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第15話 ネガティブ勇者、戦う準備をする

 コンコンと扉がノックされ、アインが昨晩と同じように食事を乗せたワゴンを持って部屋に入ってきた。  レインズに促され、ナイはテーブルへと着く。  朝食はサラダとスープ。レインズの皿にはパンが置かれ、ナイには粥のような穀物を似たものが出された。  昨晩アインが言っていたように、ナイの体に優しいメニューを用意してくれた。  ナイはチラッとアインを見たが、素知らぬふりをしている。 「ナイ様。食事を終えたら、テオ様のところへ向かおうと思いますが良いでしょうか?」  レインズはナイのメニューが違うことには触れず、この後の予定について話し始めた。  ナイも匙で掬った粥を食べながら、コクっと頷く。  これからどうすればいいのか。  勇者の武器、宝剣を見つけるために何をすればいいのか。  この世界の歴史を知る少女、賢者テオに話を聞かねばならない。  ナイはこの世界のことも勇者のことも知らない。  レインズも伝承通りに勇者召喚をしたまでで、魔王を倒すために何をすべきか具体的なことまでは分かっていない。  まず一歩踏み出すために、テオに会いに行く。  ナイは勇者として本格的に動き出さないきゃいけないんだと、手に持った匙をギュッと握り締めた。 ――― ――  朝食を終え、ナイは昨日召喚されたときに着ていた服を再び身に着けた。 「……」  ほんの少し、手が震えてる。  戦うのは怖い。勇者にもなりたくない。  それでも、動かなきゃいけない。  ナイはグッと拳を握り締め、部屋の外に出た。 「準備は出来ましたか?」 「はい」  部屋の外で待っていたレインズはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべ、ナイと共に外に待機させている馬車へと向かった。  外にはアインが待っており、レインズが来るとドアを開けて頭を下げた。  ナイは昨日と同じ馬であることに気付き、少しだけ口元を緩ませた。また頭を撫でたかったが、レインズが馬車に乗り込んでしまったので後ろ髪を引かれながらもアインに支えられながら荷台へと乗り込んだ。 「ナイ様は馬が気に入りましたか?」 「え、あ、その。嫌いでは、ないと思います……喋らなくていいし、大人しいし……」 「よかったら、馬小屋を見ますか? うちの馬はみんな良い子たちですよ」 「えっと、はい……」  ナイは小さく頷いた。  それからもレインズは会話を絶やさなかった。話題の切り出し方や飽きさせない会話術。黙ったままの方が楽だと思っているナイも、レインズの話の振り方が上手くて色々と話してしまう。これも王子として幼い頃から社交界で培ってきたものなのだろう。  数十分経ち、馬車が目的の場所で停まった。  出入り口に座っていたアインがドアを開き、先に降りる。昨日と同じように手を引かれながら馬車を降りるレインズに続き、ナイもアインの手を借りて外に出た。  外にはすでにテオが待っていて、こちらに気付いて手を振った。 「よく来たわね」 「テオ様。連日訪ねてしまって申し訳ありません」 「いいのよ、来ると思ってたし。私もその子に会いたかったし」  テオはナイを見て微笑んだ。  見た目は少女。実年齢もその見た目通りだが、中身は何世代もの先祖たちの記憶を引き継いだ大賢者。見た目に似合わないオーラに、ナイは息を飲んだ。  昨日は余裕がなくて分からなかったが、目の前の少女からは圧を感じる。記憶だけでなく、先祖の力も継いでいるのだろう。 「入りなさい。お茶を用意してあるわ」  テオの後ろをついていき、ナイ達は彼女の家にお邪魔する。  部屋にはもうティーセットが用意され、優しい香りが鼻先をくすぐってくる。テーブルに置かれた可愛らしいカップとお茶請けの焼き菓子の多さに、ナイはこういうところは年相応なんだなと思った。 「さて。今日は何の用で来たのかしら」 「歴代の勇者が手にしていたという宝剣のことについて、テオ様にお聞きしたいのですが」 「宝剣ねぇ。どこにあるのか、とかそういう話? だったら知らないわよ」 「え!?」  あっさりとした返答に、ナイは気の抜けた声が出てしまった。  まさかそんな簡単に知らないと言われるとは思っていなかった。困惑するナイの様子に、テオは焼き菓子を食べながら話を続ける。 「焦らない。宝剣は勇者と一心同体。来るべき時が来れば、向こうから呼んでくるわ」 「呼ぶ?」 「そう。宝剣はただの武器じゃないの。勇者と共に戦う、勇者の半身のようなものよ。今はどこかで眠ってる。勇者が召喚されたんだし、そのうち目を覚ますんじゃないかしら」 「眠ってるって……どこで?」 「そこで」 「どこで?」  ナイが首を傾げると、テオが小さな手でナイの胸を指した。 「言ったでしょ。宝剣は勇者と一心同体だって。宝剣は勇者の力の源でもある。この世界に召喚された時点で貴方の中に宿っているわ」 「ぼ、僕の中に……」  ナイは自分の胸に手を置いた。  この中に、宝剣がある。そう言われても、正直ピンと来ない。魔力の使い方を教わった時のように自分の中の目に見えない力を感じ取ることが出来るのだろうか。  そう思って目を閉じてみるが、自分の魔力以外に何も感じない。 「まだ無理よ。起きるのを待ってあげなさい」 「は、はぁ……」  ナイは目を開けて、お茶を飲むテオを見る。 「安心なさい。宝剣は間違いなく貴方の中にある」 「……うん」 「不安になることはないわ。宝剣はいずれ目を覚ます。その前に、貴方には戦い方を教える必要があるわ」 「戦い方?」 「ええ。貴方は魔法や剣での戦闘を知らないでしょ。だから私が教えてあげる」  テオは愉快そうな笑みを浮かべた。  戦い方とハッキリ言われ、ナイは少し怖気付く。  しかし断るわけにもいかない。戦えなきゃ、ここにはいられないのだから。  ナイはこれから起こる魔物との戦闘を想像して涙目になりながら、テオの指導を受けることにした。

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