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長い冬と約束の春(10/10)
『ほら、うまくいったろ』
自慢げに口を動かしながら、たてがみのない金色の獅子は音も立てずにベルトを締めた。
そして足元の黒兎の口に、ぎちぎちに詰めていた布を抜き取る。
『……っ、私は……、納得が、いきません……』
床から身を起こそうとしている黒兎は、荒い息を整えながら、どろどろにされた自身をうんざりと見下ろした。
何が手伝うだ。お前の欲を叩きつけられただけじゃないか。と思うも、それは口に出さずに、ノクスは渋々、汚された上着を脱いだ。
『お前は、先に風呂に入ってこい。もうここは俺……じゃねーな。私だけで十分だ』
そう言って、獅子は屈託無く笑った。
全く悪びれもせずに。スッキリしたような顔をして。
ノクスはその笑顔に僅かに目眩を感じながらも、先輩の言葉に大人しく従った。
***
アリィの小さな舌に、ぺろぺろと舐められ続けていた獅子が困ったように呟く。
「……もう、その辺にしとけよ」
「どうして?」
不思議そうに聞き返されて、ヴィルは苦笑する。
「また、したくなるだろ」
「ん。また、しよ?」
アリィが屈託のない笑顔で微笑む。
――くっっっっっっっそ可愛いな!!
ヴィルが声に出せない叫びを飲み込んだ。
「っ……、でも、奥までは無しだぞ?」
「うん。だけど、少しずつ、奥まで入れてね?」
「くっ…………。何日もかけて、な??」
ヴィルが、可愛らしすぎる新妻に目眩を覚えつつ、それでもなんとか約束を取り付ける。
「ん。……わかった。じゃあ、毎日、しようね?」
嬉しそうに微笑まれて、ヴィルは絶対毎日しようと心に誓った。
二人とも今度は寝巻きだったので、ヴィルが自身の服を脱ぐ間に、アリィも自身の服を脱いだ。
「お前……、それくらいなら俺でも脱がせられるから、残しといてくれよ」
ヴィルに苦笑されて、アリィは慌てる。
「え、あれ? そういうものなの? 私、もう一回着る?」
あわあわと脱いだ服にもう一度手を伸ばそうとする薄桃色の兎を、ヴィルはそっとベッドへと縫い留めた。
「また明日でいい」
耳元で囁くと、薄く柔らかな耳がびくりと跳ねる。
慎ましやかなその唇に口付けて、舌先でゆっくりと愛撫すると、アリィの頬は桃色から薔薇色へと色を変える。
「ん……ぅ……んん……っ」
薄紫色の瞳が、うっとりと細められている。
「……可愛いな」
唇を離したヴィルに愛情たっぷりに囁かれて、アリィは背筋から蕩けてしまいそうだった。
「ヴィル……」
愛しげに伸ばされた細い手首をヴィルはべろりと舐めて応える。
アリィの窪みにそっと指を這わせると、そこは既に期待に震えていた。
ヴィルは小さく苦笑する。
これで、俺が初めてだというのだから、とんだお姫様だ。
そう思いつつ、そこへと指を沈める。
「ぁ……っ、んん……っ」
びくり、と細い肩が揺れる。
けれどその声は甘く響いた。
ヴィルは、この体が全て、俺のために開かれたのだという事実に、背筋を熱いものが駆け上るのを感じる。
濡らしてもいないのに、ぐちゅりと音を立てて、そこは二本目もなんなく飲み込む。
「ふ、う……ぅあん」
ヴィルは、アリィの感じる部分を覚えていた。
二本の指を中で軽く曲げると、爪が出ないよう気をつけながら、ゆっくりと揺らす。
爪は昨日のうちに、深爪の限界まで切って、先も丸めてあったが、指を曲げれば当然爪は出やすくなる。
「ぁああっ!!」
ビクンとアリィの細い体が跳ねる。
その反応に、ヴィルはじわりと口元を弛めつつ、そこを繰り返し突く。
「あっ、あぁっ、ぅうんっ! そこ、あぁっ! 気持ち、良くて、ん、だめぇっ!!」
突く度にビクビクと跳ねる体に翻弄されて、アリィが喘ぐ。
ヴィルの自身では分かりにくかった変化も、敏感な肉球には良く伝わった。
アリィの内側が熱を持ち、きゅうきゅうと絡み付いてくる様に、ヴィルは思わず喉を鳴らす。
アリィの耳はその音を捕らえた。
「は、ぁ……っ!、ヴィル……ヴィルの……ヴィルの、が、欲しい……よ……」
縋るような瞳で見上げられて、ヴィルはごくりと喉をならすと、それに応える。
「っ、入れるぞ……」
指を抜いたヴィルが、自身をそこへとあてがう。
「ん、入れ、て……っ、あっ、あああああああんっっ!」
ズブズブと内側へ侵入されて、アリィが悦びの声を上げた。
ヴィルはアリィのその姿と、そこから伝わる感触に、頭の奥がじんと痺れる。
「……くっ……。痛く、ないか……?」
「気持ち、いい……よぉ……っ、ん、ぁぁ……ヴィルの……すごく、いい……」
アリィにうっとりと見上げられて、可愛い声にヴィルが酷く煽られる。
「くそ……、お前はいちいち、可愛いん、だよっ」
言いながらも腰を揺らすと、薄桃色の兎からは次々に嬌声が溢れた。
ヴィルは、その細い首元が目に入らないように、アリィの耳元へと唇を寄せた。
「アリィ、愛してる……」
囁くと、アリィの内側が一層熱を持ったのが分かった。
「あっ、あんっ、わ、私、も……っ、あぁんっ、ヴィルが……ヴィルが、好きぃっ!!」
涙混じりの嬌声に近い甘い声で、愛を告げられると、ヴィルのそれにも喜びが伝わる。
どくり。と熱い物がヴィルの下半身へと集まる。
少し早い気もするが、さっきの今だ。あまり長引かせてもアリィが辛いだろう。
そう判断すると、ヴィルはその感覚に身を任せた。
「……お前の中で、イっても、良いか……?」
「うん、うんっ! き、て……きてぇ、ああっ! ああああん!!」
一回り大きくなったそれに、内側を強く擦られて、アリィが切なげに身を捩らせる。
「……イクぞ……っ」
ヴィルは、グルルと喉を鳴らしながら唸る様に告げた。
一気にヴィルの動きが早くなる。
ぐいと今までよりも少し奥に、大きなそれが割り入る。
「あっ、あああんっ! ヴィル、あんっ! ヴィルぅぅ……っ」
アリィは快感の放流に耐えきれず、ヴィルの頭にギュッとしがみついた。
「アリィ……っ」
ヴィルは一際大きく腰を振ると、何かに耐えるように、強く強く目を瞑った。
「あっ、あっ、ああああああああああああああっっっ!!!」
アリィの中で、ヴィルのものが大きく脈打ち、内壁へと熱い物が叩き付けられる。
その刺激に、アリィの内もまた、激しく痙攣し、強く強く締まった。
「あぁあぁぁああぁんんんんんんんんんんんっっ!! あっ、熱……い、の……いっぱい……っっぅぅん……っ」
ヴィルは、自身をきゅうきゅうと包み込み、ビクビクと痙攣する細い体に、アリィが達した事を知る。
「ん……ふ……ぅぅん……っ」
アリィはまだビクビクと細い肩を揺らしつつ、快感に蕩けている。
ヴィルは、アリィと共にイけたことが、なんだかとても嬉しかった。
ヴィルがじわりと口元を弛ませると、アリィはキュッと閉じていた瞳をそろりと開いて、抱き抱えたままのヴィルの頭に口付けた。
「……ヴィル……」
「……なんだ?」
思ったよりも、ずっと優しい声で、ヴィルが答える。
その柔らかな声の響きにすら、アリィの体は敏感に反応して、その内側がきゅうと柔らかく締まる。
「んんんっ、……ぅ、い、一緒に……イけた……ね……。っ、あ……、ん……。嬉しい……よ……」
時折肩を揺らしながら、まだ真っ赤な顔で、涙目で喜びを伝えるアリィの姿は、ヴィルにとって愛らし過ぎた。
「っ……くそ、お前は……可愛過ぎん、だよっ」
自分と同じ事をアリィが喜んでくれていた事が嬉し過ぎて、そんなアリィが愛し過ぎて、ヴィルは堪えきれない思いを噛み潰しつつ、グルルと低く唸る。
それと同時に、アリィの中で、じわりとそれが力を取り戻す。
「あ……あぁあっ……また、おっきく、な……っっ」
びくびくんとアリィの腰が揺れる。
まるで、更なる刺激を求めるように。
アリィが動く度、アリィから放たれる甘い甘い香りが、ヴィルを包み込む。
そのフェロモンと甘い刺激にヴィルのそれは、さらに力を増した。
「や……、あ……っ、ああんっ! ヴィルの……っ、あぁあっ、おっきぃ……よぉ……っ」
アリィは未だ締め付け続けるそこを、みちみちと音が聞こえそうな程広げられて、押し寄せる快感に涙を零す。
「あ、ああっ、ヴィル……っ。もっと……もっと、して……」
ぎゅっとアリィは抱きしめたままのヴィルへと力を込めた。
抜くべきかと迷っていたヴィルは、縋り付くように求められて、そんなアリィの中を、もう一度犯し始める。
「んっ、あっ! ぅあっ、ああんっ!!」
ぞくぞくと背筋をのぼる快感に、アリィは仰け反り甘い声を溢す。
声変わり前の高い声が、さらに高く甘えた響きでヴィルの耳元で繰り返される。
「やっ、あっ、あぁあんっ、ぁぁんっ、んんんっ!」
止まない嬌声に飲み込みきれなかった雫がアリィの口端からトロリと零れ、顎へと伝う。
「んっ、ぁん、いい……いいよぉ、ヴィル……気持ち……い……あああんっ!」
熱に浮かされたような声で、うわごとのように何度も何度も快感を伝えられ、ヴィルも否応なしに煽られ昂る。
「ヴィル……ヴィル……ぁああぁんんっっ、もっと……もっと、奥まで……お願あぁぁあん……おね、が……い……」
ほろほろと涙を溢しながら懇願されて、ヴィルが躊躇う。
「お願……い……、ヴィル……私、に……うあんんっ!」
アリィは、ぎゅうっと、ヴィルのたてがみを掻き毟るように握り締める。
全身で求められ、ヴィルは躊躇いつつも、じわりと奥へ進む。
「あぁぁあぁああっ!!」
アリィが高く声をあげる。そこへは喜びがありありと滲んでいた。
アリィの内が、ヴィルのそれをぎゅううと力一杯抱き締める。
もう離したくないとでも言うかのように。
「ぅ……ヴィル……好き……大好きぃぃ……っっ!!」
ヴィルの首元にしがみついたアリィが、涙に濡れて震える声で愛を囁く。
「く、そ……っ可愛過ぎん、だよ……っ!!」
ヴィルがグルルと喉を鳴らして苦しげに唸る。
もうヴィルは、自身の熱を留めておけそうになかった。
「俺も……イクぞ……っ」
ヴィルがぐんと腰を振れば、アリィはその小さな体ごと宙に浮かぶ。
「ああああああっ!!」
ヴィルはそれを太い両腕でしっかりと支えて、さらに激しく腰を揺らした。
決して奥まで突き入れぬよう。
けれど、アリィが満足できるよう。
ギリギリの理性をなんとか繋ぎ止めながら、ヴィルはアリィに必死で応えた。
「あぁっ、いい……よ、あんっ、きもち、い……うぁぁんっ!」
ビクビクと、ヴィルの腕の中で繰り返しアリィが跳ねる。
「うああぁん……っもっと……っ、もっと、きて、ヴィル……ヴィル……っっ」
ヴィルの首元に、アリィがすりすりと顔を埋める。
「くっ……っ」
ヴィルの眉間と鼻先に、深い皺がくっきりと刻まれる。
アリィの薄い背と細い腰を大切そうに抱き抱えたまま、ヴィルはそこへと精を放った。
「ぅ、あ……ヴィルの……」
薄紫の瞳が大きく見開かれる。
内側を広げられ、大きく脈打つそれから熱いものがアリィの中へと広がる。
「ぁあ……あつ、い、ぅ……ぁ、ぁ、ぁあ、あああああああああああっっっ!!!」
内に沁み渡るヴィルの精に誘われるように、アリィの体も一歩遅れてじわじわと、けれども強烈に収縮を始めた。
「ん、んんっ、んんんんんんんんんっっっ!!」
止まらない快感に、アリィは必死でヴィルにしがみ付く。
ヴィルもまた、一滴残らず搾り取ろうとするかのようなアリィの内側の動きに、グッと堪えるように眉を寄せた。
「……っ」
二人はしばらくそのままじっと抱き合っていた。
そのうち、先に熱の引いたヴィルが、膝立ちになっていたベッドへ座りなおす。
アリィを抱えたまま、ベッドにあぐらをかいたヴィルの腕の中で、これだけの刺激にも敏感に反応したアリィがまた愛らしい声を上げた。
「……大丈夫か?」
ヴィルの優しい声が、すぐ近くから聞こえる。
ヴィルはアリィにしがみつかれたまま、その手を解こうとはしなかった。
「んっ……ぅ……っ」
返事もできずに、まだ荒い息を整えきれずにいるアリィへと、ヴィルは優しく囁く。
「ゆっくり、落ち着いたらいい」
答えるかわりに、アリィがヴィルへと顔を擦り寄せる。
ヴィルは、新妻の可愛すぎる仕草に、どうしようもなく苦笑を漏らしながら、宥めるようにその背を撫でた。
けれど、アリィにはそんな刺激ですら快感に変わってしまうらしく、びくりと肩を震わせる様子にヴィルは手を止める。
「……ずっと、傍にいるよ……」
ヴィルの愛を込めた言葉に、アリィの内側がきゅうと応える。
ヴィルは、全てに敏感に反応する可愛い妻にまいってしまった。
仕方がないので、なるべくアリィを刺激しないように、息を潜めるようにして時を待つ。
それでも、苦笑を滲ませたままじっと黙っているヴィルの心は、溢れそうなほどいっぱいに満たされていた。
もしかしたら、自分が白い毛に生まれ付いたのは、この日のためだったのかも知れないな。
腕の中に愛しい温もりを感じながら、ヴィルはぼんやりと思う。
この、腕の中のたった一つの温もりに出会うために。
遠く離れたあの土地から、この命に巡り会うために、俺の毛は白い色をしていたのかも知れない……。
そんな、取り留めも無いことを想い巡らせているうちに、アリィは息が整ってきたようだ。
「ヴィル……」
「ん?」
「……何、考えてたの?」
尋ねられて、ヴィルは迷う。
こんな……、こんなくだらない話を聞かせてしまっても良いものだろうか。
けれど、ヴィルが返事に迷ううちに、アリィは不安を増してしまったらしく、涙でべしょべしょになってしまった顔を上げて、ヴィルの様子を心配そうに窺ってくる。
「お前……酷い有様だな」
「ぅえ?」
言われて、アリィはキョトンと首を傾げた。
ヴィルは、自分の首元にずっとしがみ付いていた新妻の、あまりの惨状に苦笑しながら、その涙で乱れまくった毛並みを繕ってやる。
優しくアリィの頬を舐めながら、ヴィルは言った。
「くだらなくても、笑うなよ?」
「うん」
「俺が……こんな白い毛で生まれてきたのは、お前に会うためだったのかもな……なんて、くだらないこ……」
「私もっ!!」
ヴィルの言葉は、力強い同意の声にかき消された。
アリィは長い耳を両方ともピンと立てて、薄紫色の瞳をきらきらと輝かせて言った。
「私も、思ってたよっ。私が、こんな薄桃色の毛色だったのも、姉にそっくりだったのも、全部、ヴィルに会うためだったのかな! って!!」
息巻いてそう告げられて、ヴィルは目を丸くした。
そして、嬉しそうにくしゃっと笑った。
肩の力の抜けたその微笑みに、アリィは、ヴィルがやっと安心できたのだと知った。
この、異国の地が、彼にとっての新たな監獄とならないように。
彼が羽を伸ばして、心を温められる場所であるように。
アリィは、自分にできることを全てやりたいと願った。
「私のところに来てくれて、ありがとう」
アリィは心を込めて告げた。
幸せの溢れ出しそうな、いっぱいの笑顔で。
ヴィルは胸いっぱいに幸せを吸い込むと、ほんの少し悪戯っぽく笑って答えた。
「もう、帰れって言われたって、帰ってやらないからな?」
「そんなこと言わないよ」とアリィがくすくす笑う。
まるで鈴の音みたいな笑い声だな。とヴィルは思う。
アリィは、真っ直ぐに自分を見つめる彼の瞳を覗き込んで言った。
「ずっとずっと……、私の、傍にいてね?」
ヴィルは今度こそ真っ直ぐな瞳で、答えた。
「ああ。約束する」
そうして、二人は一つのベッドで、まるで一つの獣のように、ぴたりと寄り添って眠った。
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