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第35話 ネガティブ勇者、スキルアップする

 道中も襲い来る魔物を倒しながら、森の中を抜けていく。  ナイは魔法でレインズ達の援護をしつつ、自分の方へと近づく魔物を刀で倒していった。 「はぁ、はぁ……」 「ナイ、大丈夫ですか?」 「う、うん。テオとの訓練に比べれば、意外と……」  魔物の風貌は恐ろしいが、その見た目に慣れれば冷静に魔法を繰り出せる。テオのスパルタ特訓のおかげで相手の攻撃も見れるようになった。恐怖心はまだ抜けきれないが、怖いという感情はナイにとってずっと身近にあったもの。慣れてしまうのは容易いことだった。 「おい」 「うん?」 「お前の重力魔法。罠みたいに出来ないか? 地面に設置して、敵を感知したら作動する、みたいな」 「おー……それは、面白そうだけど……感知、感知……魔法でどう式を組めばいいのかな」  アインの提案に、ナイは頭の中で設置型の魔法を考える。  戦闘経験が無かったナイには思いつかなかったが、確かに上手く使えば罠にもなる。どちらかと言えば援護向きのナイの魔法はそういうことに活かせばもっと幅も広がるかもしれない。 「敵の気配……殺気などに反応させれば、どうでしょう?」 「殺気、が、イメージしづらいかな」 「魔物特有のオーラを覚えさせればいけるんじゃないのか」 「ぼ、僕、オーラ感じる域に達してない……」  戦闘慣れしてる人たちの助言がナイにはまだ通じない。  だが罠は敵にだけ発動させなきゃ意味がない。味方まで巻き込んだらサポートにならない。ずっと罠を見張っているわけにもいかないので、上手く術式を組まないと大惨事になってしまう。  ナイは前に進みながら、頭を悩ませた。  森の中を進むこと数十分。ようやく街道に出た三人は一旦休憩を取ることにした。  道の端に座り、ナイは深く息を吐き出した。  確実に安全が確保された訓練と違い、実戦は危険と隣り合わせ。常に神経をすり減らし、周囲を警戒し続けなきゃいけないのでまだ慣れていないナイはより一層疲れてしまった。  今のうちに慣れておかないと魔王退治になんて行けない。ナイは呼吸を整えながら、二人が言っていた魔物の気配を覚えることを優先しようと考えた。 「あ、あの。魔物の気配って、どうやったら、わかる?」 「そんなの、露骨に違うから分かりやすいぞ」  そういえば、とナイは思い出した。  初めて森で魔物を対峙したときに禍々しい空気を感じた。あれが気配というものなのだろうか。  何となく嫌な感じがする程度にしか認識していなかったので、確実に気配を読み取るのはまだ難しいかもしれない。 「ナイ。私の魔力は分かりますよね?」 「え、うん。それは覚えたけど……」 「それと同じです。この世界の人は皆、大なり小なり魔力を保持しています。魔物の持つ魔力を覚えればいいんですよ」 「な、なるほど……」 「慣れていけば肌で感じ取れるようになります」 「そ、そうなんだ」  簡単に言わないでほしいなと思いながら、ナイは目を閉じた。  人のいる気配は何となく解る。それは元いた世界でも人の気配には敏感だったからだ。相手の顔色を窺って、生きてきた。  だから一度感覚を覚えてしまえば、レインズやアイン達よりもずっと遠くの気配を察知できるはず。  だがナイはまだ魔力を周囲に放つ方法を知らない。今は近くの気配を辿ることくらいしか出来ないだろう。 「……レインズの魔力、は、眩しくて、他の気配が霞む……」 「えっ! そ、それは失礼致しました。ちょっと抑えますね」  魔力には色がある。それは相手の魔法属性に影響を受けていて、レインズは白銀。アインは緋色。そしてナイは漆黒。  そして魔力光はその人の強さに応じて輝きを増す。だからレインズの魔力は普通にしているとその輝きで周りの気配を消してしまう。  ナイの魔力も完全に発揮されれば全てを闇に包み込むほどの力を秘めてはいるが、まだ目覚めていない部分もあるために表に出る力は微量だ。それでもレインズより多い魔力量ではあるのだが。 「……あ。誰か、来る」  目を閉じたままのナイが呟いた。  レインズとアインは瞬時に反応し、周囲を警戒する。目視できる距離に誰の姿も見えない。  だが確かにナイはこちらに近付いてくる気配を感じ取っている。 「……人、だと思う」  目を閉じているせいか、感覚がより敏感になっている。  目で追うよりずっと遠くの気配がナイから漏れる魔力に触れて、本人に流れてきている。  この感覚か、とナイは覚える。魔力や気配の感じ方、空気の震え。その僅かな変化を感じ取ればいい。  ナイはこの短時間で察知能力を開花させた。 「魔力弱い。悪い感じも、しない」 「遠くに人影が見えます。ただの通行人ですね」 「えぇ。それにしてもナイ、やっぱり物覚えが早いですね。何でもすぐに吸収していく」 「……でも、無心にならないと出来ないから、さっきみたいな戦闘中には使えない、かも」  ナイは目を開けて、改めて気配を辿ろうとしたが同じようには出来なかった。  戦闘中に無心になることは難しい。完全に無防備な状態になってしまう。 「そうか。だったらお前の自動防御《オートガード》と組み合わせればいい」 「……でも、カウンターに出てくる影は、見境がないって、テオが……」 「あのアインの剣を掴んだ黒い影ですね。確かに無心の状態で発動したときにどうなるのか分からないですね……」  あの時はアインの剣を怖いとナイが判断したから攻撃しようとした剣だけを消したが、目を閉じた状態であの影が発動したら何が起きるか想像が出来ない。 「とりあえず、それは今後の課題ですね」 「ん……」  休憩を終え、ナイ達は再びリーディ鉱山へと歩き出した。

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