる紙垂が夜風に揺れている。人の目から逃げるように、手水舎の裏手に回り込んだ聡は、囲むように敷かれた御影石に腰を下ろすと、呆然と立ち尽くしている和彦に「ここに座れよ」と石を叩いた。
水桶の水滴が散る敷石はひやりと冷たい。聡と少し離れて腰を下ろした和彦の目の前にリンゴ飴が差し出される。
「はい。まずはお前から」
「え? 聡から食えよ」
「お前が食べるとこ見たい」
「なんだよ、それ……」
差し出されたリンゴ飴に舌先を伸ばす。真っ赤な飴を舐めてみると、予想外の美味しさに思わず笑みがこぼれてしまう。
「うまっ。昔食べてたヤツと全然違う。優しい甘さで……っふ?」
やや興奮気味に声をあげた和彦の唇が不意に塞がれた。舌先に残る甘さを、厚い舌が絡めとるように口内を愛撫する。息苦しさと、愛撫の気持ちよさに目を閉じて、堪えていた吐息が漏れてしまうたびに頬が熱くなるのを感じた。
長い長いキス。銀色の糸を引きながら互いの唇が離れたとき、聡が薄闇のなかで囁いた。
「甘いな……。ずっと舐めていたくなる」
「な……っ。そんなに舐めたいなら直接舐めればいいだろ? ほらっ」
リンゴ飴を持つ聡の手を押しやると、和彦はふいっと顔を背けた。明かりのない場所で良かった。顔が熱い、息が苦しい。何より……聡の方からキスをしてきたことに驚き、動揺を隠せない。指先が微かに震えている。緊張からか、それとも興奮からか。彼に気づかれないように深呼吸を繰り返していた和彦だったが、耳朶にいきなり歯を立てられ、ビクッと肩を震わせた。
「何すんだよっ」
「――もう、分かってるんだろ?」
「は? 今日の聡、なんか変だぞ。急に夏祭りに行きたいとか……。向こうにいても、祭りなんかいくらでも行ける――」
「違うんだよ」
言いかけた和彦の言葉を遮った聡は、リンゴ飴を手水舎の龍の髭に差し込んだ。割り箸が水に濡れる。わずかに差し込む遠くからの明かりが、赤い光を水面に落とした。
「お前と、ここで……会いたかった」
「聡?」
「その様子じゃ覚えてないな。俺、ここで……お前に告白したのに」
「え?」
「って言っても、告白だったと思われてなかったみたいだし、黙っていれば……今までと何も変わらない幼馴染みでいられたのにな」
少し寂し気に目を伏せた聡の横顔を間近で見、心臓が大きく跳ねた。慌てて記憶を遡ってみるが、聡との時間がありすぎて、いつ・どこでそんな話が出たのか思い出せない。全力疾走をしているかのように心臓が跳ねる。急いで記憶を見つけようとする焦りがそうさせていた。
「――恋人とか、いるのか?」
聡の声が今までとは違う、大人びたものへと変わった。和彦は小さく首を横に振ると、浴衣の裾をぎゅっと握りしめた。
「良かった。もし、いるって言われたら……俺、もうお前に会えない」
「どうして?」
「いきなりキスして……これからもっとすごいことしようと企んでるんだぜ? 友達の縁を切られてもおかしくないこと……したくてたまらない」
和彦は低く掠れた聡の声に薄い肩を震わせた。これは恐怖から来ているものじゃない。武者震い――いや、これからどんなことをされるのかという期待。
和彦はゴクリと唾を飲み込むと、聡の顔色を窺うように顔を傾けて問うた。
「何を……したいの?」
声が震える。自身が望んでいるものを与えられる期待。その反面で、妄想だけを暴走させ自己嫌悪に陥る可能性もある。過剰な期待は、裏切られた時のショックも大きい。
耳を塞ぎたい。でも、薄闇の中で黒い瞳を輝かせて自身を見つめる聡から目が離せない。
「セックス……」
高鳴っていたはずの胸が一瞬、動きを止めた。落ち着きなく視線を彷徨わせる和彦を面白がるように顔を近づけた聡は、唇が触れるか触れないかの距離で囁いた。
「俺と……ここで、セックスしたくない?」
「お前、何言ってんだよ。冗談だろ? 俺は男だぞっ」
「だから?」
「男とセックスって……あり得ないだろっ」
「あり得るとかあり得ないの話じゃない。もちろん、冗談でもない。俺は本気……」
聡は和彦の手を掴むとその場に立たせた。そして、後ろから抱き締めると、浴衣の生地の上から胸の突起を探った。
「こういうのおかしいとか思ってる?」
「聡っ。やめ……やだ! そこ、やだって……っふ」
最初は闇雲に動いていた聡の指が不意に突起をとらえ、ぎゅっと摘ままれる。その痛みがじんわりと疼きに変わり、和彦は通学途中の電車内で出会う痴漢を思い出し、細い腰を揺らしてしまった。
痴漢されたことがないというのは嘘。本当は、ほぼ毎日のように満員の電車内で犯されている。さすがに本番はまだないが、痴漢の手によって何度も達しているのは否めない。
聡を思いながら、見知らぬ男の指で自身を慰め、それで満足していた。この指が聡のものであったら……と毎日思っていた。
「うわっ。感度いいっ。お前、男と寝たことあるだろ?」
「な……ないっ」
「そのわりには、感じやすい体だな。こっちも、もう濡れてるんじゃないのか?」
聡の手が前に移動する。反射的に腿を寄せて防御するが、すでに力を持ち始めてしまっているモノは、はしたなくも透明の蜜を先端から溢れさせていた。
彼の手が下着の中へと入っていく。濡れた茎をやんわりと掴むと、和彦の耳元に口を寄せて喉の奥で笑った。
「ぐちゃぐちゃ……じゃん。女の子みたいだな。すぐに濡れちゃうなんて……」
「言うなっ。は……ずかしぃ……」
「恥ずかしがることないだろ。俺はすぐに濡れちゃう子も、すぐにイッちゃう子も好きだな」
「え……」
和彦は肩越しに振り返ると信じられない思いで聡を見つめた。彼は薄い唇に妖しい笑みを浮かべて、和彦の首筋に鼻を埋めた。
「いい匂い……。いつもの匂いだ。和彦の匂い……堪らない」
「いつも……? おい……聡?」
「なあ、知ってるか? お前、イク直前に甘い匂いがするだぜ? まるでリンゴ飴みたいな……。そして、射精しゃちゃうと、もっといい匂いを振り撒くんだ。他の奴らに気づかれやしないかとヒヤヒヤしてる。だって……俺だけの和彦だからな」
ゾクリと背筋が一瞬冷たくなった。しかし、不思議なことに聡の言葉が媚薬のように鼓膜から全身を麻痺させながら広がっていく。
毎朝、デニムの生地越しに後孔を弄ぶ長い指。その指の感触が、今自身のペニスを愛撫しているものと似ていると気づいたとき、和彦の不安と緊張の糸がプツリと音を立てて切れた。
「まさか……聡が、あの痴漢なのか?」
「誰にも触らせたくない。ずっと、ずっと好きだった。お前のこと……」
突然の告白。ふと、あれほど探しても見つからなかった記憶の扉が開いた。
中学生の時、学校帰りにこの神社に来た。そこで、聡は和彦に言った。
『その体、誰にも触らせるなよ』
確かに彼はそう和彦に告げた。当時は冗談だと思い軽く笑いながら流してしまっていたが、今に思えばあの頃から聡の束縛は始まっていた。
そして、この土地を離れ、彼とも離れたはずだった。だが、聡の束縛は和彦が気づかないところで確実に進んでいた。それは毎日のように。電車内で……和彦が密かに聡に望んでいたことを、快楽という形で……。
「嘘、だろ?」
「嘘じゃない。お前だって、俺のこと好きだろ?」
「なっ! そんなわけあるか……っ」
「もう、いい加減素直になれよ。お前が俺にラブラブ光線送ってるの、バレバレだから」
気づかれていないと思っていた。でも、そう思っていたのは和彦だけであって、聡には全部バレていた。
「だからって、痴漢していいことにはならないっ」
「俺は……許されてる」
聡は和彦の臀部を手のひらで鷲掴みながら、指に絡んだ透明な蜜を後孔に塗り込んだ。
「んっ」
指先が薄い粘膜を広げるように入り込んでくる。たったそれだけで達してしまいそうになる。和彦は奥歯を食いしばって必死に耐えた。
「あれ? 柔らかくなってる……。もしかして、俺以外の男と、した?」
「してないって、言ってんだろっ」
「じゃあさ、どうしてこんなに柔らかいの? 美味しそうに俺の指、しゃぶってるけど?」
「し……ら、ないっ! っふ……やぁ……そこ、グリグリ、いやぁ」
入口を広げるように指で円を描く聡に、和彦は声をあげた。わざとクチュクチュと小さな音を立てて攻め立てる彼の指が敏感な場所を刺激する。しかし、決定的な快感を得られる場所を弄ってはくれないもどかしさに、和彦は無意識に腰を振っていた。
「腰、揺れてる。おねだりなら、もっと可愛らしくして」
「ばかぁ! 聡のばかぁ! 幼馴染みなら分かるだろっ」
「さぁな。ちゃんと口で言わないと分からない。俺は超能力者じゃないからな」
「ふ――ざ、けんなっ。いつも……触ってん、だろ。もっと……」
「もっと――なに?」
聡の指がグッと奥へと突きこまれる。和彦のいい場所を指の腹が掠り、腰がビクンと跳ねた。
「あぁ……っ! そこっ。もっと……こす、って!」
「可愛い顔して、もしかして和彦って淫乱ちゃん? あぁ……もっと好きになりそう。処女は大事にしなきゃって思ってたけど、もう余裕ないっ」
聡が自身の浴衣の合わせを割ったのが分かった。忙しなく下着を下ろし、既に成長していたものを和彦の臀部に押し当てる。その熱さと硬さに、和彦の肌が粟立った。
「――ゴキュ」
喉の奥から変な音が出た。早く聡の剛直で体を貫いてほしい。そして今度こそ、痴漢プレイではなく聡のモノで感じたい。
「和彦のアナ。ヒクヒクしてるよ? そんなに俺のが欲しかった? 処女、奪って欲しかった?」
いつになく聡の声に艶が帯びる。その声の響きだけで腰の奥が疼いてしまう。
はしたなくも蜜をだらだらと垂らし、神聖な手水舎の敷石を汚している背徳感も相まって、それまで内に秘めていた聡への想いが一気に溢れ出すのを感じた。
もう止めることはできない。何も隠すこともない。
聡とひとつになれるなら、もう何も望まない。
「聡……。ちょ、らい」
「んー。何を?」
「聡のチ◯コで俺のなか、グチャグチャにして……。聡のものになりたい……。ずっと、ずっと、好き……だった」
和彦がそう口にした瞬間、激しい衝撃が下半身を襲った。
潤んでいた蕾を割り裂くように太く硬いものが勢いよく押し入って来る。大きく張り出した先端が和彦のイイ場所を掠りながら奥へ奥へと入っていく。その熱さと衝撃で、和彦のペニスの先端から白濁した糸が一筋滴った。
「あぁっ! くるし……ぃ。けど……き、もち、いぃっ!」
浴衣の裾を捲りあげられ、帯に挟み込まれる。和彦の白い肌は夜目にも鮮やかで、その場所からパンパンと肌がぶつかり合う破裂音とグチュグチュという卑猥な水音が聞こえ、羞恥に耳を塞ぎたくなる。和彦の細い腰を掴んだまま、それまでの思いの丈をぶつけるかのように腰を振る聡もまた、肩から浴衣がずり落ちるのも気にすることなく、汗の雫を和彦の背中に撒き散らしながら激しく突き上げた。
「あぁ……いやぁ! 奥、硬いの……で突かれて……りゅっ」
「和彦の処女ケツ◯ンコ、締まる……っ。チ◯コ、食いちぎられそっ」
「っふ、聡……っ。す、……き。好き……好き……っ」
「あぁ、可愛いっ。和彦、あんまり声出すと聞こえちゃうよ? ほら……リンゴ飴、ペロペロして……俺のチ◯コ舐めるみたいに、してっ」
龍の髭に差し込まれたリンゴ飴に舌を伸ばす。唾液をまとわせて赤い飴を舐めていると、それが聡のペニスに思えてくるから不思議だ。甘くてほのかに酸っぱいリンゴ飴。和彦の舌が真っ赤になると、聡が彼の顔を後ろに向かせて舌を絡ませる。赤い唾液が唇の端から垂れ、和彦の白い胸に朱のように線を描いていく。
「エロいよ……和彦」
「んあっ! 聡の……また大きくなったぁ」
「声でかいって!」
聡の手が和彦の口元を覆った。同時に、腰を打ち付ける早さが増し、和彦の中を抉るようにペニスが行き来する。ギリギリまで引かれ、抜かれてしまうのでないかという不安に涙目になった瞬間、最奥の壁を突き破らん勢いで突かれ、目の前にいくつもの星が瞬いた。
「っふ――ふ、ふぅ、あふぅ――っ」
止まらない喘ぎ声、それを塞ぐ聡の手。
まるで支配されているかのように思え、和彦は背筋にゾクゾクとしたものが這うのを感じた。
心地いい……。どうしてもっと早く、素直になれなかったのだろう。どうして……聡に好きだと言えなかったのだろう。
「ふ――っ!ふ、ぐふっ」
「和彦、イキそ……。お前の体ん中で射精しちゃいそう……。中に出してもいい? 処女マ◯コ、孕んじゃうかもしれないよ?」
後ろから耳朶を甘噛みしながら囁く聡の息づかいが荒い。彼にもそろそろ限界が近づいているようだ。和彦もまた、手水舎の縁に手をかけたまま背中を弓なりに反らし、聡の指の間から熱い息を漏らしている。
頭の中が真っ白になっていく。何度も首を横に振って限界を伝えるが、聡のペニスは容赦なく抽送を繰り返す。
「はぁ、はぁ……和彦、イクよ。あぁ……出る、出るっ。っぐ――イグゥ! あぁぁ――っ」
「ひっ……あ、来るっ。熱いの……来ちゃうっ。聡の精子で……孕ませてぇ。あぁ――イク、イク――! ひゃぁぁぁぁぁ!」
和彦のペニスが大きく跳ね、先端から大量の白濁を撒き散らした。同時に締め付けた内部では聡のペニスが膨張し、和彦の最奥の壁に灼熱の奔流を叩きつけた。その熱さに、和彦の薄い腹がビクビクと痙攣し、内腿がブルブルと震えた。
まるで獣の交尾のような荒々しいセックス。すぐそばでは子供達がはしゃぐ声が聞こえ、境内からは太鼓と笛の音が聞こえてくる。誰に見られるかも分からないこの場所で、想いを通わせた二人は繋がった。
汗で張り付いた浴衣が気持ち悪い。水桶の縁に手をかけたまま意識を失っていた和彦のうなじにキスが降り注ぐ。その心地よさに、うっとりしながら目を覚ますと、すぐ近くに聡の顔があった。
「いっぱい出しちゃった。責任はきちんと取る。だから……俺と結婚を前提に……」
「早すぎるだろ。まだ俺たち、まだ始まったばかりだろ」
「とっくの昔に始まってたよ。運命ってヤツだな」
「自惚れんなっ」
力なくそう呟いた和彦に反撃するかのように、聡は中に収まっていたモノを一気に引き抜いた。
「ふあぁぁぁっ」
ポカリと開いた和彦の後孔からコポッと音を立てて白濁が溢れだす。それを指先で押し込んだ聡は、意地悪げに笑った。
「家に帰るまで溢すなよ」
「無理っ」
力んだ拍子にまた白濁が溢れ、和彦はまだ小刻みに震えている内腿を寄せた。
「これはお仕置き。俺の気持ちを無下にした罰だ」
「無下になんてしてない。お前が分かりづらい言い方するからいけな……あぅっ」
上体を起こした和彦が、思わず漏れてしまった声に慌てて口元を押さえた。それを見ながら聡はニヤニヤと笑っている。捲られた浴衣を直し、胸元をきっちり合わせた和彦は、フンッと顔を背けて歩きだした。
「そんなに急ぐと漏れちゃうぞ」
「うるさい!――あぁっ。も……やらぁ」
後孔から溢れ出る聡の精液が腿を伝い、足首まで流れてくる。どれだけ出したのかと呆れるが、これが和彦に対する愛情だと思うと愛おしくなってくる。
和彦は脚をモゾリと動かしながら振り返ると、まだニヤついている聡を睨んだ。
「早く帰るぞ! リンゴ飴、まだ舐めたりない……。今度はお前のリンゴ飴……舐めたいから」
「俺の?」
「言わせんなっ! 続き、するんだろ? これで終わりとか……愛情なさすぎだからなっ」
そう言い放った和彦だったが、不意にその場にしゃがみこみ、呻き声をあげたまま動けなくなった。
「おい……和彦? どうした?」
慌てて近づいた聡が彼の肩を抱いた瞬間、ビクッと肩を震わせて小さく喘いだ。
和彦の足元には白い液溜まりができ、そこからは青い匂いが漂っていた。
「で……ちゃ、った。聡の、せーし、出ちゃった……」
顔をあげた和彦は涙目のまま聡にしがみついた。聡は空を仰いで大きく息を吸い込むと、和彦を強く抱き締めた。
「あぁ……可愛いっ! 大丈夫だから、何度でもお腹いっぱいにしてあげるから泣かないのっ。ね?」
「ホント?」
「いっぱい愛してあげる。この体は誰にも触らせないっ」
聡の腕に支えられて立ち上がった和彦は、今にも落ちてきそうな満天の星空を見上げた。
田舎だから見える景色がある。生まれた場所だから、決して離れない絆がある。そして、運命の人は身近に、いつのときも見守っていてくれる。
和彦は少しだけ背伸びをして聡の頬にキスをした。
「最高の夏祭りだな」
その言葉に聡は少し照れ臭そうに笑った。
濡れた肌が夜風に晒されて気持ちいい。でも、まだ熱は冷めないままで……。
遠くで太鼓の音が聞こえる。空に咲いた花火を見上げ、二人はにぎった手に力を込めた。
もう、離れない。
もう……想いに嘘はつかない。
「愛してるって言ってもいい?」
「当たり前だろっ」
どちらからともなく唇が重なった。暑い夏の夜。熱い二人の時間はまだ始まったばかり。
Fin
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