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第46話 ネガティブ勇者、趣味の時間

 この魔法世界にインターネット紛いのものを作り出し、テオもナイも大はしゃぎだった。 「いやぁ楽しかった! ナイと一緒なら何でも出来ちゃいそう!!」 「そ、そうかな。でも僕も楽しかった……」 「あとはこっちの小型の水晶ね。念話と同じ要領で親であるこっちの水晶に魔力感知させれば情報の引き出しが出来るわ」 「この水晶に刻まれてるのが、術式?」 「そう。この式を刻印すれば、他の水晶でも同じことが出来るわ。これはナイにあげるわね」 「あ、ありがとう」  二人のテンションに付いていけないレインズとアイン。  ナイの魔力の片鱗に触れ、まだ軽く放心状態だ。  あれでもまだナイの魔力の一部に過ぎない。ナイの心の奥底に眠った魔力の内、必要な分だけをテオが引き出しただけだ。  その力は頼もしくもあり、恐ろしくもある。 「ちょーっと! そこの二人もボーっとしてないの!」 「あ、ああ……申し訳ありません、テオ様。言葉がなくて……」  レインズが申し訳なさそうに頭を下げながら二人の元へと歩み寄った。  頬を高揚させて楽しげな表情を浮かべているナイに、レインズはそっと微笑む。  彼の魔力には驚かされたが、今はナイが素直に喜んでいるならそれでいい。下手なことを言って水を差すようなこともしたくはない。 「ナイ、お疲れ様です。さすがですね」 「ぼ、僕は何もしてない……テオが、凄かったんだよ。頭の中にテオの術式が流れ込んできてビックリした」 「ええ。テオ様の魔法は本当に素晴らしいです。あれほどに膨大な量の術式を精密に組み上げられる人なんてテオ様しかいませんよ」 「そうでしょうそうでしょう! なんたって私にはご先祖様の知識を全て受け継いでるんだからねっっ。でも、ナイだっていつか出来るようになるわ。貴方だけの魔法を作り出せる」 「僕だけの……魔法」 「ええ。沢山知識を得て、色んなことを知って、積み重ねた経験が貴方を強くしてくれるわ」  テオはナイの両手を掴んで微笑んだ。  こういうときのテオは、その幼さからは想像も出来ないほど大人びた笑みを浮かべる。その表情に少しだけドキッとしながら、ナイも笑みを返した。 「そうだ。テオ、他にも相談したことがあって……」 「はいはい、何かしら?」 「魔法を使った罠なんだけど……」  ナイはリーディ鉱山へ行く途中でアインから持ち掛けられた罠についてテオに相談した。  それからも二人は魔法についてを話し合い、日が暮れるまで魔法談義を続けた。 ――― ――  その日の夜。ナイは自室のベッドに横になりながら、ずっと水晶を経由して様々な書物に目を通していた。  世界中の魔術書や、それとは関係のない物語など。時間も忘れるほどずっと読みふけっていた。  コンコン、と部屋のドアがノックされ、ナイはビックリして飛び起きた。  どうぞと声をかけると、トレイにお茶の入ったティーセットを持ったレインズが訪ねてきた。 「失礼します」 「ど、どう、したの?」 「ずっと読書しているようだったので、少し休憩された方がいいと思いまして」  ナイはテオが帰ってからずっと、何かしらを読んでいた。食事を早々に済ませ、お風呂もササッと浴びて、部屋に戻る道中もずっとモニターとにらめっこしていた。  夢中になるのは悪いことではないが、さすがに少し心配になってレインズは様子を見に来たのだ。 「ご、ごめんなさい……なんか、色々読めるのが楽しくて……」 「情報の引き出しにも多少の魔力を消費します。ナイなら問題はないとは思いますが、一応気を付けてくださいね」 「う、うん」  ナイは恥ずかしそうに顔を赤くして、紅茶を一口飲んだ。  元々本を読むのは好きだった。元の世界では学校にいる時間しか出来なかったことが、今は制限なく読むことが出来るのでつい没頭してしまった。  部屋の中でゆっくり読書が出来るなんて、夢のようだったから。 「何か気になるものはありました?」 「え、えっと。魔術書……このドワインって人の残した本が、面白かった」 「それなら私も読みましたよ。彼は独自の魔法を使う方で、魔術の組み上げ方が面白いですよね」 「うん。まるで物語を書くみたいに魔術式を組んでて、それを読み解いていくだけでも面白い」  やはり魔法の話となるとナイはいつもより饒舌になる。  レインズは自身もオススメの本を紹介したりと色んな話をして盛り上がった。  いつもはレインズに対して壁を作るナイだったが、好きなことの話をしているせいか普通の友達に接するような感覚でいた。  実際ナイに友達はいなかったが、きっと友人がいたらこんな感じだったのかもしれない。  もしかしたら、普通の暮らしをしていたら、ナイはこうだったかもしれない。  そんな想像をし出したらキリがないが、今やっとナイは本来の自分を取り戻ろうとしているのだろう。  柔らかな笑顔を浮かべるナイに、レインズは嬉しくなる。  もっと笑ってほしい。心からそう思う。

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