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第59話 ネガティブ勇者、暑さに負ける

 翌朝。  身支度や朝食を済まし、ナイ達は砂漠探索の準備をする。  砂漠地帯は広く、人が踏み入れたことの無い場所も多い。草木も少なく、同じような景色が続くため地図を見ても現在位置が分からなくなる。  だからこそ、今回はナイの察知能力が必要不可欠。  その力を発揮させるために、リオの力も必須。  二人の力を合わせて精霊の泉を見つけ出すことが今回のミッションだ。 「ナイの察知範囲のこともあるし、移動しながら探すしかないわね」 「う、うん」 「無理だけはしないでくださいね。私も手伝いますから」 「ん」  精密度を上げるためなら、確かにレインズと一緒に魔法を発動した方がいいのかもしれない。  その案も考えつつ、ナイ達は歩き出した。 ーーー ーー  照りつける太陽。それを反射する砂地。  上からも下からもジワジワと熱が襲ってくる。とにかく熱い。 「……あつい」 「口に出すな、余計に暑くなる」  容赦なく体力を奪う気温。  熱に耐性がある火の属性のアインですら、この暑さに参ってしまってる。  アインがいうには暑さと熱さは違うし、自分の魔法と自然の暑さは別だそうだ。 「この辺りで一度調べてみるか」 「は、はい」 「ナイ。先に水飲みなさい」 「うん……」  テオから水筒を受け取り、一口飲む。  カラカラの喉を冷たい水が潤してくれる。ほんの少し紛れた暑さに、ナイは両頬を軽く叩いて気合いを入れ直した。 「よし。んじゃ俺はこの辺の霊力だけを無効化する」 「無効化……って、どうやって?」 「簡単な話だ。俺の魔力とこの辺の霊力をぶつけて相殺するだけ。余計なものまで消さないように調節するから安心しろ」  リオはナイの肩に手を置いた。  それだけでこの地の渦巻く違和感、霊力の干渉を受けなくなる。  ナイは深呼吸して、魔法陣を展開させた。  レインズに教わったように、魔力を自身の目のようにする。  周辺に放った魔力を視神経に直結させて、遠くまで見ていく。  砂地以外に何も感じない。言ってしまえば、この辺りは全て砂地しかない。この何も無い景色が当分続くということが明らかになったことで、ナイは足取りが重くなりそうだと思ってしまった。 「特に、何もない、ね」 「そう。ま、始めたばかりだもんね。これからこれから!」 「テオ、元気だね……」 「昔はここで暮らしてたし、暑いの慣れてるからね」  砂漠に住むリオは当然のことだが、レインズも平気そうに見える。  王子様はこんなところまで完璧なのかと、ナイは羨ましそうにその涼しげな顔を睨みつけた。 「どうしました? ナイ」 「……暑くないの?」 「もちろん暑いですよ。ただ、なるべく口にしないようにしてるだけです」 「平気そうに見えた」 「まさか。我慢してるんですよ。ただの強がりです」 「ええー……」  強がりだけでここまで耐えられるものなのかと、ナイはレインズの我慢強さに少しだけ引いてしまった。  これはただの意地なのだろうが、顔に出さない強靭ぶりは関心を通り越して呆れてしまうほどだ。 「もう少し進んだところにオアシスがあったはずだ。そこまで行くぞー」  リオの掛け声に各々が反応する。  歩きにくい砂地に翻弄されながら、一同は前へと進んだ。  数十分ほど歩いたところで、リオの言っていたオアシスが見えた。  小さな水場にかろうじて日陰を作ってくれている木々。  そこで足を止め、一休みすることにした。 「ふぅー。さすがに砂漠探索は骨が折れるわね」 「……なかなか、見つからないね……」 「目に見えないものを見つけようとしてるわけだからね……そう簡単にはいかないと思ってはいたけど」  ナイも歩きながら周辺に気を配ってみていたが、それらしい気配はなかった。  そもそも精霊の泉が魔法のセンサーに引っかかるものなのだろうか。それすら疑問に思えてしまうほど、何もなさすぎる。 「ナイ、少し肌が赤くなってます。軽く治癒をしておきましょう」 「う、うん。ありがとう……」  身体強化が出来ないせいで、ナイの体は暑さによるダメージを受けていた。  リオがそばにいることで霊力の干渉を受けにくくなっているとはいえ、それも完全ではない。  魔力で補うことが出来ない今、ナイはこの中で一番貧弱。気をつけないと熱中症になって倒れてしまう。  このまま闇雲に進んでも体力を無駄にする。リオは狙いを絞ろうと地図を広げた。 「良いか。俺たちが今いるのがこの場所だ。んで、俺はこの辺が怪しいと思ってる」  リオが指さしたのは、現在位置からさらに西側。  地図を見ても特に何もない。ここに何があるのかとナイが問いかけると、リオはいつもの自慢げな笑みで言った。 「俺の勘だ!」

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