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第74話 ネガティブ勇者、空を飛ぶ
「テオ様。準備が整いました」
相当急いだのか、レインズの額から汗が流れていた。
その後ろにいるアインも表情はいつも通りだが肩で息をしてるあたり、かなり体力を消耗しているようだ。
「おっそーい!」
「も、申し訳ありません。王に許可を頂きに行ってまして……」
「しょーがないわね。ほんじゃ、一番近い国へサクッと飛びましょーか。南の方は転送魔法陣を置いてる国が少ないのよねぇ。場所が場所なだけに大きな国が出来ないし、そもそも住む人も少ないし」
「そうですね。こちらから連絡を取って許可を頂けたのはブロードエッド国です。デルゼッド火山までは少し距離がありますね」
レインズが困ったように笑う。
その表情から察するに、ナイが想像する以上の距離があるのだろう。それも人が住みにくい場所。足場の問題もある。
「飛んで行けたらいいのに……」
「ポッくんなら貸せないわよ。あの子は転送魔法陣のある部屋に入れないもの」
「新しく魔法陣を展開させることは?」
「そんな面倒なこと出来ないわよ。それに、あの子の主人は私。私がいなきゃ飛ばないわよ」
「そっか……」
砂漠の時はドラゴンの背に乗って楽に移動出来たから、今回も少し期待していたがそうもいかないらしい。
ふと、ナイは砂漠で思い出したことがあった。
昔読んだ本に出てきた、砂漠の町が舞台の絵本。そこに登場した、空を飛ぶ魔法の絨毯。
そしてここは、魔法の国。
大事なのはイメージ。
ナイは魔法陣を展開させて、術式を組んだ。
「え、なに急に!?」
「ナ、ナイ?」
「何をする気だ」
突然の魔法陣に驚く皆を他所に、ナイは頭の中でイメージを構築させる。
結界をイメージするより楽だった。小学生の頃に何度も読んでいた絵本。
見るからに高級感のある絨毯。それに乗って自由に空を滑空する主人公。あんな風に空を飛べたらと、思ったこともあった。
空は自由の象徴だと、ナイは思う。
空をとべたら、そんな自由をほんの少しだけ手に入るような気がする。
そう願うと、魔法陣が強く輝き出した。
ナイの魔力が形を成していき、黒い絨毯がナイの体を空に浮かせてくれた。
「できた!」
絨毯に乗って空に浮くナイの姿に、皆は口を開けたままポカンとした。
無理もない。この世界にないおとぎ話に出てくる架空の乗り物なのだから。
「す、凄いわナイ! なにこれ、絨毯? なんで飛ぶの!?」
「え、あの、空に浮く原理は僕にも分からないけど……僕の世界にある物語にこういうのがあって……」
「それをイメージしたのね!? さすがよ、ナイ! 凄い! これなら移動も楽になるわね。あ、魔力とかは平気?」
「う、うん」
「他には? 他にはなんかある?」
目を宝石のように輝かせながら、テオは空を飛ぶ絨毯に釘付けになった。
まさか敷物が空を飛ぶなんて発想が出てくると思いもしなかったレインズとアインは言葉が出てこない。
自分たちもこれに乗って移動することになるが、安定感などは大丈夫なのだろうかと不安も出てくる。
「え、ナイの世界の魔法使いは箒にも乗るの!?」
「う、うん。そっちの方がイメージはしやすいかな。僕、飛行機は映像とか写真とかでもあまり見ないし、実際に乗ったことないからイメージしにくくて……」
ナイの世界での空を飛ぶ乗り物の話に、男二人は度肝を抜かれっぱなしだ。
なぜ掃除道具である箒に跨る必要があるのだろうか。
レインズとアインは互いに困惑した顔を見合わせた。
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