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長い冬と約束の春(2/10)

けれども、その日は刻一刻と迫っていた。 長い冬の時期、この国はその国土の半分以上が雪に閉ざされる。 私の住む城にも、物流が途絶えるほどではないものの、雪は静かに降り積もった。 雪の色を見る度に、彼の色とは違うと思わされた。 白く冷たい雪の色。 まっさらで綺麗なその白は、彼の色ではなかった。 彼は……ヴィルはもっと温かみのある、生成りのような白だ。 お日様のような柔らかな匂いがする、ふかふかの毛並みに、もう一度……。もう一度だけ、触れたいと願ってしまう。 雪が続く日々に、彼への想いばかりが募る。 けれど、彼が今どんな気持ちでいるのかは、考えれば考えるほどに分からなくなった。 私に……失望しただろうか。 私を、嫌いになってしまっていないだろうか。 そんなことを考えても、答えは何一つ出ないままで、ただ、どうして彼が『アンリ』を好きになったのかだけが疑問だった。 それが分かれば、もしかしたら、アンリではなくなった私の事も好きになってもらえるかも知れないと、そんな淡い希望だけを必死で握り締めていた。 長い冬が明ければ、春が来る。 春には、彼との挙式が予定されていた。 ヴィルは式の日取りまで、はっきりと決めてから帰っていた。 雪が解けたら、彼はきっと、もう自国には戻らないつもりで、来てくれるのだろう。 そんな彼に、私は……。 彼にとって最も残酷かも知れない事を、告げられるのだろうか。 式を挙げてからそれを伝えるなんて、あまりに卑怯だと、彼に手紙を書こうとして、ノクスに止められた。 秘密を文字に残してはいけないと。 不安に潰されそうな私に、ノクスは、ヴィルなら大丈夫だと繰り返し言ってくれた。 「私に銃口を向けられてもアリエッタ様とのご結婚を諦めなかったシャヴィール様が、そのくらいのことでアリエッタ様を手離すとは、とても思えません」 そう言われる度に、少しずつ、ほんの少しずつ、期待と不安を積み重ねながら。 式の日は刻一刻と近付いてくる。 ウエディングドレスは、形こそ国民の喜ぶようなものにと任せたものの、色だけは、純白よりももう少し、彼の色に近い光沢のあるものにさせてもらった。 春が間近に迫ると、肌を磨かれる時間が増えた。 侍女達は、来たる幸せを疑う様子もなく、確約された幸せを前に皆ふわふわと浮かれている。 春祭りは、挙式の祝いも兼ねて例年より盛大に行われるらしく、国民達までもが浮かれていた。 各国からの来賓に備えて、調度品のみならず、明かりや絨毯まで取り替えられて、城内も外庭も華々しく飾り付けられてゆく様に、私一人だけが取り残されているような気がした。

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